食通がお気に入りの推し麺をご紹介。今回紹介するのは、食べロググルメ著名人・山本憲資さんが教えてくれた、〆にふさわしいのど越し抜群のそばです

〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回は、食べロググルメ著名人・山本憲資さんが推す、幡ヶ谷のそば前酒場をご紹介。

フーディーが集う幡ヶ谷の止まり木「酒とつまみと〆蕎麦 よし川」

京王新線・幡ヶ谷駅から西原商店街に進み、一本入った路地に立地。藍色の暖簾が目印
 

山本さん

幡ヶ谷エリアもゆるやかに盛り上がり続けて久しいですが、「パドラーズコーヒー」のほど近くにおいしいそば屋さんができたと聞いて。日本酒、そしてつまみが充実しているという点も、酒飲みにはポイント高しでした。

話題のお店がひしめき、わざわざ足を運ぶ人も多いグルメタウンへと進化を続ける、渋谷区幡ヶ谷。特に良い酒に酔える店が年々増えているが、山本さんが推す「酒とつまみと〆蕎麦 よし川」もその代表格だろう。

焼き鳥店を改装した店内は、カウンター8席のみで、店主夫妻との距離も近い

お店に立つのは、店主の吉川亮太さんと妻の麻里さん。お酒好きだった亮太さんは三宿「板蕎麦 山灯香」でそば飲みに開眼し、そばの道へ。渋谷の「雷庵」や六本木の「蕎麦前 山都」など、人気店で約10年間にわたり研鑽を積んだ。「ホテルインターコンチネンタル 東京ベイ」や「雷庵」、シンガポール料理店などで経験を積んだサービスのベテランである麻里さんと手を取り、2024年2月になじみの幡ヶ谷で独立を果たした。

店主の吉川亮太さんと妻の麻里さんは「雷庵」時代の同僚

店名の通り「お酒を楽しんで、〆にそば」がお店のコンセプト。亮太さんが若い頃から抱いていた「ラーメンではなく気の利いたツマミとお酒を楽しんだ後に、おいしいそばで〆られる店があったら」という思いが原点となっている。従来のそばのついでに飲むスタイルを逆転させ、30種類を超える充実した一品料理を主役に据えた。

そばつゆ入りの出汁巻玉子や、和歌山名産の南蛮焼を使った板わさをアテに一杯

「出汁巻玉子」800円

酒飲みの心をくすぐる一品料理の数々には、修業時代に培った技術と、同業者との繋がりが反映されている。「出汁巻玉子」は修業先である「山都」のレシピを踏襲したもの。自家製のかけつゆと卵を合わせ、砂糖や煮切った酒を少し加えている。きめ細かく、たわわに焼き上げられた出汁巻玉子は、たゆたうほど出汁がたっぷりと入っていてジューシーだ。

「和歌山県 南蛮焼の板わさ」600円と「彩來 純米吟醸」600円

そば前定番の板わさには、和歌山県田辺市の特産品である「南蛮焼」を取り入れている。開業前にさまざまなかまぼこを取り寄せて試食を重ねた末、麻里さんが見つけ出した逸品で、独特の強い弾力と歯切れ、うまみが特徴だ。

料理に合わせるお酒は亮太さんの地元・埼玉県の銘酒「彩來」を常時ラインアップに加え、西小山「かがた屋酒店」から仕入れる日本酒を常時10種類ほどそろえている。日本酒以外にも麻里さんの出身地である北海道の「厚岸」や「イチローズモルト」などのジャパニーズウイスキーやクラフトジン、季節に合わせて入れ替えるボトルワインなど街に根差した品ぞろえとのこと。

飲んだ後の身体に染み渡る、ツルリとのどを通る「天ぷらそば」

飲んだ後にツルリと食べられるよう、小麦粉を2割、そば粉8割で打った細めの二八そばを使用

ツマミで酒を飲んだら、山本さんが推す「天ぷら蕎麦」で〆を。現在は、東京の卸専門製麺所「むらめん」に特注した、長野県産のそば粉を使った二八そばだ。飲んだ後の〆としての役割を第一に考え、のどごしの良さと軽やかさを追求し、細めでツルリと食べられる麺に仕上げている。

 

山本さん

つるつるとした食感で、のどごしよしの綺麗な味わいで、好みのおそばでした。ご主人は名店「蕎麦前 山都」で修業されていたということで、安心感・安定感がかなりあります。

つゆも修業時代のノウハウが生きている

味わいの要となるつゆは、用途に合わせて「盛りつゆ」「かけつゆ」「天つゆ」の3系統を使い分けている。ベースとなる出汁は鰹節、サバ節、混合節を使用し、上品すぎずそばに合う適度な節っぽさを残すよう計算されている。温かいかけつゆはそのまま飲めるほど優しくまろやかな味わいで、盛りつゆには追い鰹と少量のたまり醤油を加えて香りと厚みを出す。天つゆは、かけつゆにかえしを足すことで、天ぷらの油に負けない絶妙な濃度に調整されている。

「天ぷら蕎麦」1,650円
 

山本さん

おつゆ、かえしが利いていてとてもおいしいです。お醤油のテイストがしっかりなところが日本酒にこれまた合います。

セットの天ぷらはエビとキス、季節の野菜3種の盛り合わせ

天ぷらにも、修業時代に培った技術が息づく。「山都」時代から使い慣れた調味料や配合をベースにした薄力粉で、大豆油とごま油をブレンドした揚げ油を使用。天ぷら専門店の極薄の衣とは異なり、あえてやや厚めの衣で海老にもしっかりと花を咲かせている。これにより、天ぷらにつゆの味がしみつつも、衣のカラッとした食感を一定程度残し、そばとの一体感を持たせている。

「天ぷらせいろ」1,650円
 

山本さん

天ぷらのクオリティが高くて、天ぷらもセットで注文することを強くおすすめします。単品のきのこの天ぷらセットもかなり好みでした。ホタルイカや白子の天ぷらなど、おそばやさんでもなかなかお目にかかれないメニューも◎。

気の利いた酒肴をつまみながら盃を重ね、火照った体を潤すようにみずみずしいそばをすすり、お出汁で酔いっ腹を満たす。名店で培った確かな技術と、朗らかな夫妻を囲むカウンター席は、すでに幡ヶ谷の夜に欠かせない止まり木となっている。

教えてくれた人

山本憲資
1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、Sumallyを起業、2023年10月末に代表を退任し顧問に就任。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

※価格は税込。

文:中森りほ
撮影:佐藤 潮