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〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回、フードパブリシストの高橋綾子さんが教えてくれたのは、麻布十番にあるフランス料理店。
麻布十番の知る人ぞ知る大人の隠れ家「Nose Savoir-Faire」
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
今回紹介するお店は2026年9月現在で点数3.02。その知られざる実力とは?

麻布十番駅から徒歩7分、暗闇坂を少し上った先にあるビルの2階に「Nose Savoir-Faire(ノセ サヴォア フェール)」はあります。数軒の飲食店が同居するも、夜は目当ての店がなければ通らないであろう閑静な住宅街の中にあるからこそ、この店の扉を開ける時の優越感はひとしお。

中へ入れば照明を落とした艶のある空間が広がります。重厚な木のカウンターとやわらかなファブリックのハイチェアが厨房をぐるりと囲み、料理ができる様子を眺めながら会話を楽しめるこの店は、まさに大人の隠れ家と呼ぶにふさわしい。
フランス料理歴50年! 師はフランス料理界の重鎮!

厨房で腕を振るうのは能勢和英さん。19歳で料理の世界に入った能勢さんが最初に師事したのは日本フランス料理界の先駆者、志度藤雄氏でした。吉田茂元首相の料理番を務め、戦前から日本のフランス料理を切り拓いてきた志度氏が料理長を務めていた「クレール・ド・赤坂」で料理人としての第一歩を踏み出します。

志度氏からフランス古典料理の手ほどきを受けた能勢さんが次に向かったのは、松尾幸造氏がヨーロッパの名店で培った技術を日本の食材と融合させ、時代を代表するフランス料理店となった「シェ松尾」でした。松尾氏からフランス伝統料理を受け継ぎ、「シェ松尾 青山サロン」「シェ松尾・松濤レストラン」の料理長を長年務めたのち、「俺の株式会社」に入社。総料理長として「俺のフレンチ」を立ち上げ、一大ブームを築きました。再び「シェ松尾」に戻り、料理長として腕を振るい60歳を機に退職すると満を持して独立。「Nose Savoir-Faire」を開店しました。

志度氏から「どうすればお客が喜ぶか考えること」を学び、「シェ松尾」では決して料理がブレないことを心がけたそう。“料理は神への供物、手を抜くことなく最高のものを作る”という言葉と2人の巨匠から受け継いだ料理人の心と技が能勢さんの礎となっています。
半世紀の経験が生きる、古典と現代が交錯する料理
こちらで供されるのは季節の食材を使った10〜12品からなる「おまかせコース」(40,000円)。今回は「活ブルーオマール」「カレー」「アラスカ」のシグネチャーディッシュ3品を含む5品をご紹介します。
フォアグラ グリーンベジ ピスタチオ

ピスタチオと数種類の野菜でクラッカーを作り、その上にフォアグラ、グリーンベジタブルシート、マイクロハーブ、ナスタチウムをのせた一口サイズのアミューズ。

高橋さん
口に入れた瞬間はフォアグラの風味が主張しますが、クラッカーが崩れ一体となって喉を通ればザクザクッとした食感の心地よさが印象となって残ります。香り、食感、繊細な味わいがこの小さな世界に凝縮されています。
ブルターニュ産ブルーオマール 白桃 ダージリンファーストフラッシュ ベルベーヌ

シグネチャーディッシュは3つあります。その一つは、空輸で届く定番食材のブルターニュ産活けブルーオマール。約1〜1カ月半ごとに調理法を変えて登場。現在は「Season 29」とのこと。

オマールの頭と身は別の料理になります。頭は「ダックプレス」というネジ式のマシンでプレスし、エキスを絞り出します。そのエキスは「ブルーオマールふたたび」となり供されます。

捌きたてのオマールをボイルしたら、丸くくり抜いた桃と同じ大きさにカットして交互に並べます。ファーストフラッシュのダージリンティーとゲランドの塩を合わせた「ダージリン塩」で味を調え、フランボワーズのチュイール、スライスしたラディッシュ、アリッサの花をのせます。仕上げに液体窒素で凍らせたベルベーヌオイルを振りかけます。

茹でてから炭で炙って冷やしたオマールは半透明の身の色もプリッとした食感も見事! この皿の調理工程はかなり多いのですが、すべて目の前で繰り広げられます。「フルフラットカウンターでグランメゾンにはない楽しさを感じていただければ」と話します。

高橋さん
ダージリン塩が思いのほか、いい仕事をしています。“捌きたて”のおいしさも確かにありますが、やはり火入れの素晴らしさがものを言うひと皿ですです。さすが50年の大ベテラン! 百戦錬磨の技ですね。
山口県萩の希少「見蘭牛」サーロイン 南仏オーガニックバルサミコ パースニップ ヘーゼルナッツ

山口県の離島、見島で守り継がれてきた天然記念物の「見島牛」とオランダ原産ホルスタインを交配して生まれた「見蘭牛」は、美しい霜降りで赤身のうまみとコクと香りを楽しめるのが特徴のブランド牛です。

その上質な肉は低温調理でじっくり火を入れ、炭で表面を焼き付けます。しっとりとやわらかい肉に炭火の香ばしさが重なり、噛むほどにうまみを感じます。霜降り肉のような華やかさではなく、肉そのものの味をしっかりと堪能できます。合わせるソースは南仏産のオーガニックバルサミコにイチジクとトリュフを加えた煮詰めたもの。程よい酸味が肉のうまみを引き立てます。

高橋さん
「見蘭牛」のサーロインは歯応えがありつつもやわらかく、ソースが必要ないほど味わい深い。こういう肉は本当に希少! マカは初めて食べましたが、ホースラディッシュのような辛みがあり良いアクセントになっています。流通数が限られる「見蘭牛」は定番食材ではない為、予約時に確認が必須です。また年に数回入荷する貴重な国の天然記念物、幻の「見島牛」も見逃せません!
オマージュ M.Shido


2つ目のシグネチャーはカレーです。「これは志度ムッシュが作っているのを見て覚えたカレーです。私の作った賄いのご褒美にムッシュがカレーを味見させてくれたんです。本当にうれしかったですね。それ以来、何度か“ご褒美カレー”を食べられる機会があり、味を覚えました。ムッシュのカレーはデミグラスソースをベースに秘密のアイテムが入っています。少しスパイシーなのは、私の好みです」と能勢さん。

高橋さん
昔の洋食屋さんのカレーらしい甘みがあり、後味にふわっと辛みを感じるこのバランスが素晴らしい! なんと1週間かけて作るそうです。このカレー目当てに訪れたくなります。
アラスカ


3つ目のシグネチャーは19世紀に生まれた、アイスクリームをメレンゲで覆って焼き上げるクラシックデザート『アラスカ』を能勢流にアレンジしたデザートです。ビーツのアイスクリームにフレッシュトリュフを混ぜた大人の味。舌の上でアイスクリームが溶けていくとトリュフの香りがふわっと漂い、ワインが進みます。

高橋さん
今では滅多に見られなくなったフランベ。照明が暗くなり目の前で繰り広げられる炎のパフォーマンスに歓声が上がります。その高揚感を裏切ることのない味わいに能勢さんの確かな技術とセンスを改めて実感します。バースデーや記念日には特別仕様になるそう。喜ばれること間違いなし!
訪れるたびに心地よさが増していく

50年間フランス料理と向き合い、人生の大半を厨房で過ごしてきた能勢さん。「昔は自分の味やコンセプトにこだわってきましたが、今はお客様が何を求めているかを考えています」と、辛いものが苦手と言われたらスペシャリテであるカレーの味すら変えるそう。味だけでも技術だけでもない、店があり、そこでの一期一会がある。追求しても切りがないから楽しくてやめられない、生涯現役だと語ります。日本におけるフランス料理のレジェンドから薫陶を受けた能勢さんのプライベートサロン、何としても行きつけにしたい店です。


