〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回、フードパブリストの高橋綾子さんが教えてくれたのは、食通が密かに通い詰めている新進気鋭の日本料理店です。

常連客だけの店にしておくのはもったいない!

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

今回紹介するお店は2026年7月現在で点数3.07。その知られざる実力とは?

真っ白な暖簾をかけて営業スタート!

2025年9月、「三田ゆうみ」が静かに幕を開けました。店主、武川 圭さんが目指すのは“毎日食べたくなる料理”。その思いは店の佇まいにも感じられ、まるで我が家に帰ってきたかのような雰囲気を醸します。

カウンター7席に4名までの個室も用意

優しい味と書いて「ゆうみ」。その店名を表現したかのように店内は優しさと温もりあふれる空気感が漂います。武川さん自ら設計した高級日本料理店でありながら、ふらっと寄りたくなる心地よさがこの店の魅力の一つです。

武川 圭さん

迎えてくれる店主、武川さんの笑顔を見ると思わず「ただいま」と言ってしまいそうになるのです。手伝いで作った料理を家族が大層喜んでくれたのがきっかけで料理が好きになり、高校の進路相談で「好きなものは何か?」との問いに出した答えが“料理”。卒業後は銀座の高級日本料理店や自由が丘の割烹で研鑽を積みました。

出汁1滴にまで“優しさ”を感じます

武川さんの目指す料理の下地を作ったのは食べ歩いた数々の店。高級食材を用いながらも家庭料理の延長線上にあるような人間味あふれる料理を提供する店には休日に研修させてもらい、仕込み方や技術を学びました。料理人歴18年という実績を持ちながらも武川さんはどこまでも謙虚で温和。こちらではその人柄を映し出したかのような料理がおまかせコース(8〜9品17,600円 税込・サービス料別)で展開されます。

一貫するのは心に染み入る“毎日食べたくなる料理”!

毛蟹の真丈の椀

具材の大きさを全て揃えた美しい椀

こちらでは初めに茶懐石の如く「おじや」や「飯蒸し」など“ご飯”が供されます。お腹が落ち着いたところで2品目は椀。本日は昆布の味がしっかりと利いた吸い地に、椀種は毛蟹の身が詰まった真丈、椀妻にはカブとスナップエンドウを添えてあしらいます。

 

高橋さん

魚のすり身はつなぎ程度で、ほぼ蟹の身を丸めた真丈です。蟹味噌も入って蟹好きにはたまらん味。吸い地は初めに昆布のまるみを感じ、真丈がほぐれると蟹風味に変わりますが、どこまでも優しい味わいで体中の細胞が喜びます。

八寸

「能登の岩もずくとフルーツトマトの酢の物」「そら豆の翡翠煮」「石川小芋」「八色椎茸の炭火焼き」「稚鮎の唐揚げ」「岩手県コシアブラの天ぷら」「蟹真丈とスナップエンドウの鞘の唐揚げ」「焼き茄子おひたし」

そら豆、コシアブラ、鮎などを使った初夏を思わせる美しい八寸です。派手さはありませんが、揚げ物はカラリと揚がり、酢や塩も絶妙な匙加減。素材の持つ滋味深さが口中に広がる、まさにお手本と言うべき仕上がりです。

 

高橋さん

酢の物も煮物も揚げ物も焼き物も、味わいも食感も非の打ち所がありません。例えば揚げ物ならば、衣の付け方、揚げる温度と時間が正しければ、実においしく仕上がるものなのだと。正統に勝るものはない!と改めて思い知らされました。こんな八寸を出されたら、後に続く料理も期待度が上がります。

スッポンの炭火焼き

たっぷり搾った酢橘が爽やかな後味を演出

本日のメインは「スッポンの炭火焼き」。甘さを抑えたタレを塗りながら時間をかけてゆっくり焼きあげたスッポンは噛んだ瞬間に濃厚なうまみと強い弾力、脂身の甘みが一気に押し寄せます。一方、甘めのタレで焼いた肝はフワッフワ。相反するおいしさが記憶に残る一皿に仕上げています。

 

高橋さん

唇がくっついてしまうのはスッポンから出た脂を纏わせながら焼いているからだそう。火入れの技術は圧巻! 肝も身も衝撃的なおいしさです。正直、この価格でこんなスッポンが食べられるとは思ってもみませんでした。

土鍋ご飯

究極の〆

「米がおいしいので基本的に炊き込みご飯にはしません」と、こちらの〆は土鍋で炊いた白飯と味噌汁、そしてご飯のお供が数品。お供の「じゃこ山椒」「牛肉のしぐれ煮」「ひじきのきんぴら」「焼き鮭」「漬物」はどれもご飯の表情を変えてくれる名脇役。味、食感、これこそ“毎日食べたくなる料理”です。

 

高橋さん

本当にご飯がおいしい! 甘くて粘りも強くて、まさに“ザ・コシヒカリ”って感じ。1膳はご飯だけで食べてしまうので、おかずは2膳目から。白眉は出汁と油揚げで炊いたひじきに人参と牛蒡のきんぴらを合わせた「ひじきのきんぴら」。白飯に絶対合う2つをドッキングしたのでおいしいに決まってます。「焼き鮭」の火入れもすごい! 鮭の皮ってこんなにおいしかったのだと知りました。どうにもご飯が足りずに3膳目に突入です。

焼きわらび餅

わらび餅の革命!

胡麻豆腐からイメージしたという「焼きわらび餅」。自家製の粒餡とわらび餅を練って成形して焼き上げました。焼くことで香ばしさが生まれ、もっちりとした食感の後から餡子の甘みが広がります。わらび餅はもちろんのこと、きな粉も黒蜜も粒餡もすべて手作り。だからこそ完璧なバランスの味わいになるのです。

 

高橋さん

わらび餅を焼いたらどうなるのかと、期待と疑惑が半々でしたが、食べてみれば温かい方が“できたて”という感じがしてハマりました。むしろ本家は温かい方なのでは?と思ってしまうほど。食事が終わった後に強く印象に残り、また食べたいと思わせるのがスペシャリテ。「スペシャリテは米とデザート」との言葉に納得です。

「当たり前のことを当たり前にやるだけです!」

米は南魚沼産「コシヒカリ」

食材は京都上賀茂で100年続く京野菜農家「田鶴農園」の野菜、愛媛産の天日干しした無添加のひじき、能登の岩もずく、高知県の狼桃トマトなど、産直で仕入れ、最後に供する煎茶も料理の後味に合うよう渋みがなく丸みのある味に特別にブレンドしてもらっています。器は京焼、漆器は骨董品、14〜15年前からコツコツ集めたものです。武川さんは主張や自慢することはありませんが、食材も料理も空間も……、すべてがまさに“行き着いた先にある境地”です。

「こういうのが飲みたい!」というラインアップ

正統派日本料理は複雑で緻密な工程がいくつもあります。それを当たり前だと思い、当たり前にやることがどれほど難しいことか。ここで供される料理で派手なものは一つもありません。あるのは伝統的な正しい調理法で手を抜くことなく心を込めて作られた“毎日食べたくなる料理”です。世界中に食べたいものはあふれているけれど、私たちが心から本当に望んでいるものは、実はこうした料理なのかもしれません。

教えてくれた人

高橋綾子

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:松園多聞