【噂の新店】つくし寿司

広尾に誕生した「つくし寿司」が目指すのは江戸時代のファストフードであった屋台寿司。魚介の鮮度を生かし、職人技で仕立てる魅力あふれる寿司種。それを支えるのは燗酒のように温度が下がるにつれて表情を変える酢飯。一貫ごとに最適な組み合わせで握り、寿司本来のおいしさを改めて教えてくれます。

屋台寿司の心を現代にアップデート

屋台をイメージしたカウンター

江戸前寿司とは何か。店主、佐々悠樹さんがその答えを探り、たどり着いたのは江戸時代の屋台寿司。現代のように特別なごちそうではなく、仕事の合間や帰り道に立ち寄って一貫を頬張るファストフード。そんな本来の姿を伝える寿司店を広尾にオープンしました。

まさかの最新ギア!

おもしろいのはただの懐古主義ではないところ。屋台をイメージしながらも空間は洗練され、「町寿司でトイレに行くたび『すみません』って言わないなんて」とテーブルを置いてあえて通路を狭く設計、高級感のある一枚板ではなく親しみやすいL字カウンターを採用、各席には手水鉢と最新充電コンセントを備えるなど、江戸時代の雰囲気と現代の快適さを融合させています。

木札の品書き

目指すのは屋台寿司の気軽さをそのままに、上質な寿司種と確かな技術で高級寿司店にひけを取らない一貫を味わえる店。その思いは予約方法や価格にも表れ、予約は予約サイトで前日に受付を開始。11:30と12:00、13:00と13:30の2回転で「明日行こう!」が実現します。供される握り10貫の「おまかせコース」(10,000円税込)はその内容を知れば驚くほど良心的です。

主役は炊き立てご飯が一番おいしいという発想から生まれた酢飯

ツヤッツヤ!

寿司は酢飯が命と言う佐々さん。使う米は粒が大きく冷めてもおいしい「つきあかり」。合わせるのは白酢と天日塩です。「米は炊き立てが一番おいしいんです。うちの握りは炊き立てご飯で作った酢飯で始まります」と。

さらしの上で水分を飛ばします

酢飯だけを食べるとかなり酢が利いている印象ですが、「酢が馴染んでいないからそう感じるだけで、実は酢の量は他と比べて少ないです」と意外な答え。

お腹いっぱいになってきたらサイズを小さくします!

寿司は酢飯で決まると言い、江戸時代を踏襲した大きめサイズでしっかり握ります。「手数は多いですね。数じゃない。これがおいしいなって瞬間があるんですよ。しっかりしているけどほぐれる。これが僕の“握り”です」と。それにしてもなぜシャリ切り仕立ての酢飯を使うのか。その答えは1貫目にあり!

1貫目から胃袋を掴まれる! 驚きとおいしいが連続する至極のコース

「中とろ」

「一番おいしい状態の酢飯と合わせる寿司種は、やはり“握りの王様”でしょう」と供されたのは「中とろ」。ホカホカした酢飯にのせた鮪の脂が溶けて食感は艶かしい。酢飯には鮪のうまみと甘みが融合し、“極上”を味わえます。

「小肌」

続いては江戸前に欠かせない小肌。中とろと打って変わってキリッとした酢締めに目が覚めます。昔ながらの大きめサイズの酢飯もピタッとはまっています。大きな口を開けて頬張ると、よりおいしく感じるのは“江戸前マジック”?

「白鱚」

軽く塩締めした白鱚は薄く酢を塗ります。中に忍ばせた木の芽がとんでもなくいいアクセントになっています。「木の芽は山椒の葉なので鱚との相性はいい。淡白な味なので、インパクトをつけたくて」と佐々さん。おいしい新発見です!

「真鯛」

出来立てのおいしさを知ってほしいと寿司種も熟成させることはほとんどありません。鮮度抜群の鯛は身が引き締まりピッチピチ。噛むほどに清らかな甘みを感じます。真鯛本来の味に圧倒されます。

「春子」

江戸前寿司を象徴する「春子」は軽く塩を振り酢締めにしています。温度が下がり米粒の輪郭がはっきりした酢飯に、このぷっくりと厚みがあり、やわらかな春子鯛を合わせる佐々さんのセンスも見事。

「赤身」

同じ個体でも「赤身」には酢が馴染んで粒もしっかりと立った酢飯を合わせます。「やま幸」の鮪は脂がなくとも他で味わう「中とろ」を思わせるくらいうまみたっぷり!

「小鯵」

こんなパリッと決まった鯵にお目にかかれるなんて! 軽く塩を当て、必要最低限の酢締めを施すことで、本来の香りやみずみずしい脂を引き立てた、夏の鯵の潔さを堪能できる一貫です。

「真鯖」

「塩で1時間、酢は20分締めています。もともと水分が少ないのでこれで十分です。それから1日寝かしています」と、魚をおいしくするための“仕事”に江戸前寿司の真髄を感じます。

「煮穴子」

目の前に置かれた穴子からはふわりと湯気が立ち上っています。その光景だけでも意表を突かれますが、口に入れると想像以上に熱々で驚きます。捌きたての穴子はふわふわ。「煮詰め」は穴子を炊いた煮汁だけを凝縮したもの。穴子そのものの香りがいつまでも続く、これまでに味わったことのない一貫です。

こんがりカラメル色の表面と黄色の断面のコントラストが美しい!

芝海老のすり身と卵と賞味糖で作った「玉」は、江戸前の「カステラ玉子」と呼ばれるタイプ。卵白を泡立てずにみずみずしくふっくら焼き上げたら、1時間以上かけて重石で押すことでぎゅっと詰まった食感に仕上げています。

「玉」「鉄火」「梅紫蘇」「干瓢巻」

ラストを飾るのは俵のように積まれた可愛らしい巻物です。巻物の白眉は海苔。「炙った瞬間、香りが出たところで巻くのが一番おいしい」と炭で炙りたてにした干海苔は、極細に刻んだかのようになめらかにほどけ、あっという間に跡形もなく消えていきます。3種類の巻物が食べられるのもうれしい!

街に根付き、愛される店でありたい!

追加メニュー

コースを終えて最も印象的だった酢飯。炊き上がったばかりの熱々のご飯に酢を打って切るように混ぜ合わせる「シャリ切り」したての酢飯も衝撃的でしたが、温度が下がるにつれ、一貫ごとに変わっていく食感と味わいにも驚かされました。

心を込めて丁寧に握ります

「出来立ての酢飯を握るのは本当に難しい。持った時に崩れないようにと手数が多くなればネチョネチョしてしまうし温度も下がってしまいます。実は一貫ごとに力の入れ具合や手の平と指の角度の匙加減を変えています。“おいしそう”から“おいしい”に変わった時が一番うれしい」と話します。

狙いは“ダサかっこいい”!

寿司が食べたいと思ったら来店できるように、14時からのアラカルト営業とテイクアウトを準備中。将来的には12時間通し営業を考えているそう。「うまい寿司っていつでも食べたいじゃないですか」と佐々さん。

ここに行列ができる日も近い!

店名の「つくし」には2つの意味があります。1つはかつて広尾が「土筆ヶ原(つくしがはら)」と呼ばれていたことで土地への愛着、もう1つは春の訪れを告げるつくしのように若い職人が大きく成長してほしいという願い。この思いは江戸時代の屋台寿司のように、人に、街に愛される店となることでしょう。

文・高橋綾子 写真・溝口智彦