〈食べログ3.5以下のうまい店〉

おいしいもの好きのあの人に「食べログ3.5以下のうまい店」を教えてもらう本企画。今回は、食べロググルメ著名人のフードライター・森脇 慶子さんがおすすめする、麻布十番の人気スペインバルをご紹介します。

昨年麻布十番に誕生した、人気スペインバル

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

タパスは小ポーションなので1人でも楽しむことができる

「地元に根付いたお店にしたいと思っています」。そう声を弾ませるのは吉見吏世さん。麻布十番の人気スペインバル「NICO」を切り回すアンビシャスな店長だ。24歳の若さながら、都内のチャイニーズレストランで働いた後、22歳で単身スペインへ。サンセバスチャンなど数カ所で研修。巷のバルから三つ星レストラン「アスルメンディ」でも研鑽を積み、昨年帰国。恵比寿の“間借りバル“を経て、同年9月、念願の自店を開いた。

クリスティーナ・ジャクソンさんと吉見吏世さん

共に店に立つのは、アメリカ人の父と日本人の母を持つクリスティーナ・ジャクソンさん。「母方の祖父母が割烹や喫茶店など飲食店を手広く営んでいたので、子供の頃から(店の)手伝いをよくしていたので、料理への道は自然の成り行きでした」と話す。そして、より専門的な知識を得るためN.Y.に本部を置く世界最高峰の料理大学「CIA(カリナリー インスティテュート オブ アメリカ)」で学び、卒業後は、和食からイタリアンまで幅広いジャンルを経験してきたベテランだ。同店の前に営業していたおばんざいの店で働いていたのを吉見さんがスカウト。現在、料理は主に彼女が担当している。

「タコのガリシア」1,400円

カウンターにずらりと並ぶタパスは1皿から注文OK!

カウンター席の目の前にタパスが並ぶ

10人も入れば満員御礼のこぢんまりとした店内に一歩入れば、まず、目を引くのはカウンターにずらりと並ぶタパスの数々。おなじみのトルティージャやじゃがいもとカツオのクロケッタ、チョリソに旬のホワイトアスパラガス等々がずらり。


1皿500〜600円から

お値段も手頃なうえ、アラカルト仕様のバルスタイル。それゆえチャコリを片手にタパス1〜2品を軽く摘んでアペロするもよし、片っ端からタパスを頼み、その数200種余りと豊富に揃うワインと共に楽しむもよしと、その日の気分とシチュエーションで如何様にも使える勝手の良さも魅力。まさに日常使いにはうってつけの一軒だろう。

森脇さんおすすめの料理とは?

「トルティージャ」800円

使い勝手の良さばかりではない。料理も上出来。しかも、作り置きをそのまま出すのではなく、一手間かけてアレンジする姿勢も好感度大! 例えば、おなじみの「トルティージャ」も、ただカットして出すだけではなく、一度温めてから、パルミジャーノチーズをたっぷり雪のように振りかけてくれるのだ。見た目は、まるでバスク風チーズケーキ。ふわふわのチーズと共に頬ばれば、軟らかめに仕上げた卵にじゃがいもの優しい甘みが寄り添い、一体となって口中に広がる。どこか洗練された味わいだ。よくよく見れば、じゃがいもは薄くスライスされ、綺麗に重ねられて卵に包まれている。これが、美味の秘訣だろう。

「はまぐり」1個500円(写真は2個で1,000円)

また「はまぐり」は、注文の都度にんにくと白ワインで蒸し、新玉ねぎとトマトのソースと共に提供するといった按配だ。はまぐりのうまみが滲み出たソースも美味ゆえ、バゲットにでもつけて平らげたい。

「アスパラガス」600円

「アスパラガス」は、下に自家製リコッタチーズを敷き、上からアイオリソースをかけている。

〆のイカ墨パエリアも必食!

「パエリア」2,800円

タパスとワインで済ませるのもいいが、お腹に余裕があればぜひ食べてみたい逸品が、イカ墨の「パエリア」だ。パエリアといえば、人数がいないと食べられないことが多いが、うれしいことにここでは1〜2人前サイズ。小さなココット入りで登場するそれは、思わず可愛いと口に出るほど。小ぶりながら、イカ、海老、タコと具は満載。海老の殻とみそからとった海老出汁がじんわりと染みこんだご飯は、一粒一粒がパラリとしていながらも程よいウエット感があり、どこかリゾットのような味わい。イカ墨のコクとも相まってついつい後を引くおいしさだ。

和やかで居心地の良い雰囲気

家庭のキッチンとほぼ変わらぬ条件で、これらの料理を手際よく常に笑顔で仕上げていくクリスティーナさんは、お料理上手なママさんのよう。だからだろうか、どの料理もプロの味というよりは、家庭料理の延長のようなどこかほっこりした温かみがある。そこに、吉見さんのキビキビとしたサービスがうまく絡みあい、居心地の良い空間を創り出している。肩肘張らず、等身大でリラックスして食べられる、まさに地元に根付いたお店の在り方がそこにある。

外観

※価格はすべて税込

教えてくれた人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部
撮影:山田大輔