〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、食べロググルメ著名人のフードライター・森脇 慶子さんがおすすめする、表参道のイノベーティブレストランをご紹介します。

「クルックフィールズ」発のイノベーティブレストラン

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

内観

表参道の裏路地にひっそりと建つ、まるで隠れ家のような佇まいの一軒。それが、今話題のイノベーティブレストラン「サスクリエ」だ。母体は、千葉県木更津にある複合施設「クルックフィールズ」。「人と農と食とアートと自然の協奏曲」をテーマに、これからの社会にあるべき豊かさや自然を考慮した循環型ライフスタイルを提案、実践しているサステナブルファーム&パークだ。その理念を受け継ぎ、都会との橋渡し的な存在になるべく昨年の暮れにオープンした。

山名新貴エグゼクティブシェフ(左)と、和田淳志ヘッドシェフ(右)

店を任されたのは「クルックフィールズ」の飲食店全般を監修してきた山名新貴(よしき)エグゼクティブシェフ(30歳)と、和食出身の和田淳志ヘッドシェフ(28歳)という若手2人。鳥取県出身の山名シェフは、調理師専門学校を卒業後、大阪のイタリアンの名店「クイントカント」で修業。その後、シチリア等で研修し、国内外のレストランで研鑽を積んだ経歴を持つ。一方の和田シェフは新潟出身。「エコール 辻 東京」を卒業し「銀座 小十」「銀座 奥田」の門を叩く。計4年間、和食の基礎をみっちり学んだ後、パリやニューヨークの系列店でも腕を磨いて帰国。同店に勤める直前には会員制の薪焼きレストランでもシェフを務めた経験もあるそうで、ここでは、この2人が互いの持ち味を発揮させつつ、無理のないコラボレーションを見せている。

スターターのスープ

月替わりのおまかせコース(24,200円〜)は、一口の温かなスープから始まる。一見コンソメのような液体は、コースの料理に使われた野菜の端材の全てが用いられた“ベジブロス”だ。野菜は、千葉八街の「シェフズガーデン エコファーム アサノ」の自然農法野菜を主軸に「クルックフィールズ」からも取り寄せているそうで、調味料は微量の塩のみ。シンプルに野菜本来の旨みと力強さを引き出した一杯は、雑多な日常に疲れ気味の心身に染み渡る潤いの味「サスクリエ」の世界観を象徴するかのようなスターターだ。

ガラス鉢から目の前ですくわれるモッツァレラチーズ

続いてカウンターに置かれたのは、金魚鉢のように大きなガラス鉢。中には、水牛のモッツァレラがホエーの海に浮かんでいる。クルックフィールズで、水牛チーズ乳職人の竹島英俊さんが手塩にかけた“幻のチーズ”だ。竹島さん自らが水牛を飼育し、搾乳。イタリアと同じおいしさを目指して作られるそれは、毎朝3時から乳を搾るところからスタート。そして、その日の昼前には出来立ての水牛のモッツァレラチーズが各地へと配送され、同店にも夕方までには届けられる。鮮度が命のモッツァレラをできるだけ最上の状態で食べてもらいたいという竹島さんのほとばしるような思いが込められた珠玉の逸品だ。

竹島さんのモッツァレラチーズ

その思いを受け、山名シェフはこのチーズをより簡潔かつ革新的な味にアレンジ。トマト水をベースにした和出汁に浮かべ、バジルならぬシソオイルを垂らしたそれは、いわば再構築した“カプレーゼ”。和と伊を見事に融合させている。

希望

次に登場したのは“希望”と題されたアートな一品。野菜をテーマにした同店のシグネチャーメニューだ。パレットの如く白皿に描かれているのは、7色の野菜のピュレで描いた虹。赤はトマトとパプリカ、オレンジは人参、黄色はバターナッツカボチャ、緑はブロッコリーで、水色はバタフライピーとカリフラワーを合わせ、青色は同じバタフライピーに紫色のじゃがいものシャドークイーンをブレンド、紫はそのシャドークイーンを用いるといった按配だ。いずれも、着色料は使わず天然由来。それぞれのピュレには里芋のペーストを加え、自然な粘度をつけている。

薪火で炙る

この虹のピュレの横に添えてあるのは、化学肥料や農薬に頼ることなく育てた自然農法の野菜たち。薪火で香ばしく炙ってあり、野菜で野菜を食べさせようという趣向だ。が、そこには、ただインスタ映えやおいしさだけを追求するのではない、両シェフと生産者の熱意が込められている。そう、環境負荷を最小限に抑えるこの自然農法は土壌や生態系を保全し、持続可能な食料生産と豊かな自然を次世代に繋いでいく─そんな思いを込めたがゆえの“希望”というわけだ。

うな麺

同店のもう一つのシグネチャーメニューが“うな麺”こと鰻と全粒粉のパスタだ。薪火でじっくりと焼き上げる鰻の蒲焼は、和の和田シェフが担当。対して、手打ちのパスタはイタリアン出身の山名シェフが手がけるなど、それぞれのジャンルを生かした共作となっている。カウンター奥で赤々と燃える薪火で焼き上げられていく鰻、そして目の前で打ち上げられるパスタと、臨場感もご馳走だろう。全粒粉は「クルックフィールズ」で山名シェフ自ら石臼で自家製粉。そのもちもちした食感と鰻のカリカリ感とのコントラストを、ホエーベースのバターソースが程よくまとめあげている。

お椀

また、日本料理の夏の味“鰆のお椀”も、軸足は和ながら仕上げにシチリアのオリーブオイルを垂らし、油分と青い香りを補うことで、イタリアンに寄せようとする趣向も同店ならでは。日本料理のお椀ならではの繊細な風味に抑揚をつけ、複合的な味わいを生み出している。「イタリア料理も日本料理も、どちらも素材本来の持ち味を生かそうとするシンプルな料理。そういった意味では相性がいい。無理なく融合させられると思っています」と山名シェフ。

日本料理の技術が光る

この他、肉料理のメイン等々全11品が供されてコースは終了。料理に合わせたアルコールペアリングは13,200円。静謐な空間の中、若手のWシェフによるイノベーティブな未来の料理を楽しんでみたい。

外観

教えてくれた人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

※価格は税込。

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部
撮影:片桐圭