〈食べログ3.5以下のうまい店〉

おいしいもの好きのあの人に「食べログ3.5以下のうまい店」を教えてもらう本企画。今回は、食べロググルメ著名人の川井潤さんがおすすめする、確かな経験と腕を持つ、実力派スパニッシュをご紹介。

昨年神楽坂に誕生した、実力派のスパニッシュ

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

L字形カウンターのみ。不定期でバータイムの営業も。詳細はInstagramで告知

東京では今、前例がないほどハイペースでスペイン料理店がオープンしている。カジュアルにタパスやパエリアなどを楽しむことができる店から、コースで“美食の国”の真髄に触れることができる店まで、その個性はさまざま。日頃から新鋭店の発掘に余念がない川井潤さんが「スパニッシュとフレンチの要素を軽やかに合わせた料理の完成度と何度も足を運びたくなる価格設定にも心を惹かれた」というのが、神楽坂の「ペリカン」だ。

神楽坂らしい風情あふれる路地の一角に。平日は19時、土日祝は18時30分から一斉スタート

メインストリートを抜けて赤城神社側の路地を進めば、どこからか三味線の音色が聞こえてくる。花街の面影を感じながら店を目指すと、黄色い文字で店名とイラストが描かれた扉が目に入る。そのまま地階へ下りると、そこに広がるのはカウンターのみのモダンな空間。新しい視覚作用をもたらす現代作家として注目を集める小野耕石氏のシルクスクリーンに彩られた空間は、どこか先鋭的な印象だ。

店主の桑原さん。ペリカンの由来をたずねると「地元の幼稚園に来ていたんです。ほかの子が怖がるなか、僕はとても興味津々で」。そうした好奇心旺盛な“三つ子の魂”が料理の探求心につながっている

店主の桑原友明さんは、恵比寿の「ガストロノミー ジョエル・ロブション」で7年半、日本におけるスペイン料理の第一人者、ジョセップ・バラナオ・ビニェス氏がプロデュースする「Modern Catalana Spanish BIKiNi」では新店の立ち上げにも携わった。「ロブションではデザートとパン以外のセクションはすべて経験し、仏産の食材に触れることで日本の食材に対して新たな気づきもたくさんありました。BIKiNiではスペイン料理のフレンドリーさを体感し、そうした背景にある食文化を学べたことも財産」と話すように、自身の店では磨き上げたセンスと技術を融合させた料理のコースを提供する。

左から、鯵の自家製燻製、サクラマスのタルタル、鰯とパプリカのピンチョス(写真の料理は1万円のコースの一例)

ピンチョスから始まり、魚料理や肉料理、スペインオムレツにパエリアまで続くコースは「楽しい工夫が盛りだくさんで、しっかりとボリューミーでありながらまったく飽きさせない」と川井さんもその独自性に惚れ惚れ。経験豊かなシェフならではの創意が端々に見て取れる。

「オムレツ」。ゲストの目の前で調理する。調理工程を眺める楽しみも

とくにスペシャリテのオムレツは、ゲストの目の前で調理するという心浮き立つ演出も。卵とジャガイモのコンフィやソテーした玉ねぎなどを加えながら、あっという間にまんまるフォルムのオムレツが出来上がっていく様子を眺めていると「自分でも作ってみたいと調理欲が湧き上がる」と川井さんが言うのも納得。

切り分けてから皿に盛りつけ、提供。できたてのオムレツの味は別格!
仕上げに桜海老とピメントをまぶして。夏は鰯のオムレツが登場する予定

切り分けられた出来立てを味わえばふわっ、ぷるっとした食感のなかにほっくりとした旨みと甘みが。

「サクラマスのマリネと仏産ホワイトアスパラ」。春の野菜を添えて。ホワイトアスパラは前日に皮ごと茹でてから出汁とともに冷まして味をふくませる

肉や旬の魚を使った料理はモリーユ茸のソースやアスパラソバージュを合わせるなど、クラシカルなフランス料理の要素をさりげなく盛りこむスタイルにも心が華やぐ。

「大山どりのバロティーヌ」。ももを開いて塩胡椒をし、胸肉で作ったムースを中に詰めたもの。フランス産モリ―ユ茸と鶏のジュを合わせたクリームソースで
「鮎のパエリア」。写真は6~8人前。季節によって食材が変わる
パエリアは塩もみした白瓜とともに。あゆのほろ苦さと白瓜のわずかに青さを感じる風味が好相性

そして、締めを飾る季節のパエリアは、まずはそのままで、2杯目は鶏出汁をかけてカルドソという“おじや仕立て”にすることもできる。合わせる食材にもよるが、サフランやトマトをあえて使わず炊き込みご飯風に仕上げるパエリアはどこか懐かしく、心がなごむ味わいだ。

2杯目は鶏出汁をかけてカルドソに

「パエリアは1杯目のほうが確実においしい。2杯目も違った楽しみ方をしていただけたらいいなと思ったんです」と桑原シェフ。

最後はスパイスを使った自家製アイスで満腹満足。

「台湾パインのコンポート」。シナモンや八角などのスパイスを使った自家製アイスにパインの甘みが寄り添う

それにしても、この内容のディナーコースが1万円とはなんという意気。店名になっているペリカンは「しあわせを運ぶ鳥」として知られるが、まさにここは口福を呼ぶレストラン。大きく飛躍する時を是が非でも見届けたい。

※価格はすべて税込

教えてくれた人

川井 潤
フジテレビ「料理の鉄人」企画ブレーン(1993~1999年)。元(株)博報堂。現在は、渋谷区CFO(Chief Food Officer)として渋谷区にあるおいしい店の啓蒙・誘致、区独自の商品プロデュースほか食品関連企業、IT会社、広告代理店などのアドバイザーを務める。西会津町応援大使、その他エリア等これまでの企画ノウハウを活かして「地域サポート」も行っている。

文:小寺慶子、食べログマガジン編集部
撮影:片桐圭