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〈食いしん坊が集う店〉
食べることが好きで好きで、四六時中食べ物のことを考えてしまう、愛すべき「食いしん坊」たち。おいしいものが食べたければ彼らに聞くのが間違い無し! 今回はフードパブリストの高橋綾子さんに今お気に入りの、“とっておきのお店”を教えてもらった。
一歩踏み入り扉が閉まった瞬間に世界が変わる!

銀座7丁目にある「FUKUHARA GINZAビル」。資生堂創業者である福原有信氏の歴史を刻むこのビルの地下に「1864.」があります。以前は会員制のステーキハウスで限られた顧客だけの秘密の店でしたが、今年2月、秘密感はそのままに誰もが入れる魚介を楽しむモダンフレンチへと生まれ変わりました。

地上の喧騒をまったく感じさせない静謐な空気が漂う中、奥へ進むと美しい深いブルーの扉が現れます。ただの扉なのに開けることを躊躇する存在感。なんだか扉の先には違う世界があるような気持ちにさせられます。

その予感は見事に的中しました。一歩中へ入るとまるで潜水艦の中にいるような壁から天井まで一体となった“銀”箔の世界が広がります。その壁にはガラスの照明が点在し、「こちらへどうぞ」と案内してくれるかのよう。その導きに従った先にあるのは7席のオープンキッチンカウンター。無機質なワントーンの空間に、木材、革、石材、ガラスといったさまざまなマテリアルのインテリアが温かみや煌めきをもたらします。

メインダイニングの手前には6名まで着席できる個室を用意。カーテンを開ければキッチンがうかがえ、完全プライベートでありながらライブ感も味わえます。

「1864」は福原氏が西洋医学を学ぶために故郷の千葉県館山から東京へ旅立った年に由来しています。氏のフロンティアスピリットを受け継ぎ、今に続く旅の始まりという意味で最後にピリオドをつけて「1864.」を店名にしました。

シェフはレジェンド、ジャック・ボリー氏の愛弟子として資生堂が経営する「ロオジエ」を37年もの間、支えてきた山下 泉さん。学生時代に「ロオジエ」でアルバイトしたことでボリー氏にその才能を見そめられ、そのまま入店。本来、2〜3年サービスを経験してから厨房に入るのが通例ですが、山下さんは最初から厨房に入りボリー氏からフランス料理の真髄と料理人の心得を学び、全幅の信頼を獲得します。ボリー氏が去った後はそのDNAを後輩へ伝えながら「ロオジエ」の厨房を守ってきました。「1864.」のリニューアルに伴い、2026年1月、福原氏の精神を受け継いだこの店のシェフに就き、“伝統と革新”を表現した皿でゲストをもてなします。
創業者のルーツである館山の豊かな海で取れた魚介を、巨匠のDNAを受け継いだ技で仕立てる珠玉のコース
北海道流氷明け毛蟹のフォンダン カレー風味のソース

こちらでは館山をはじめ、日本近海で取れる魚介や旬の食材を、山下さんの圧倒的な技術と感性で、福原氏の旅のストーリーを込めて仕上げたおまかせコース「Menu Dégustation 1864.」(35,200円 税込・サービス料別)を提供します。コースは7皿ですが「肉料理がたべたい」「もっと食べたい」という人にはアラカルトメニューから追加できます。

まずは前菜の一つ。北海道産の毛蟹のムースと甲殻類のゼリーをキャロットリボンで巻き、上にはほぐした毛蟹をのせています。ソースはバジル、エストラゴンなどのハーブとクミン、カルダモンなどのスパイスを一晩マリネして酸味を利かせたクリーミーな仕上がり。ほのかに感じるカレー風味が味に奥行きをもたらします。

高橋さん
驚いたのはリボンのように巻いた人参がスッと縦に切れたこと。ムースもゼリーもソースも野菜も非の打ちどころがない仕上がりです。食材の個性を見事に調和させるバランス感覚や、美しく丁寧に盛り付けしているのに完璧な温度で提供できるのは、M.O.F(フランス国家最優秀職人章)を受章したボリーシェフのそばで研鑽を積んだからに違いありません。
あわそだち卵のポッシェ 赤ワインソース パニスのムイエットと共に

「フランス料理も本来は地方料理の集合体だと思っています。地方それぞれの食材や調理法をエスコフィエら先人たちが技術と芸術性で昇華し、レシピを確立したのです。この店は魚介が中心のコースなので1品は魚介以外にしています。本日は卵料理にしました」と山下さん。

ブルゴーニュの伝統料理「ウフ・アン・ムーレット」に、フォンで煮詰めた玉ねぎのスライスで甘みをプラスした遊び心のある一皿。「鳴門わかめ」や「鳴門金時」などの徳島名産を飼料に配合して育ったブランド卵「あわそだち」をポーチドエッグにし、カリカリのパンチェッタを添えています。フォンドボーとフュメドポワソンと赤ワインを極限まで煮詰めたソースは最後のバターを少量にすることで優しい味わいに。

高橋さん
やはり山下さんのソースが格別です。一見、かなりコッテリ味ですが予想を裏切る仕上がり。とろみもコクもものすごくありますが、どんなにたっぷりつけても食べ疲れ知らず。それでいて濃厚な黄身と力強い白身を持つ卵に負けない、魔法のようなソースです。

添えられたのは南仏の郷土料理「ムイエット(細長く切ったパン)」。フランスでは半熟卵やソースをディップして食します。こちらではパンではなくひよこ豆をペーストにして素揚げしています。表面はカラッと揚がり、中はふわふわ。濃厚な赤ワインソースによく合います。

高橋さん
豆の風味が体中を駆け巡ります。食感も見事! おいしすぎてソースをつける前に完食してしまいました。
山口県長門産甘鯛とキャビア ウイキョウのソース

ボリー氏のスペシャリテ「甘鯛のヴァプール キャビア添え ソースフヌイユ」をオマージュし、帆立のムースで包んだ甘鯛のローストの上にベルギー産オシェトラキャビアを敷き詰めウイキョウのソースでまとめました。帆立のムースを甘鯛に巻いたことで昇華した、まさに店のテーマである“伝統と革新”を表現した一皿です。ボリー氏の味を再現し革新できるのは愛弟子の山下さんならでは!

高橋さん
「甘鯛の塩の当て具合が決め手」と言うように、絶対的な塩加減が甘鯛の身の甘みと脂のうまみを引き出しています。その甘鯛にキャビアの塩みとソースの爽やかさが溶け合い、隙のない完璧な味となるのです。この料理に出会えて幸せです!
一流シェフによる極上の料理と秘密めいた空間が“レストランへ行く”という冒険心を駆り立てる!

ボリーシェフから学んだことで一番心に残っていることは?と聞くと「マナーです。料理だけでなく人間としてもちゃらんぽらんだと皿に表れると言われ、ハッとしました。朝、厨房に入った瞬間からマナーや所作を大切にしてきました」と言うように、厨房は整理整頓され、鍋はピカピカに磨かれ、調理している姿は凛として美しい!

今まではクローズドの厨房で“ロオジエの皿”を継承してきた山下さん。今はゲストと会話しながら料理するというまったく異なる環境ですが、リクエストに応えて食材を仕入れたり、「今日、こんな食材もありますよ」と即興で作ったり、今までできなかったことができる楽しみがあると話します。福原氏のフロンティアスピリットが息づくこの店でスタートした山下さんの料理人人生の第2章は、食を知り尽くした大人たちをワクワクさせてくれることでしょう。



