〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回、フードパブリストの高橋綾子さんが教えてくれたのは、ハイコスパなワンオペのスペイン料理店。

おいしい! おしゃれ! お手頃価格!

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

今回紹介するお店は2026年7月現在で点数3.22。その知られざる実力とは?

店名は「青い薔薇」

亀戸と言えば「餃子」に「ホルモン」というイメージですが、あったんです! おいしくておしゃれで、おまけにリーズナブルな店が! その名も「ROSA AZUL(ロサ アスール)」、スペイン料理の店です。

カウンターの他に2人用のハイテーブルも

白木とブルーグレーが印象的な店内は、洗練されていながら心地よさがあります。カウンター越しにシェフの手仕事を眺められるライブ感が味わえるのも魅力の一つ。

スペイン・サンセバスチャン生まれのポップアートブランド「Callate la Boca」のアーティストÓscar Caslaの作品「COCINERO」
壁にはスペイン料理本をディスプレイ
ハウスワイン的に提供しているワイン

飲み屋が多いこの街で家に帰る前に何か食べたい、何か飲みたいという人の要望に応えるべく、1品でも1杯でもOKのアラカルトスタイルで営業時間はなんと夜中の3時まで。実際、第1波は18時から、第2波は23時を過ぎたあたりから押し寄せ、閉店時間まで賑わいをみせています。

1軒目でも締めに立ち寄るでも! 自由な使い方が街に合う!

「師匠に出会って僕がスペイン料理にハマったように、僕の料理でスペイン料理を好きになってもらえたら」

厨房に立つ店主、二階堂拓麻さんは19歳で飲食業界に入り21歳で代官山「サル・イ・アモール」の立ち上げメンバーの一人としてスペイン料理を世の中に広げました。その後は「ウルフギャング・ステーキハウス丸の内」「ルビーナ」を経て独立。西川口に自身の店を開きますがコロナ禍でやむなく閉店。それから3年ほどがむしゃらに働き開業資金を貯め、2025年8月、亀戸に「ROSA AZUL」をオープンしました。

グランドメニューの他に本日のおすすめメニューも!

世界屈指の美食都市で各国の料理を本場さながらに味わえる東京ですら、スペイン料理はパエリアがひとり歩きしている感があります。スペインではポピュラーな「アホブランコ」「クロケタス」「バカラオ・アル・ピルピル」と言われてもどんな料理なのかまったく見当がつきません。「スペイン料理は地方それぞれに特徴があって、奥が深いんです。例えばパエリアだって地方によって味や具材が変わることを多くの人は知らないですよね。だから馴染みのない地方の郷土料理のおいしさを知ってもらえるように日本の食材を使ったり、料理名をわかりやすくしたりしています」と話します。

今は希少なスペイン産生ハム

こちらで供されるのは師と仰ぐ「サル・イ・アモール」創設時のシェフ、宮崎健太さんに学んだ数々の郷土料理を、二階堂さんのフィルターを通して再構築した料理。肉も魚も大きいサイズで調理する方がおいしいからと、スープ以外は2人でシェアするのにちょうどいい量で提供しています。

郷土料理を軸に新しい一皿へ

サルモレホ

「トマトのスープ」(800円)

スペインの郷土料理として親しまれている料理の一つに「ガスパチョ」や「ソパ・デ・アホ(ニンニクのスープ)」といったスープがあります。二階堂さんはそんなさまざまな地方のスープを、日本の上質な野菜を使って「本日のスープ」としてオンメニューしています。本日はコルドバの「サルモレホ」。トマトの冷製スープです。

トマトの持つ水分だけで仕立てます

使うのは酸味の強いトマトのみ、パンで濃度をつけたら、EXバージンオリーブオイルで乳化させ、ニンニクをほんの少し加えます。ハモンセラーノと刻んだゆで卵をのせて完成です。

 

高橋さん

水や出汁を入れずにトマトだけで作っていることにもびっくりですが、生クリームを入れずにパンを使ってポタージュのようなテクスチャーに仕上がっていることにも驚きました。雑味がなくトマトの味がダイレクトに伝わる至福のスープです。生ハムとゆで卵は欠かせないって初めて知りましたが、その理由は食べるとわかります。

牛タンのレボサダ

「牛タンのレボサダ」(3,600円)

マドリードのバルや家庭で昔から親しまれてきた「Lengua rebozada」。レボサードとは小麦粉と卵をつけてふんわり軽く揚げるスペインの伝統的な調理法です。牛タンは丸ごと1本をやわらかくなるまで3時間ほど下茹でし、皮を剥がしてからソフリットやハモンセラーノと一緒に5時間ほど煮込みます。なんとここまでが下準備とは!!!

厚さ3cmはあろうかと思われる牛タン

次に下準備した牛タンを厚くスライスしてレボサードし、ソテーしたえのきの上にのせます。牛タンの煮汁とフォンドボー、ソフリット、ドライトマトを白ワインで煮込んだソースをたっぷりかけて、素揚げした万願寺とうがらしを盛り付けます。

 

高橋さん

かけた時間と手間は裏切らない! 牛タンの食感がヤバうまです。エッジ部分はサクサッとしていて、タン自体はとてもやわらかい。でも弾力もあって歯切れもいい。これはタンを丸ごと煮込んでいるからだそう。ソースもくどさがなく、2人でシェアするサイズなのに1人でペロリと食べられます。さすがはスペシャリテ!

魚介のパエリア

魚介のパエリア用のスープ

パエリア鍋にスープを注ぎ火にかけ、ぐつぐつしてくると、カウンターはいい香りでいっぱいになります。「具なしのパエリアが一番好きなので、ベースとなるスープには心血を注いでいます」と二階堂さん。スープはパエリアの種類ごとに変えているそうで、こちらは魚介のパエリア用。鯛の中骨でとった出汁にトマト、ニンニク、海老、乾燥パプリカ、パプリカパウダー、ブランデーを入れたオリジナルです。

「魚介のパエリア」(1人前2,100円)

そのスープで米を炊き、具材を入れ、仕上げに2種類のオリーブオイルを回しかけ、イタリアンパセリを振りかけたらできあがり。

パエリアは二階堂さんが取り分けます

「海老は殻ごと食べられます」と言われ頭からガブリと噛めば、おいしい海老味噌が口中であふれます。米は一粒一粒がうまみたっぷりのスープを抱き込み、噛むたびにそのふくよかなうまみがほどけます。何と贅沢な味なのでしょう! 「最後はおこげで〆てもらいます」と二階堂さんが取り分けてくれます。おこげもおいしい!

 

高橋さん

一口食べた瞬間から懐かしい味を感じ、何だろうと悩んでいたら二階堂さんが「鰹節ですね。パプリカを油で炒めて香りを出していて、特に燻製パプリカが鰹節に似た風味になるんです」と。和と洋の魚介の風味が合体した夢のような味わいにお腹も心も大満足!

日常に寄り添う一軒となる!

店名の由来を話して照れ笑い

「本当に亀戸って飲む人が多いんです。パエリアは魚介の一人勝ち、デザートはほとんど出ませんね。賄いはいつも残ってしまったデザートを食べていました」と笑って話します。だからメニューは酒飲みが好きそうなものに絞っているそう。「“飲んだ後はROSA AZULで〆パエリア!”が根付いてくれたらいいなと密かに思っているんですよ」と二階堂さん。青い薔薇を店名にしたのは「夢叶う」という花言葉から。その夢、きっと叶います。

教えてくれた人

高橋綾子

フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。

文:高橋綾子、食べログマガジン編集部 撮影:松園多聞