巷には「予約困難」な焼肉店がたくさん存在している。口コミやメディアへの掲載など、予約困難となる要因はさまざまだ。本連載では肉バカ・小池克臣さんに早めに押さえておくべき「予約困難予備軍」の焼肉店を焼き方のポイントとともに教えてもらう。

ナビゲーターの小池克臣さん

砂町銀座で愛される老舗町焼肉「スタミナ苑」のとなりでの挑戦

今回、小池さんが紹介するのは、砂町銀座に8月オープンしたばかりの「スタミナ苑となり」。小池さんが足繁く通う、昭和25年から続く老舗町焼肉のとなり(真横)に出現したのは、3代目が新たなる挑戦をスタートさせた、異なる焼肉スタイルの店。行列必至の新鋭店の魅力を探る。

昭和の風情が残るレトロな外観は、周囲の商店街のムードに溶け込んでいる。老舗小料理店だった跡地をリノベしての開業だ

今回向かった店は、地元の人でにぎわう、煙が立ち込める焼き鳥屋や八百屋などが軒を連ねる商店街の砂町銀座。都営新宿線大島駅、東西線南砂町駅からそれぞれ徒歩15分くらいの、ちょうど真ん中くらいに位置する、地元に愛されるエリアにある。本店は昭和25年ごろ祖母が創業し、3代続く町焼肉の人気店で、隣接する焼肉弁当やキムチをテイクアウトできる惣菜屋も経営する。本店はファミリー層が中心で、子供も食べられる万人受けの味つけ。店主が「もっとディープに韓国料理と町焼肉を深掘りしたい」との思いから、新店舗が生まれた。

広々とした本店とは異なり、どこかこぢんまりとした居酒屋のような落ち着くスペース。カウンター7席と、テーブル席2卓
 

小池さん

大島まわりの焼肉を巡って、一番おいしかったので好きになり、家族でしょっちゅう来るなじみの本店。そのとなりに、居酒屋感覚で食べられる焼肉店がオープンとあって、楽しみにしていました。店主のボンジュさんとは、定期的に焼肉会をする仲。本店の肉のクオリティは間違いなく、本格的なカルビラーメンや惣菜屋のキムチも大好きです。

カウンター焼肉はおまかせコース! 本店と差別化された韓国焼肉とは?

本店との大きな違いは、カウンターを中心に客と店主との距離が近いこと。会話を楽しみながら、カウンターでは店主が焼いて出す、おまかせコーススタイルだ。テーブル席では、本店とは異なる卓上ロースターで焼くスタイル。どちらも本店と肉の仕入れは一緒だが、肉はシンプルに、小細工せず品質で勝負する。お酒に合うおつまみ感覚のサイドメニューや、いまどきにアレンジされた韓国料理などが楽しめる、居酒屋感覚の焼肉だ。昔ながらの韓国料理をベースに、さまざまな組み合わせや食べ合わせを追求する、店主のオリジナリティあふれる新しい挑戦が堪能できる。

店主の呉 奉柱(オ・ボンジュ)さん。初代の孫として生まれ、幼少から焼肉店の手伝いをして育ち、3代目店主として継承。本来は人見知りで、飲食店を継ぐ気はなかったが、いざ家業に入ってみたら誰よりも負けたくない気持ちが芽生え、焼肉の知識と技術をとことん研究。お客様に喜んでいただくことが生きがいに。自分のルーツを活かしながら、自分らしいスタイルで継いでいきたいと熱い思いを抱く
 

小池さん

いつも通っている本店との違いを見つけるのも、こちらの楽しみ方。目利きされた肉のクオリティはいいし、家庭の味のような韓国料理もしっかりおいしい。しっかり食べて飲みたくなる、お酒がすすむコース内容も充実しています。

小池さんおすすめの「オーダー必須」のメニューとは?

今回はテーブル席で、おまかせコース焼肉を堪能。コースは6,000円と8,000円の2種類あり、夜遅い時間から、アラカルトでもオーダーが可能だ。まずいただくのは、上タン塩。本店と仕入れは一緒だが、こちらでは冷凍していない上質な皮つきのオーストラリア産を使用。店主が美おいしさで選んで辿り着いた、小池さんの審美眼に叶うハイクオリティな肉の選別が、ここにある。

「上タン塩」2,750円(アラカルトの場合2人前)
ロースターの真ん中で、じゅくじゅくとしてくるのを見逃さないように焼く。本店は網焼きなので、その違いも面白い
 

小池さん

本店よりほどよく厚みのある上タンは、品質はもちろん、もみこみだれの味も最高。ごま油、塩だれを丁寧にタンに撫でて、厚みがあるのにしっかりと味を入れ込んでいる。いいタンのポテンシャルを、さらに引き上げているところが素晴らしい! 和牛のいまいちなやつより、輸入のいいタンが格段においしい! いや~いいタンです、これ。

銘柄は指定せず、いい状態のものを仕入れられるのは、長年焼肉店を営み、関係値を築き上げたルーツを持つ強み。上ロースは、旨みと脂のバランスがいい肩ロースの芯の部分をこの日はセレクト。下処理は、切りたてのお肉をもみだれにサッとくぐらせる。「肉を切り置きをすると、味が抜けてしまうから」と、肉のよさを一段引き上げる努力を惜しまない。

「上ロース」2,310円
上質な脂をまとった、肩ロース。焼きすぎないよう、サッと数秒炙る感覚で
 

小池さん

あ~おいしい! うん、おいしい! 思わず笑顔になっちゃう最高の味わいです。ロースターならではの、旨みの強いところがグッと出てくる、タレのインパクトがしっかり味わえます。もみだれは本店と一緒なのに、網と鉄板ロースターとの違いで、また格別においしくなるのは、不思議ですよね。焼肉って奥深いです!

小池さんが「ここ最近、圧倒的に好き」な外せないメニューが、ホルモンの王様ギアラ。こちらは本店では扱っていないメニューで、店主も好きな部位。きちんと選んだギアラの良質な脂に絡むみそベースのもみだれとの相性が、際立つおいしさを生む秘訣だ。肉に触れる面積の多い鉄板ロースターでこそ「丁寧な焼きでしっかりと味が入る」とは小池さん談。

「ギアラ」1,000円
火が入りすぎるとタレが焦げてしまうので、細心の注意をはらいながら、コロコロまわし焼きが賢明
 

小池さん

辛口なみそだれの味つけも好みだし、脂のぷりっとした食感もいい。この両方のバランスがいい、こんないい部位ってないですよね。タレのインパクトが、口の中にガツンと入ってきて、でも甘みもあって、もう最高です!

焼肉以外も手を抜かない! 本格的なサイドメニューにも注目

「焼肉にワンクッションはさんで、ちゃんと食べている感を味わってほしい」と、コースに登場する、店主おすすめの韓国料理「ポッサム」。柔らかく茹でた豚肉に、フレッシュな漬けたての自家製キムチ、大根の甘酢漬物、青唐辛子、にんにく、かいわれ、自家製みそをすべてサンチュに包んで。キムチは通常より長いタイプで、サンチュの外側にキムチを巻く、オリジナルな巻き方アレンジをする、新たな食べ方も提案。

「ポッサム」コースメニューから
女性にも人気のポッサムは、自家製みそだれが隠し味に
 

小池さん

韓国ではよくあるメニューですが、焼肉屋で食べられることはあまりないので、野菜たっぷりな本格ポッサムが、焼肉の間にいただけるのはいいですね。この自家製みそがまた、味に深みを増してくれる、いい仕事をしています。すべて包んで、ワンハンドで手軽にパクッと食べられる。お酒にも合うし、いくらでも食べられそうな軽やかさが好きですね。

「もつ煮込み」780円。みそは、赤をベースに少し白をプラスした、2種類をブレンドするこだわりよう
 

小池さん

新鮮なてっぽう(直腸)を2時間弱じっくり煮込んだ一品も、必ず頼みたいメニュー。余計な野菜はなく、大根のみの潔さもいい。生にんにくを最後に潰してのせ、パンチも利いています。どこか懐かしい家庭の味わいです。

予約は、本店に電話またはインスタのDMから

以前から交流のある2人は、焼肉のことになると会話と笑いが止まらない。「本店には長年通っていますが、また違う発見がありました。お酒を飲むときや友人と来るときは、こちらに伺いたいです」と早速9月に予約済みの小池さん。カウンターでお客様の反応や声を伺いながら「自分のルーツを活かして、自分らしくもっとアレンジして、いい店を作っていきたいです」と語る店主のボンジュさん。「帰ったあとに印象に残る焼肉」を目指している、熱きチャレンジはまた始まったばかり。行列になる前に「スタミナ苑となり」へ足を運んでみてはいかがだろうか?

※価格はすべて税込

教えてくれた人

小池克臣

横浜の魚屋の長男として生まれるも、家業を継がずに、外で、家で、肉を焼く日々を送る。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、ほぼ毎晩、牛三昧。さらには和牛そのものの生産過程や加工、熟成まで踏み込んで研究を続ける肉の求道者。著書に『肉バカ。No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社刊)。公式ブログ「No Meat, No Life.」。

文:濱口眞夕子(SEASTARS Inc.)、食べログマガジン編集部
撮影:片桐圭