2026年5月

朝「赤坂中華 わんたん亭」(東京・赤坂)

「皿わんたん」

朝からワンタンである。店は7時からやっていて「かけラーメンとシャケおにぎり」「和え玉セットとシャケおにぎり」という朝食セットもあるが、あえてワンタンを頼む。

朝からワンタンを食べられるところがうれしい。

香港では、粥と並ぶ朝食の定番であるエビワンタン麺をよく食べた。上海では、スープに入った豚肉ベースのワンタンを食べた。そんな風習が東京でもいただけるのである。

さて、香港スタイルでエビといくか、中国本土スタイルで豚肉といくか。散々迷った挙句、両方を頼んでしまった。

まず茹でたての豚肉の「皿わんたん」が運ばれる。ふわりとした薄皮に、むっちりと豚肉が包まれて膨らんでいる姿が、たくましい。

まずはそのままいただいた。口に運べば、唇に優しく触れ、ふんわりと舌に滑り込む。まさに雲を呑む食感がありながら、噛むと、雄々しい肉のうまみが溢れ出す。

つけだれには、醤油と白酢、コショウの他に、おろし生姜、玉ねぎ甘酢、辣油、香酢と用意されていて、さまざまに試してみるのが楽しい。おすすめは、玉ねぎ甘酢とコショウ、辣油と香酢と書いてあったので、試してみたが、おいしくなりすぎる。ここはシンプルに、おろし生姜とコショウがいい。違う刺激が豚肉ワンタンを生かすのだな。

思わず青島ビールを頼んでしまった。朝ワンタンに朝ビール。一日に勢いがつく。

続いて「エビわんたん麺」が運ばれた。細い玉子麺で、硬めに茹でられている点も香港風である。スープは、醤油味ではなく、鶏油と塩味を選んだ。

「エビわんたん麺」1,300円

エビワンタンは、むくむくと太った凛々しい姿を見せ、食欲を煽ってくる。一口食べた瞬間に「うまいなあ」と呟かせ、一心不乱に食べさせてしまう、力がある。エビがプリッと弾んだら、すかさず麺を啜り、スープを飲む。体に滋養が行き渡る。

この感じなんだな。

玉ねぎ甘酢を少し入れて、味変してもおすすめである。

こうして朝から2つの雲呑を食べ、ビールも飲み、ほろ酔いである。よき一日が始まりそうな気分が膨らんできた。

昼「酒処 はづき」(東京・虎ノ門)

マリノスケまりたろう
外観   出典:マリノスケまりたろうさん

「しゃけ2つ」

「鮭をください」

「まだ鮭はありますか?」

「なんにしますか?」

「鮭」

店にいる間、十数人が入ってきたが、全員「焼き魚定食 しゃけ」を頼んでいた。おそらく1日40皿ほど出ているのではないか。鰯の煮物や、ひとくちカツとグラタンコロッケのセットもあるのに、頼んでいる人が見当たらない。

誰も頼まない煮魚が不憫になって「いわし梅しょうが煮」を頼んだ。だが鮭への欲望も捨てきれず、「鮭もください」と、口走ってしまった。

塩鮭といわし梅しょうがという暴挙であるが、たまに頼む人もいるのか、店を一人で切り盛りする70代のお母さんは、すんなり受けてくれる。

「鮭の塩焼き」

まず鮭が運ばれた。おお威風堂々たる鮭である。分厚い塩焼きが、皿の上で鎮座している。普通の店の1.5倍はあろう。

鮭は甘塩だが、脂が乗っているので、ご飯を猛烈に呼び込む。こりゃみんなが頼むわけだな。

「いわし梅しょうが」

「いわし梅しょうが」もやってきた。こちらも見事な太さを誇る2匹である。淡い味付けで、鮭も甘塩だから、2皿なれど、軽くいける。煮魚には、大根と人参の煮物が添えられていたのも、嬉しかった。

これで1,500円。 よし今度は、ひとくちカツとグラタンコロッケを頼んでみよう。

夜「mici」(東京・西小山)

daisuke28
外観   出典:daisuke28さん

駅から居酒屋が立ち並ぶ庶民的な商店街を歩いていくと、店はあった。周囲に溶け込んで、ひっそりと佇んでいる。店の上には「たばこ 徳屋 日用雑貨」の文字がある。酒店だった古い建物をリノベーションして、店を始めたのだという。

シェフ一人、助手一人、サービス一人の小さな店であった。

カウンターに座って気づく。非常に珍しい。カウンターに対面して、ガス台が置かれているのである。「料理をしながらお客様と話したいんです」と、シェフは理由を話した。多くの店は、ガス台が壁側にあり、料理人はお客さんに背を向けて調理する。なぜなら効率がいいからである。しかし作業台もガス台も、パスタを茹でるための大鍋も、客側に向いていた。

目の前で料理が出来上がっていく様を眺められるのが、楽しい。時折料理法を聞くと、うれしくてしょうがないんですという気持ちを込めて、話す。ただレシピを解説するだけでなく、料理を考えたきっかけも話してくれる。
働くこと、料理をすること、お客さんと話すことが、楽しくてしょうがないのだろう。

心の底から仕事を愛しているのだろう。

もうそれだけで、この店に通う理由がある。

「スナップエンドウの自家製リコッタ白和え」

メニューを見れば、頼みたくなる料理がずらりと並んでいる。前菜には「スナップエンドウの自家製リコッタ白和え」を選んだ。自家製リコッタを白和え用に緩く作り、茹でたスナップエンドウをあえたのだという。リコッタのコクと淡い塩味が、スナップエンドウの青い香りと合う。

なかなかいいスタートだぞ。なにより白ワインが飲みたくなる。

「函館直送塩水ウニの冷製オムレツ」

次は「函館直送塩水ウニの冷製オムレツ」を頼む。「湯煎で卵を調理し、北海道の漁港の知り合いから仕入れたウニを添えて、レモンゼストを振りかけました」とシェフが言う。冷たいため、卵の味と香りが優しく、ウニの甘みと共鳴する。レモンを搾って、また白ワインを飲む。

黄色い花に通じる華やかなアロマに、レモンピールやフェンネルなどのハーブの香りがする「ロエロ・アルネイス・ルエット」とも合う。

「モツビアータ」

続いて「モツビアータ」である。モツ煮込みをアラビアータ風に辛いトマトソースで煮込んである。トマト煮込みはよくあるが、これもいい。トマトのうまみと辛みの中でモツが弾んで、これまたすかさずワインである。料理は、ワインが恋しくなるイタリア料理だが、ちょいと工夫を凝らしてある。

「王様しいたけのカモ脂ソテー 黄身乗せ」

「王様しいたけのカモ脂ソテー 黄身乗せ」もいただく。鴨脂が椎茸にコクを加え、黄身の甘みに微笑む。黄身を加えた理由を聞くと「黄身はどうかなと思いましたが、味を庶民に近づけるためです」。

うん、ここはイタリアンではない、居酒屋だな。イタリア料理を基調にしながら、どの料理も気取りなく、ワインを飲ませる工夫が利いていて、食べるたびに飲め飲めと料理から言われるのである。

その典型が「イタリアンカツ煮」だろう。揚げた薄いとんかつをトマトソースで煮て、なんと冷製にした料理である。これまた、日本から離れてイタリアにいる。ミラノではこんな料理もあるんだよと言われたら、信じ込んでしまうかもしれないイタリア的庶民性がある。

「赤ワインとローズマリーのパスタ」

さあ最後はパスタである。「赤ワインとローズマリーのパスタ」にしてみた。本来は、飲んだ後の赤ワインで乾麺を煮込んで作るパスタで、ピエモンテ州で出会ったのだという。元々は赤ワインだけだが、チーズやバターでうまみを補填し、ローズマリーの香りを加えた。赤ワインの渋みとうまみがパスタに染み込んで、しみじみとうまい。これに赤ワインを合わせる。


ワインを恋しくさせる個性的な料理を考案する理由を、最後にシェフに聞いた。「実家が居酒屋なんです。だからワインに合う一捻りした料理を考えてしまうんです」。そう言って、笑った。

近所にあったら、週一で通いたくなる店だろう。また来るからね。 ごちそうさまでした。

教えてくれた人

マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付け役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。

※価格は税込です。

文・写真:マッキー牧元