〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

ベテランシェフが仕入れた食材が繊細に彩られたイタリアンコース

内観

グルメ激戦区で10年やっていくのは容易いことではない。2017年にオープンした恵比寿の「nomad(ノマド)」は今年10年目を迎えるイタリアン。しかもメニューは4種類のコース(6,950円、8,800円、10,000円、13,000円)のみ。シェフの料理を楽しみにする常連が多いことがうかがえる。

左からオーナーシェフの宮崎勝仁(かつみ)さん、スタッフの向井一晶さん

オーナーシェフの宮崎勝仁さんは、大阪のイタリアンの名店「ポンテベッキオ」で修業後、渡伊。一つ星の名店などで修業を重ねて帰国。2009年に代々木「ラ・リベラ」、2011年に恵比寿「オステリアラリベラ」をオープンした。いずれの店舗でも、シェフが毎朝仕入れた鎌倉野菜と三浦半島の佐島漁港から届いた魚を使って、彩りの良い料理が提供されていた。

個室

しかし「アラカルトが中心だと『鮮魚のカルパッチョ』」などメニューがパッとわかる料理しか頼んでもらえない」と思った宮崎シェフは2017年にコース料理のみの「nomad」をオープンした。コースでは他店と同様に素材にこだわるのはもちろん、宮崎シェフの巧みな素材使いが際立っており、ソースやジュレなどがいくつも重ねられた繊細で彩りの美しい一皿に出会える。その世界観に魅了された人が足繁く通う名店となっている。

イナダと旬野菜のソース✕旨みオレンジワイン

コースの魚料理「本日の魚(イナダ)、ズッキーニ、コンソメ、トマトのムース」

コースの前半に提供される魚料理は旬の魚と野菜をふんだんに使った料理がお決まり。この日は、粗く刻んだイナダの下にズッキーニのソースが敷かれ、トマトのムース、コンソメをのせた一皿が運ばれてきた。イナダにコンソメの旨みと塩気、そしてズッキーニとトマトの爽やかな風味が重なり、夏らしいおいしさが味わえる一皿だった。

ニクラス・リュックリッチ ルーランダー2021(グラス1,350円、ボトル7,800円) 

魚料理におすすめなのは、ドイツのピノ・グリを使ったオレンジワイン。「だし感がしっかり出たオレンジワインなので、コンソメジュレをのせたイナダの魚料理によく合います」と向井さん。果実味やタンニンがしっかりあり、ミネラルも感じられるタイプのオレンジワイン。すべての要素が魚料理にぴたりと寄り添っていた。

イカと空豆のタヤリン✕柑橘系オレンジワイン

タヤリン

パスタ料理は自家製のタヤリンやラビオリがよく登場する。タヤリンとはイタリア・ピエモンテ州伝統の卵黄をたっぷり練り込んで細く手切りしたパスタのこと。nomadでは横須賀の安田養鶏場の卵を使って、濃厚な味わいが実現されている。常連の間ではこのタヤリンのトリコになっている人も多いという。

コースのパスタ「イカとそら豆のタヤリン カラスミがけ」

この日は、イカとそら豆を使ったタヤリンにたっぷりとカラスミがのったパスタが登場した。タヤリンは卵が入っているため、小麦のパスタよりも味わいがやわらかでほかの食材となじみやすい。卵黄をたっぷり使ったタヤリンとカラスミは相性抜群で、そら豆やイカの味わいをぐっと引き立てていた。

アナンダ・ディ・エドアルド・サッケット サリコルニア2023(グラス1,350円、ボトル7,800円)

タヤリンにペアリングしてもらったのは、タコのラベルがデザインされたイタリア・ヴェネト州のオレンジワイン。「こちらのワインは海藻のにおいが感じられたところから、命名されたワインです。イカを使ったオイルベースのパスタなので、こちらを選びました」と向井さん。オレンジやグレープフルーツの中に海のような香りが混じるフルーティなワインで、タヤリンやカラスミの濃厚な味わいにも負けないおいしさがあって、うまく調和していた。

仔牛の炭火焼き✕落ち着いた赤ワイン

コースの肉料理・仔牛の炭火焼き

コースの肉料理は「仔牛の炭火焼き」。オーストラリア産の仔牛を炭火でじっくり焼いて休ませてを繰り返して、ピンク色になるように繊細に火がとおされている。ソースは仔牛のスープと赤ワイン、香草、ニンニク、乾燥ポルチーニを煮詰めたもの。新じゃがいもとペコリーノチーズがクランブルにして散らされていた。

アナンダ・ディ・エドアルド・サッケット ラ・マドンナ ヴィーノ・ロッソ2023(グラス1,350円、ボトル7,800円)

仔牛の炭火焼きに合わせてもらったのは、イタリアのメルローを使った赤ワイン。「チェリーやクランベリーの香りがあって、落ち着いた味わいが仔牛にぴったりです」と向井さん。ミルキーで脂の旨みもある仔牛に、しっかりと果実味やタンニンのある赤ワインは最良の組み合わせだった。

宮崎さんの「私が恋した自然派ワイン」

コントラ・ソアルダ ヴィニャシラン2016(グラス1,350円、ボトル7,800円)

宮崎シェフが恋した自然派ワインは、イベントで使った思い出の一本。

「インポーターさんがこちらのワインを使って、イベントを開きたいから協力してくださいと頼まれたときに知ったワインです。ヴェネト州のワインだったので、ポレンタと魚料理、肉料理をテーマに料理を作りました。

“蜂が集まってくる”という意味を持つ品種名でその名のとおり、はちみつのような甘やかで華やかな香りがありつつ、食事に合わせやすい味わいでとても気に入りました。こちらの2016年は熟成を経て飲み頃になっていると思います。ぜひ飲んでみてほしいですね」

料理に合わせやすいボディのあるワインをラインアップ

nomadでは宮崎シェフが試飲会を訪れ気に入ったワインを中心に仕入れられている。「ワインは、香りが良くても味わいやボディがそれに負けてしまっているものがあります。そのバランスが取れているものが料理には合うと思っています」と宮崎シェフ。鎌倉野菜などの食材を自ら仕入れているシェフらしい感性だろう。グラスは10種類用意され、ほとんどが1,350円になるように調整されている。ボトルワインは80種類あり、7,800〜9,000円となっている。

繊細な彩りのある一皿には自然派ワインを

外観

nomadのコースを楽しむ常連は自然派ワインと一緒に楽しむ人がほとんど。グラス1,350円、ボトル7,800円がほとんどというわかりやすい価格で気兼ねなく注文できるからだろう。それに野菜や魚、肉の旨み繊細に重ねた料理だと、香りや味わいに深みがある自然派ワインを欲するのもわかる気がする。そんな宮崎シェフの素材と彩りの世界とのマリアージュをぜひ味わってみてほしい。

※価格は税込

文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章