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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
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岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
フレンチの要素を取り入れたイタリアン

2016年に人形町で開店した「ALVITA(アルヴィータ)」は2025年11月にすぐそばへ移転。席数を18席に増やして再オープン後も、客足が絶えない。その理由はズバリ料理のクオリティの高さだろう。「緻密に積み重ねたフレンチが好きで、その要素を取り入れています」と語るように、アルヴィータの料理はイタリアンをベースにフレンチの手法も取り入れられており、ともかく手間がかかっている。しかしキッチンをのぞくと、そこに立つのはオーナーシェフの伊藤和貴さん一人。その人気は、伊藤シェフの圧倒的な熱量と卓越した技術力によって成り立っているのだ。

伊藤シェフの経歴をたどると、名門・三迫ジム出身のプロボクサーという異色のキャリアがそのスタート。24歳で引退して料理の道に入ると、日本におけるシチリア料理の第一人者として知られるシェフの下で修業。そこで食材を豪快に使って旨さを引き出すイタリア料理の真髄を学んだ。独立後は食べ歩きで研究を重ね、フレンチの緻密な構成力を取り入れた。たとえば看板料理の「イワシとジャガイモのパイ包み焼き」はイタリアンの素材使いとフレンチの旨さを閉じ込める手法が巧みに取り入れられた珠玉の一皿となっている。

ソムリエ資格まで取得している伊藤シェフの熱量はワインのセレクトにも注がれる。料理がイタリアンとフレンチの手法で食材の旨みを極限まで引き出しているため、それと渡り合えるようなワインとして自然派ワインが合わせられている。しかもほとんどのグラスワインが980円均一というから破格。8種類の自然派ワインが飲み放題になるお得なコースも用意されている。伊藤シェフの料理には現代的な感覚で自然派ワインと一緒に味わうのが断然おすすめだ。
前菜盛り合わせ✕厚みのある微発泡ワイン

アルヴィータで必ず頼みたいのは「本日の前菜5種盛り」。どれを取っても重層的なおいしさが表現された品ばかり。「フロマージュ・ド・テット」はフレンチのシャルキュトリーの定番だが下処理と長時間の煮込みが必要な労作。豚肉のあらゆる旨みを凝縮したおいしさとプルンとした食感がたまらない。そして「白レバームース パンデピス」は、パンデピス(スパイスとはちみつ入りのパン)も自家製。しっかり寝かせてしっとりしたパンに、甘めのレバームースがねっちりとからんだ味わいが楽しめた。

前菜盛りはどれもワインを誘う味の設計になっているので、ワインも一緒にオーダーしたい。おすすめはイタリアのさまざまな品種のブドウを使った微発泡白ワイン。「果実の厚みがあり、酸とのバランスもいい微発泡白ワインなので、複雑な味わいのある前菜にぴったりです」と伊藤シェフ。ビワや柑橘系の香りがあってミネラルや透明感も感じる味わいで、料理にあるさまざまな要素を受け止めてくれるワインだった。
イワシとじゃがいものパイ包み焼き✕ミネラリーオレンジワイン

メインにはイタリアンとフレンチの粋が結集したアルヴィータらしい「イワシとじゃがいものパイ包み焼き」を頼みたい。イワシとじゃがいもというイタリア料理でポピュラーな相性の良い食材をパイ包み焼きで旨みを凝縮した一皿。ピュレにしたなめらかなじゃがいもがイワシにからむ絶品の料理だ。この春夏はブールブランソースにイタリアンパセリとアンチョビのアクセントソースを落として爽やかな色合いと風味がプラスされていた。

イワシとじゃがいものパイ包み焼きに合わせて伊藤シェフがすすめるのが、イタリア・リグーリア州にある断崖絶壁の段々畑で造られるオレンジワイン。「シチリアをイメージした食材ですが、パイ包み焼きは北イタリアのイメージなのでリグーリア州の沿岸で造られた潮風のミネラル感のあるワインを合わせました。パイ包み焼きは白ワインだと物足りないのでオレンジワインがおすすめです」と伊藤シェフ。こちらはミネラルと酸の骨格がしっかりあり、オレンジの苦みの余韻がかなり印象的に残るワイン。たくさんのイワシが入ったパイ包み焼きに芳醇さを与えてくれるような組み合わせだった。
赤海老とピスタチオのシチリア風✕だし系赤ワイン

パスタは伊藤シェフが師匠の一皿を食べて「体に電気が走るほどのおいしさ」だったという「赤海老とピスタチオのシチリア風」をオーダーしたい。赤海老を贅沢に何匹も使っているのはもちろん、頭や殻から取った味噌がパスタにからんでいるのがポイント。パスタの色合いからそのおいしさが想像できるように、濃厚なエビの旨みを味わえる一皿となっていた。

赤海老とピスタチオのシチリア風には、フランス・ロワール地方の赤ワインがおすすめ。「ペアリングするときは、料理との共通点を合わせています。こちらの赤ワインはだし感が強いので、エビの濃厚な旨みと相性が良いですね」と伊藤シェフ。伝統的にはグリッロなどの厚みのある白ワインと合わせがちだが、透明感のある赤ワインのほうが旨みもあり、ボディのバランスやフルーツトマトのような香りともマッチしていた。
伊藤さんの「私が恋した自然派ワイン」

伊藤シェフが恋したワインは、フランスのアンドレア・カレクの白ワイン。
「2016年頃にこのアンドレア・カレクのブロンドというヴィオニエで造られた白ワインに出会いました。飲んでみると華やかで果実味があって、とてもおいしかったんです。人の手がほとんど入っていないにもかかわらず、こんなに旨みやエキス感が出るのかと驚いたワインで、自然派ワインの良さに気づかせてくれた最初の一本です。
ブランはシャルドネで造られたタイプで、香りのニュアンスは違いますが果実味の感じは同じようにおいしいですね。ぜひ試してみてほしいワインです」
イタリアやフランスの自然派ワインをラインアップ

アルヴィータでは、骨太でありながら緻密な伊藤シェフの料理にローインターベンションの自然派ワインをラインアップ。「あまり手を広げすぎず、料理のイメージに合わせてイタリアやフランスのワインをセレクトしています。エキス感やミネラル感があるようなブドウの味わいを活かしたワインが僕の料理に合うと思います」と伊藤シェフ。グラスワインはほとんどが980円というサービス価格なのもうれしい。グラスワイン8種類(980円)、ボトルワイン50種類(5,600〜13,000円)。
最高の一皿を作るためなら手間を惜しまない

アルヴィータの「本日の前菜5種盛り」はコース料理レストランでいうアミューズ・ブッシュのような立ち位置だそう。つまり驚きのおいしさを伝えたいというおもてなしの意図がある。手間のかかるパンデピスやフロマージュ・ド・テットを入れているのはそのため。まるで宝石のように磨きあげた品を提供したいという思いの裏側には超人的な労力をかけた仕込みがある。

メインやパスタを仕上げるときも美しい早業で、客を待たせることはない。加えてワインも料理に合いそうな自然派ワインが用意され、サービス価格なのがありがたい。普段はイタリアンやフレンチが好きだけど、ちょっとおもしろい刺激がほしい、そんな人にはぜひおすすめしたい一軒だ。
※価格は税込



