【噂の新店】「les Accords」

東京タワーのお膝元、港区にありながら静謐な時間が流れる赤羽橋。この地にフレンチ・ワインバー「les Accords(レザコール)」が、2026年4月20日にオープンした。

赤羽橋駅から徒歩約5分、ビル1階に佇む「les Accords(レザコール)」

お店を営むのは、日本のトップレストランや食材の最前線で華々しいキャリアを築いてきた2人のプロフェッショナルだ。オーナーソムリエである市村暢央さんは、フランスのホテル経営学校で学んだ後「ヒルトン大阪」を皮切りに「フォーシーズンズホテル 丸の内 東京」に立ち上げから携わり、飲料統括支配人を歴任。その後、大阪の名店「ラ・ベカス」の支配人を経て、日本トップクラスのフランス料理店「カンテサンス」のシェフソムリエとして8年間にわたり最高峰のサービスを牽引した。

仲間と共にテイスティングセッションを行うなど、若手ソムリエの育成にも力を入れる市村暢央さん

その後「ワカヌイ・グリル・ダイニング・バー」の統括ディレクターとして、シンガポール店のオープンまでを担当し、「銀座おのでら」の国内外の統括ディレクターとして約3年半勤務。直近では日本最高峰のまぐろ仲卸「株式会社やま幸」の飲食部門担当取締役を務め、会員制の寿司店、鉄板焼き、ワインバーの立て直しから、麻布台ヒルズへの鮮魚店出店、麻布十番のイタリアンなどの立ち上げまでを手がけ、すべて黒字化へと導いた経歴を持つ。現在はフランス・ブルゴーニュ地方のワイナリー「ルイ・ジャド(Louis Jadot)」のブランドアンバサダーを世界で唯一務めている。ソムリエの顔だけでなく、超一流の食材を見極める審美眼と調達能力を併せ持つ、唯一無二の存在だ。

哲学書を愛読するなど知的探究心の強い一面を持つ阿部篤志シェフ

厨房を預かる阿部篤志シェフは、大阪の「ルール ブルー」(現在閉店)を経て、ヨーロッパへ。ベルギーの名門ホテルやフランス・パリのレストランで腕を磨いたほか、アルザスのチーズ農家やシャルキュトリー、ワイナリーなどでも経験を積み、フランスの日常的な食文化にも触れた。帰国後は「ブラッスリー ルヴェ ソン ヴェール駒場」で勤務。2013年に世田谷・尾山台で自身のフレンチレストラン「a Bee(アベー)」を開業し、12年間にわたり地域で愛される店を営んできた。

カウンター10席、ボックスのテーブル席4席の計14席からなる「Les Accords」

実は、2人は2005年頃、大阪で出会って以来旧友だ。それぞれの道を歩み、ついに満を持して2人の城を構えることとなった。店名である「Les Accords」は、フランス語で「調和」「和音」「相性」を意味するが、フランスでは「ワインペアリング」そのものを指す言葉として一般的に使われている。一皿の料理と一杯のワインが出会い、どちらか単独では生まれない「第3の味わい」を届けることこそが、このお店のコンセプトだ。

「やま幸」のマグロを使った「サラダ ニソワーズ」×「バンドール・ロゼ」

「les Accords」では、フランスの郷土料理とそれと同じ地方のワインペアリングをコースの中に必ず取り入れ、季節を表現する。「このワインありきでシェフにサラダ ニソワーズを作ってもらった」と市村さんが話すのが、プロヴァンス地方で最高の造り手と評する「ドメーヌ・タンピエ」の「バンドール・ロゼ 2024」だ。

プロヴァンス料理に最適な「バンドール・ロゼ 2024」は、8℃程度にキリッと冷やしてサーブされる

ムールヴェードルを主体にサンソー、グルナッシュで醸したロゼワインで、なんとも地中海らしい。グレープフルーツのような柑橘類のニュアンスや、プラムを思わせる軽やかな果実味、海沿いならではのミネラル感も漂う。

ディナーコースはアミューズ、冷前菜、温前菜、魚料理、肉料理で15,400円、デザートとコーヒーを追加で16,500円、ワインペアリングコースは11,000円(4〜5杯)

合わせるサラダ ニソワーズは、南仏では夏の定番料理だ。本国フランス・ニースの「ニソワーズ憲章」を尊重し、ジャガイモやインゲン、マヨネーズは使わない。フレッシュなトマトとマイクロリーフ、塩抜きした黒オリーブ、卵、アンチョビ、バジル、そして南フランス特有のネギの代用として、阿部シェフは万能ネギを使用している。調味料もドレッシングは使わず、上質なオリーブオイルと塩のみ。ニンニクにいたっては、食材を和えるボウルの内側に擦りつけて香りを移すだけという、古典技法が守られている。

取材時は「やま幸」から仕入れた、秋田県で延縄漁法により漁獲された天然本マグロの赤身を使用

しかし、ここからが「les Accords」の真骨頂だ。通常ならツナのコンフィを使うところを、市村さんの「やま幸」時代のルートをいかして仕入れた生本マグロの赤身を、特製液でマリネして使っている。さらに、通常のニソワーズのようにゆで卵を使うのではなく、温泉卵にしてオリーブオイルと合わせ、滑らかなペースト状のソースに仕立てて皿の下に敷く。

生のマグロは、そのままだと特有の鉄分や血なまぐささが前に出てしまい、どうしてもワインの風味と喧嘩しやすい。しかし、爽やかな酸味とうまみをまとわせるようにマリネを施したことで、生本マグロのポテンシャルを最大限にいかしつつ、ワインへと歩み寄らせている。さらに、なめらかな卵のソースがつなぎ役となり、食材それぞれの個性を引き立てながらも、一皿の中で一体感を生み出す。キリリと冷えた「バンドール・ロゼ 2024」を口に含めば、マグロの鉄分のニュアンスが、ふくよかなうまみへと昇華される。まさに「第3の味わい」だ。

力強い魚介のうまみに野性味で応える「ブイヤベース」×「パレット・ルージュ」

千葉県館山産の大きな伊勢海老やキンメダイなどの魚介類を、個別に火入れする

夏の看板メニューを張るのが同じく南仏、マルセイユの郷土料理である「ブイヤベース」だ。ブイヤベースの命とも言えるスープ・ド・ポワソンは、伊勢海老の殻や、金目鯛、カジカ、メバルといった磯魚の頭や骨を潰し、30分ほど炊き上げて出汁を取り、ペルノーというフランス産の薬草リキュールを加えて仕上げる。魚介類は、千葉県館山に構えるワイナリー「マシューズワイン」の齋藤玄さんを介して知り合った、漁師から仕入れたものだ。

一皿の中で食材の食感を変え、食べるたびに新鮮さを感じさせる

一般的なブイヤベースは、スープ・ド・ポワソンの中で魚介類を一緒に煮込んでしまうが、阿部シェフは素材ごとの魅力を最大限に引き出すため、すべて個別に火入れを行う。伊勢海老は身を香ばしく焼き上げて半生のミキュイに仕上げ、金目鯛は皮目だけをパリッと焼き、身にはスープの余熱で優しく火を通す。下茹でしたバイ貝は軽くポワレし、イカは強火で両面を焼いてから、それぞれスープに一瞬合わせて馴染ませる。ジャガイモはホクホクした男爵イモを使う。仕上げに散りばめられるウイキョウの花が、濃厚な海のうまみと、赤ワインとの架け橋となる。

魚介料理であるブイヤベースに合わせるのは、マルセイユの東に位置するパレットの赤ワイン「シャトー・シモーヌ」の「パレット・ルージュ」だ。ムールヴェードル50%、グルナッシュとサンソー各25%で造られている。

パレットは海洋性気候でありながら、アルプスからの冷たい風も吹き下ろす、カラッと乾燥した小高い丘の上にあるアペラシオン

「ブイヤベースには白ワインではなく、南仏の赤ワインを合わせるのが現地では当たり前です。実は、ムールヴェードルが持つヨード香には、海苔と同じような消臭効果があります。繊細な青魚料理ならピノ・ノワールが良いですが、魚介のうまみを煮詰めたブイヤベースには、この力強い南仏の赤ワインが抜群に合うんです」と市村さん。

鼻腔をくすぐるのは野性味のあるワイルドな香り、味わいには東洋系のスパイスを思わせるニュアンスや海藻のミネラル感があり、魚介のうまみと対等に渡り合う。ともすれば魚介類のえぐみや臭さが出てしまうブイヤベースだが、食材それぞれに火入れを変えることで味わいにテンポが生まれ、ウイキョウの花のほろ苦さとスパイシーさがアクセントとなり、最後まで食べ飽きない。

別添えされるバゲットは九品仏の人気ベーカリー「Comme’N TOKYO」のもの

スープ・ド・ポワソンに卵、サフラン、ニンニク、オリーブオイルを加えて仕立てた、自家製のルイユも良いバイプレーヤーだ。バゲットにたっぷりと塗り、スープに浸して豪快にいただけば、力強いニンニクとサフランが香り、ブイヤベースが漁師飯であることを思い起こさせる。

繊細で身質が美しい「キョンのバロティーヌ」

館山ジビエセンターから仕入れたキョン。原産地の中国南部や台湾では高級食材として重宝されている

肉料理にも館山のネットワークをいかし、千葉県のジビエ「キョン」を使っている。キョンとはシカ科の小型哺乳類で、成獣でも小鹿、中型犬ほどの大きさにしか育たない。味は地鶏や鹿肉のハイブリッドのようで質が高いというが、可食部が少ないためジビエとしての流通は多くはない。そのためキョンの身を余すところなく食べられるよう、前脚ともも肉はミンチに。そこにピスタチオと、じっくり炒めて甘みを引き出したエシャロットのみじん切りを加えて成形し、うまみの詰まった背ロースとバラ肉でぐるりと巻き込んで丸めて焼き上げている。

身質がしっかりとした「キョンのバロティーヌ」は、ジビエとしてのポテンシャルの高さを感じさせる一品だ

肉に合わせるのは、キョンの骨から出汁を取ったフォンに、赤ワインを加えたソースだ。付け合わせにはマッシュポテトと、独特のぬめりと心地よいえぐみ、苦みを持つアスパラソバージュが添えられている。丁寧に下処理されているからというのもあるかもしれないが、キョンの肉質はきめ細かな赤身で、適度な弾力がありながらも、しっとりとしていてやわらかい。ジビエ特有のクセや血なまぐささがなく、ふくよかなうまみがあり、ソースやピスタチオがコクや甘みをアシストしてくれる。初夏の山野の生命力と、生産者とシェフの丁寧な手仕事が光る一皿だ。

コース&アラカルト利用から、ワインバータイムまでさまざまなシーンに寄り添う

ワインのラインアップは、フランス産を中心に約300種類。店内には約200本が公開されているが、それ以外にも非公開のバックヴィンテージが静かに眠っている。昨今の急激な為替の変動によりワインの価格が高騰する中で、市村さんは「お客様に適正価格で本当においしいものを楽しんでほしい」という強い信念を持つ。そのため、長年の信頼関係があるインポーターのセラーで大切に寝かされていた在庫や、自身がアンバサダーを務めるブルゴーニュの名門「ルイ・ジャド」のバックヴィンテージを独自のルートで確保し、良心的な価格で提供している。グラスワインも日替わりで1,800~3,300円だ。

18~22時は「レストランタイム」、その後深夜2時までは市村さんによる「ワインバータイム」へと変貌する

一皿一皿の構成や仕込みが極めて丁寧な阿部シェフの料理。そこに市村さんが選び抜いたワインが合わさり、単体では決して生まれない「第3の味わい」が立ち上がる。さらに、錚々たる名店でキャリアを築いてきた市村さんの、驚くほど物腰柔らかでゲストの心を自然とほどいていくサービスが加わることで「第3の味わい」以上の余韻を残す。お2人の温かな接客と、シックな空間がもたらすマリアージュもまた絶品だ。

※価格は税込

文:中森りほ
撮影:佐藤潮