〈食べログ3.5以下のうまい店〉

おいしいもの好きのあの人に「食べログ3.5以下のうまい店」を教えてもらう本企画。今回はフードコラムリストとして活躍する門上武司さんに、祇園・花見小路に店を構える「杢兵衛(もくべえ)」を教えてもらった。

100年近く続く京料理

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

「杢兵衛」という店名は、木の「杢目(もくめ)」から

京都らしい情緒漂う祇園の花見小路通。祇園甲部歌舞練場の斜め向かいに、一軒の京料理店が店を構える。元々材木商にルーツを持つ「杢兵衛(もくべえ)」の店内は、カウンターと個室があり、選び抜いた木を巧みに多用した風雅な空間となっている。

一枚板の白木の美しいカウンター席。1階奥と2階には個室がある

店は、昭和3年に材木商であった初代が、大阪・天神橋に店を構えたのが始まり。2代目が京都の下鴨・木屋町へ、昭和39年には現在の地に移転。そして、現在の主人は4代目の寺田慎太郎さん。大学在学時に料理人になることを決め、東京「京味」で3年修業を積む。その後、京都に戻り経験を重ね、平成23年から4代目となる。令和元年には数寄屋大工がとことん木材にこだわりぬいて改装を行った。

4代目の寺田慎太郎さん。大学在学中、ヨーロッパが好きで巡ったとき、日本文化は繊細で誇るべきものだと気づいたとのこと
 

門上さん

友人の贔屓の店であり「杢兵衛」の主人が息子さんの代になり、興味が湧き訪問しました。すっきりした味わいになったと感じました。

いただけるお料理はこちら!

いただける料理は、地産地消を実践し、旬を映した京料理。だが、いわゆる王道の古典的な料理とは一線を介し、寺田さんの独自性が新しい風を吹き込んでいる。夜のみの営業で、コースは22,000円、27,500円(サービス料別)。今回はコースから、おすすめをご紹介していく。

まずは名物、蓮根饅頭の煮鰻のせから。300gと大ぶりの鰻は下処理をした後10分程度炊いて寝かせたのち、丁寧に骨を抜いたもの。佐賀産白石れんこんはすりおろし、塩のみで味付けし、素揚げに。ツメと粉山椒をトッピング。とろとろの鰻のうまみともっちり&ふわふわのれんこんの甘みが他にはない調和を生む逸品だ。

「蓮根饅頭の煮鰻のせ」


椀物の具材は、マナガツオの炭火焼き、筍、コゴミ。マナガツオはふんわりと仕上げるために、油をかけながら焼くことがポイントだそう。出汁は利尻昆布と鹿児島・山川産本枯節を使用し、調味は塩少々のみ。「マナガツオは幽庵焼きや味噌漬けでいただくことが多いですが、香ばしく焼いて椀種にしても喜ばれますね」(寺田さん)

椀物
 

門上さん

いただいた時の椀種はせいこ蟹のしんじょでしたが、椀種と出汁の融合が見事です。椀種をくずしていただくと、味の変化が楽しめます。


蕪にゅうめんは炊いた蕪をすり流しにし、茹でたズワイガニ合わせたところに、極細のそうめんを。オレンジ色のソースは、洗ってばらした塩いくらを裏ごしし、太白胡麻油で乳化させたもの。ゆずの香りを添えて。先付で供される。

「蕪にゅうめん」

こちらも名物の胡麻豆腐。胡麻豆腐に白まいたけを練りこみ、キノコのうまみと風味をプラス。天には蛤。地は蛤の出汁で炊いたおかゆをバーミックスで砕いたもの。白コショウがアクセント。

「胡麻豆腐」

よそではない仕事が育む新しい料理

いくらと太白胡麻油を乳化してソースに、白まいたけを胡麻豆腐に練りこんでうまみをプラスするなど、どの料理にも一工夫あり、その仕事ぶりに驚かされる。「狙いが外れ、失敗から生まれることも多いんですよ」と寺田さんは笑う。今、特に興味を持っていることを尋ねると「野菜、乾物、発酵食品ですね。それらをうまく活用して、肉や魚といった主役となる素材をしっかり支えてサポートできるよう、常に可能性を考えています」とのこと。さらに「流行をとらえつつ、よそにはない仕事をして、自分の思い描くところへ行きたいですね。これまで受け継いだものをアップグレードした、新しい自分の料理を展開したいです」と話してくれた。

どこを切り取っても職人の技が光る空間
 

門上さん

清潔感の漂う居心地のいい店内で、歴史を重ねてきた味わいを堪能してほしいです。

教えてくれた人

門上武司

1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)、「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)、「スローフードな宿1・2」(木楽舎)、など。年間外食は1,000食に及ぶ。

※価格は税込です。

文:木佐貫久代
撮影:福森公博