〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、大阪在住のライター・猫田しげるさんが、大阪・アメ村で朝から台湾の味を楽しめるカフェをご紹介。
大阪・アメ村で台湾の味を四半世紀前から

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
そこで、グルメに精通したあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、大阪在住のライター・猫田しげるさんが、モーニングにもランチ使いにもおすすめの台湾カフェをご紹介。大阪・アメ村で、タピオカブームのはるか以前から台湾の食文化を発信してきた「味庵茶坊」です。

大阪・アメリカ村。古着屋やライブハウス、美容室が入り混じるこの街に「味庵茶坊」があります。今でこそ台湾カフェや台湾スイーツの店は珍しくありませんが、この店がオープンしたのは2000年。タピオカミルクティーが全国的なブームになるずっと前から、台湾の日常の味を伝え続けてきた老舗です。

店主の濱口幸江さんは、実はもともと「台湾にはさほど興味があったわけではない」とのこと。大学の頃にアメリカ留学を希望していましたが、父親が仕事で台湾に駐在しており「予行演習として台湾に住んでみたら?」との提案で台北へ。
道に屋台が置いてあった!?
すると台湾の人の優しさや国のゆる〜い空気、料理のおいしさにハマってしまい、計3年住むことに。飲食店をやるとは微塵も考えていなかったのに、学祭で出店を出したのが大当たりし、「食べ物を売る」ことに興味を持ったと言います。その後「道にいい感じの屋台が置いてあったので、所有者を探して譲り受けて、たこ焼き屋を始めたらめっちゃウケて……」。

その成功体験もあり、ビザの関係で帰国した後、アメ村で2坪の店舗からタピオカミルクティーの店を始めたのだそう。

猫田さん
道に屋台が置いてあるなんてさすが台湾!と驚きますが、まだタピオカがバズる前にタピオカミルクティーを売り出したという濱口さんの先見の明も素晴らしいですね!
台湾2大肉丼のいいとこ取り
そんな「味庵茶坊」は、カフェと言いながらドリンクやスイーツ以外に本気の台湾料理を味わえるのが魅力。看板メニューの魯肉飯(ルーローハン)は、最近は日本でもポピュラーになりましたが、こちらの味は現地に限りなく近い本格派!さらに面白いのが焢肉飯(コンロウハン)。豚の三枚肉をどんとのせた豪快な一杯で、まだ日本でも見かけないソウルフードです。
なんと「味庵茶坊」ではこのどちらも食べたい人のために、両方をのせた「あいがけ丼」を用意。迷ったらまずこれを頼めば間違いありません。

魯肉飯といえば豚肉の角切りを煮込んでご飯にのせますが、濱口さんのこだわりは「豚皮まできちんと入れる」こと。本場の魯肉飯は、豚肉だけでなくゼラチン質の豚皮が入ることで独特のコクが生まれます。ただ、その分どうしても豚特有のにおいが出やすい。そこで濱口さんは、豚皮だけ別に煮込んで臭みを取り除くという手間をかけています。
口に運ぶと、八角の香りがふわりと抜けつつも、日本人が食べやすい上品さも感じられます。脂の甘み、醤油の深み、ゼラチン質のとろみがご飯に絡み「台湾で食べたあの味」を思い出させるような仕上がりです。現地の人から「古早味(グーザオウェイ=懐かしい味)」と言われたことがうれしかった、と濱口さんが語るのも納得。

焢肉飯のほうも、しっかり煮込まれた豚肉が箸でほぐれるほど軟らかく、甘辛い煮汁が染み込んでいます。
もちろん魯肉飯だけではありません。酸辣湯麺や炸醤麺、小籠包、焼売、エビ水晶餃子などの点心類も充実しています。皮から手作りする点心は、この店を長年支えてきた人気メニュー。現地でのコック経験もないというのに、濱口さんの研究心や現地テイストの再現力には脱帽です。

台湾早餐(朝食)もブームの前から
そんな「味庵茶坊」が近年さらに注目を集めているのが、朝ごはんです。台湾では「早餐(ザオツァン)」と呼ばれる朝食文化が根付いており、関西でも台湾モーニングを出す店が増えましたね。しかしこちらも、そのブームが来る前からの台湾朝食の先駆けです。

モーニングは朝8時から提供しており、人気がBセット。台湾朝食の代表格である鹹豆漿(シェントウジャン)と蛋餅(ダンピン)の組み合わせです。

鹹豆漿は温かい豆乳に黒酢を加えてゆるく固めた料理。見た目はおぼろ豆腐のようですが、口に入れると豆乳の甘み、黒酢の酸味、ラー油の香りが重なり合います。表面に浮かぶ揚げパンがスープを吸い込み、とろりとした食感になるのも楽しい。初めて食べると少し驚きますが、不思議と体に染み込むようなおいしさがあります。

猫田さん
濱口さん、「豆腐を固めるのがなかなかうまくいかなくて、でもある日急にできたんです」とのこと。現地の何かが降りてきたのでしょうか!

蛋餅は台湾の定番朝食。薄く焼いたもちもちの生地に卵を包み込んだ料理で、クレープとお好み焼きの中間のような存在です。派手さはありませんが、毎日でも食べたくなる味。台湾の街角ではごく普通の朝食ですが、日本ではまだ食べられる店が少なく、この店の貴重さを実感します。

さらに朝からしっかり食べたいならDセットもおすすめです。中華粥に、小籠包、焼売、エビ水晶餃子、肉餃子の点心4種盛りが付く人気メニュー。やさしい味わいの粥に、肉汁あふれる点心を合わせる構成で、朝食というより小さな飲茶コースのような満足感があります。蒸し鶏サラダや角煮などが付くセットもあり、休日の朝にゆっくり味わいたくなります。

「味庵茶坊」が長く愛される理由はここにあるのかもしれません。流行の台湾グルメを追うのではなく、台湾で暮らす人たちが当たり前に食べている料理を、朝から現地のように楽しませてくれること。

猫田さん
台湾から旅行で来ていたご家族が「もう一度ここに寄って帰りたい」と滞在中に再訪してくれたこともあるそう。台湾の人も懐かしいと感じる味、いつまでもあり続けてほしいですね。

特別なごちそうではなく、生活の味。台湾旅行に行く前の予習として訪れる人はきっと、台湾旅行から帰ってきた後も「あの味が恋しい」とふらりと店に足を運ぶはず。



