【噂の新店】И(エヌ)

銀座に新たな予約困難店を予感させるイタリア料理店がオープンしました。言わずと知れた名店「TACUBO」が手掛け、国内外で活躍した矢島直樹シェフが腕を振るう「И」。料理、空間、サービスが一体となり、未だかつてないワクワク感を体験できます。

銀座に出現した特別な空間

ハイセンスなエントランス

インターフォンを押して2階へ、これだけでもこの先にどんな世界が広がっているのだろうと心がざわつきます。店内に足を踏み入れた瞬間、歩いてきた銀座の喧騒が嘘のように消え去り、洗練された陰影のある空間に五感が研ぎ澄まされ期待感が高まります。

矢島直樹シェフ

シェフの矢島直樹さんは無類のイタリア好きが高じてシステムエンジニアから転身した異色の料理人。23歳で専門学校へ入学、卒業後は「リストランテ濱﨑」の門を叩き、6年間の修業を経て30歳で渡伊。ミラノで六十数年営業している老舗「アイモ・エ・ナディア」やシチリアの「パスティッチェリア」などで腕を磨きました。「リストランテ山﨑」の6代目シェフに招聘され帰国、「アイモ・エ・ナディア」で学んだイタリア全土の郷土料理に日本の食材を組み合わせた料理はたちまち人気を博しました。2024年に「TACUBO」のシェフに就任。「違う業態の店を一緒にやろう!」という田窪大祐オーナーシェフとの約束をこの「И(エヌ)」で果たしたのです。

カウンターの他に会員制の個室も

店名にはいろいろな意味が込められています。素材と何かをつなぎ視点を変えることで新しいものを作る、右肩あがりに発展する、GINZAの中心になれるように、そして矢島さんの名前の頭文字。内装と食器は田窪氏が“矢島さんのイメージ”と言う白がベース、料理で彩りを添えます。

伝統料理が「И」の視点で生まれ変わる!

手際の良さもトップレベル!

気になるメニューですがパスタ料理など例外はあるものの、「肉料理も魚料理も大きいサイズで調理した方がおいしいから」と、基本的に2人でシェアする量のアラカルト。料理は取り分けてコース仕立てにしてくれます。本日は矢島さんが選んだ4品をご紹介します。

「赤井川コロポックル村ホワイトアスパラのフリット 石川県能登半島の毛蟹と茄子のタルタル」(3,600円)

国産では最高品質と言われる北海道赤井川「コロポックル村」産のホワイトアスパラガス。食材の上質さがわかるようにセモリナ粉をまぶして素揚げしました。毛蟹と佐土原茄子のタルタルにはケッパーとレモンとエシャロットで酸味をつけています。「このアスパラガスはヨーロッパ産と違い甘みが強いので、毛蟹は優しい味わいの能登産を使っています」と矢島さん。

「北海道 車海老のスパゲットーニ アーモンドとドライトマトのアクセント」(4,300円)

コシが強く弾力があるスパゲットーニはドライトマトとアーモンド、ケッパー、ハーブなどで作ったトラパニ風ペーストを混ぜて、あっさりと軽めながら風味豊かに仕上げた海老のビスクソースと絡ませます。プリップリの車海老を贅沢にも丸ごと1尾トッピングして花を添えます。

「ソースではなくパスタを食べる!」がイタリア流

スパゲットーニは小麦の甘みや香りが群を抜き、アーモンドの香ばしさ、ほんの少し利かせた唐辛子の辛みも心地よい。それぞれ個性がありますが、何かの味が強調されるのではなく、すべてを一つの味に調和させる矢島さんのバランス感覚が素晴らしい!

炭火焼き

「さかな人」と呼ばれる、神奈川県長井漁港に水揚げされた魚を卸す長谷川大樹さんから仕入れたオオモンハタは、唇がくっついてしまうほどゼラチン質が豊か。炭火で皮目は焦げ目をつけ、身はしっとりと焼き上げます。

「神奈川県 さかな人長谷川さんのオオモンハタの炭火焼き マジョラム香るサルマリッリョ」(4,900円)

魚のおいしさを堪能してほしいと、ソースは酸味を加えるためだけのギリギリの量にしています。素材の良さをダイレクトに伝えつつ、絶対的な味覚とバランス感覚で作るソースで昇華させるのが矢島さんの真骨頂。マジョラム香るサルマリッリョソースが爽やかさをまとわせます。

「フランスブルターニュ産 仔牛のクロスタ仕立て カモミールの香り」(6,000円)

低温でしっとりと焼き上げた仔牛は、パルミジャーノやハーブを混ぜたパン粉で、赤玉ねぎとイチジクとバルサミコで作ったジャムを挟み、こんがり焼き色をつけたクロスタ仕立てに。仔牛のミルキーなうまみにちょっぴり甘酸っぱいジャム、そして芳醇な香りを纏ったパン粉のカリカリッとした食感がハーモニーを奏でます。ローストしたカブの瑞々しさを閉じ込めた火入れに感服!

なめらかなソース

「素晴らしい生産者さんとの繋がりで信頼できる食材が手に入ります。だからシンプルに焼くだけです」と言いますが、これだけ削ぎ落として“おいしい”と思わせるのはとても難しいこと。食材の声を聞き、ベストな火入れにする矢島さんの味覚のセンスと高度な技術があるからこそ成立するのです。

大人のわがままを叶えてくれる新星イタリアン

古き良きものは残し新しい味を作り出す!

圧倒的なセンスで素材のポテンシャルを引き出したシンプルな料理こそがイタリアらしいと、食材の姿形をできるだけ変えずにリストランテクオリティの皿に仕上げることに注力してきた矢島さん。目指してきた“一つ一つの食材が主張しているのに調和が取れた料理”は「TACUBO」で得た生産者との絆によって完成し、ここ「И」で繰り広げられています。

※価格は税込・サービス料別

文・高橋綾子 写真・松園多聞