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食通が見いだした、今月の新店
新しいお店がどんどん出店し、ますますの盛り上がりを見せる飲食業界。「気になる店が多すぎてどこの店に行ったらいいかわからない!」という人も多いのではないでしょうか。そこで、グルメ情報に精通している方々に、最近訪れた新店に関するアンケートを実施。特に注目している「今月の新店」について教えていただきました。
今回は、令和のグルメ王、浜崎龍さんが推薦する、「seto」を紹介します。
今月のベストワン
Q. 直近で行った新店の中で、特におすすめしたいお店を教えてください
A. 「seto」です


浜崎さん
九段下。「seto」の扉を開けた瞬間、ここが東京のど真ん中であることを忘れました。オーナーシェフの脊戸壮介氏は、まだ29歳。しかし、その料理を食べれば、年齢なんて記号に過ぎないことを思い知らされます。彼が皿の上に描き出すのは、既存の枠組みや理屈を超えた、純粋で緻密な「味と香りの構築」そのものです。


浜崎さん
北欧の風、ペルーの土、そして日本の森。彼の経歴を聞けば、その引き出しの多さに納得がいきます。デンマークの「Kadeau」、モダンスパニッシュ「Celaravird」、ペルー料理の「MAZ」。しかし脊戸氏は、それらのテクニックを単に披露するのではなく、あくまで自身の内側から自然と滲み出る要素として扱い、フラットな視点で一皿の中に「おいしいレイヤー」を積み上げています。


浜崎さん
脊戸シェフの武器は「発酵」と「香り」のコントロールです。例えば、酸一つ取っても単調ではありません。野菜を発酵させて抽出したジュースをソースとして使い、そこにハーブや木の芽のオイルで香りを移しています。九段下という、あえて喧騒から離れた場所を選んだのも納得です。静寂の中で、シェフの頭の中にある純粋な味の構成を五感で受け止める。ここはレストランというより、脊戸壮介というフィルターを通した「没入型の食体験装置」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。
Q. 「seto」でおすすめしたいメニューを教えてください
A. 「お茶とスープの境界線にある、森の液体」です


浜崎さん
特に記憶に焼き付いたのが、鴨料理と、終盤のすっぽんの出汁です。 鴨は「ラプサンスーチョン(松葉で燻した紅茶)」の中で火入れされ、燻香とお茶の香りを纏っています。そしてすっぽんの出汁には、日本の香木「黒文字(クロモジ)」と乾燥させた筍の皮を使用。口に含んだ瞬間、雨上がりの森の中に立っているような、深く、静かで、それでいて力強い生命の味が広がるんです。


浜崎さん
デザートに出てきた「ブルーアイス(針葉樹)」のアイスクリームに至るまで、最初から最後まで「香り」のレイヤリングが凄まじい。最先端のガストロノミーでありながら、どこか懐かしく、身体が浄化されるような食後感。正直、このクオリティと体験価値で、まだ予約が取れることが奇跡に近いです。食通たちの間で「九段下にヤバい店ができた」と囁かれはじめている今が、訪問のラストチャンスかもしれません。


