【噂の新店】tens.

外苑前にあったイタリアン「tens.」がわずか1年半で神宮前に移転しました。「食べログ」では常に4点超え、早い時間の予約は数カ月先までいっぱいという人気絶頂店がいったいなぜ? その疑問にお答えします!

「tens.」が理想を叶える空間へ移転!

「香り・温度・臨場感のテンションを体感してもらいたい」という思いを込めた店名

2024年10月、外苑前でオープンするやいなや予約困難になった「tens.」。厨房に立つ北野 司さんは「malca」「焼肉もちお」「とんかつ ここまでやるか」「and Svolta」「arca」「JIBI」と、次々予約困難店を作ってきました。いつしか2時間半のおまかせコースでスタート時間は2部制が当たり前になっていた東京のイタリアンレストランシーンに、アラカルトで自由に選ぶことの楽しさを復活させてくれた北野さん。こと「tens.」では40〜50種のグランドメニューだけでなく、本日の気ままなメニューでまさかの「豚骨ラーメン」や「純豆腐」がお目見えするなど、「あれが食べたい」に応えてくれる“イレギュラー”にハマり、毎日通う人もいたとか。そんな人気絶頂店の移転を決めた北野さん。いったいなぜ?と移転先の神宮前に訪れると……。

惚れ惚れするワインたち

その理由に思わず納得。一歩入ると迎えてくれるのは高い天井までそびえる巨大なワインセラー。中には目が飛び出るほどの高級で超入手困難なワインがずらり。ワイン好きなら一日中でも眺めていられそうです。その横にはウェイティングスペースがあり、フランス料理でいう“グランメゾン”に近い世界観です。

個室

レセプションの右には2つの個室を用意。メインダイニングへの通路とは別なのでプライベートをしっかり守ってくれます。2部屋をつなげると12人まで着席可能なスペースとなり、ちょっとしたパーティーにも対応しています。

メインダイニング

レセプションの左側の通路を進むとメインダイニングが現れます。テラコッタ色の空間の壁には映画「デリシュ!」を元に制作されたアートが飾られ、その横には「スライサー界のフェラーリ」と呼ばれる生ハムスライサー「ベルケル」のスタンド型が鎮座します。カウンターに着席して、アイランドキッチンで料理をする北野さんを見ていると「デリシュ!」のシーンが頭をよぎり、これから供される料理に期待が膨らみます。

食材の声を聞き調理法を決める!

「今、一番いい状態の食材を最適な温度や順番で提供することが、この空間にはふさわしい」と、貫いてきたアラカルトではなくおまかせコースに変えました。店作りと料理は切り離せないもの。北野さんの“新しい挑戦”にテンションは爆上がりです。

旬を最良のかたちで届ける「おまかせコース」

「スープ とうもろこし」

提供するのは13品からなるおまかせコース(33,000円 税込・サービス料別)。1品目は「とうもろこしのスープ」です。材料はとうもろこしと水と塩というシンプルの極み。ゆえに難しく、バランス力が問われます。とうもろこしを丸ごと食べているかと錯覚しそうなほど完璧な再構築。“名刺代わり”の所以がわかります。

「カルパッチョ 鯵」

こちらは鯵の下に翡翠茄子のタルタルを敷き、上にはきゅうりのスライス、さらにきゅうりとバジルのグラニテをのせて涼しさを演出しています。

活け締めした鯵

主役は石川県能登の網元、中田洋助さんが船上で活け締めした鯵。取れたてならではのプリップリの食感に目を見張ります。上質な食材は手を加えすぎず、組み合わせやソースで昇華させるのは北野さんの得意とするところ。組み合わせの妙に唸る一皿です。

茹でたての蛸

「茹でたてって食べたことないでしょ? これがめちゃくちゃおいしいんです」と50cm以上もある大きな蛸を茹で始めました。「7割程度の火入れで仕込んでおいて、提供時に熱々に茹で上げる。そうするとやわらか過ぎず、いい食感に仕上がります」と北野さん。

「ヴァポーレ 真蛸」

フェンネルのピューレの上に茹でたての蛸をのせ、レモン、ハーブ、ニンニク、オリーブオイルで仕立てる伝統的なソース「サルモリッリオ」にアンチョビ、フェンネルの葉を加え熱してからかければ、ジュッという音と共にフェンネルの香りがふわっと鼻をくすぐり食指が動きます。立ちのぼる湯気が止まらないほど熱々の蛸はプリンプリンでナイフが弾き返されそう! 爽やかな酸味のソースもこの季節にぴったり! こんな蛸の料理があったなんて!

一皿ごとに“最高においしい”が塗り替えられる!

ラビオリ

「詰め物って結構好きなんです」と、ラビオリに詰めたのは2年熟成の「きたあかり」のピューレ。こだわりの卵、「蘭王」を使ったラビオリの美しいオレンジ色に目を奪われます。

「ラビオリ 黒トリュフ」

コースでは5種類のパスタ料理が供されますが、最後に登場するのがラビオリ。“トリ”を務めるにふさわしく黒トリュフをたっぷり削りかけました。北野さん曰く「黒トリュフを食べる料理です!」。

まるで黄身のようなラビオリ

黒トリュフの香りをかき分けるようにラビオリの中からきたあかりのピューレが顔を出し、バターソースを纏って喉を通った瞬間、奇跡が訪れます。味、食感、香り、サイズ感、食材それぞれの量、すべてが絶対的な黄金比。1mmの隙もない皿です。

韓国から輸入したスペシャルな炭台

アラカルトの“選ぶ楽しさ”をコースに残してくれたのか、メインは数種類から1品を選びます。本日は「兵庫県淡路島但馬経産牛 月齢73カ月サーロイン」の炭火焼き。

「炭火焼」

うっすらとうまみエキスが滲み出た美しい断面にうっとり。付け合わせはクタクタにしたラディッキオ。「しっかり火を入れるからこの“甘くて苦い”が生まれます」と北野さん。

とんでもない肉!

繊維が緻密でやわらかいのにサクサクとした歯切れ。噛むごとに脂がじんわりわいてきて味が変化するのがおもしろい! 脂にくどさは微塵もなく、余韻が長い。この飛び抜けて質の良い肉にしばし陶酔できます。

レストランと向き合うことで作りあげた新しい「tens.」

360度見渡せるタワーワインセラー群

移転の決め手はこの物件と出会ったことでした。この高い天井が、料理だけでなく空間やサービスを含めてこれまでとは違う世界観をイメージさせたのだと話します。メニューの体裁もガラッと変え、記載するのは料理名とメインの食材のみ。生産者や一皿への思いは口頭で伝えるスタイルに。

「アラカルトとはまた違った楽しさを体感頂きたいです。」

「今、アラカルトの店がメジャーになってきて、うちのグループでもアラカルト業態を任せられるくらい社員が成長してきました。そこで僕自身はもう一度コース料理を究めることにしたんです」と話します。突き出しからミニャルディーズまで緩急をつけながらどんどんクレッシェンドしていくストーリー性のあるコース料理、その料理に負けない高揚する空間、それらを完全に把握し魅力を十二分に伝えるサービス力、ここは記憶に残る食体験を提供してくれます。

文・高橋綾子 写真・八木竜馬