強みは和食で培ったセンス。伝統を踏襲しつつ新時代の寿司を目指す

一見すると、寿司店には見えないモダンな外観

本田:「鮨さいとう はなれ NANZUKA」にはどうして移ってきたの。

沼尾:チャンスだと思ったんです。僕がやりますと手を挙げて、「やれるのか」と言われたので、「やります」と答えました。六本木から離れて自分の実力を見てみたいと思ったんです。この店は売り上げがマイナスの状態だったので、自分の実力でプラスにしようと思い、立候補して移動してきました。

本田:普通だったら、ここを担当するのは尻込みするよね。まず集客が難しい。

沼尾:六本木でいろいろ経験させてもらっていたので、こちらに移っても怖くはなかったですね。あまり寿司店らしくないから、お客様が入んないんじゃないのとか言われたこともあります。ですが、六本木時代にお客様との距離を縮めていたから、店を移っても、来てくれるだろうと思っていました。実際、問題なく予約が埋まっています。

店内はギャラリーを兼ねており、現代アートを楽しむこともできる

本田:あまりお客が来ない店をここまで繁盛させた。4月まで予約が埋まってるんでしょ。すごいね。六本木の個室は、何年担当したんだっけ?

沼尾:丸3年やっていました。

本田:そこでお客が付いたのが大きいよね。

沼尾:六本木時代から長く来てくれているお客様のおかげです。中には、六本木じゃないと嫌だというお客様もいます。そういう意味で、個室に来てくれていたお客様は「鮨さいとう」に来たいのか、僕の寿司がいいのかがはっきりわかるようになったのはよかったと思っています。今のところ、来たお客様、全員がリピーターになってくれていますし、新しいお客様を紹介してくれたりもしています。

真鯛の昆布締め。4日ぐらい寝かせている。さらに昆布締めにして味を凝縮させている

本田:こっちに移ってきてから変わったところはある? 握りはどう?

沼尾:握りは六本木時代と一緒です。ネタは少し変えました。個人的な好みで、厚めに切ったヒラメやタイなどの白身をじっくり寝かせて、昆布締めにして味わい深くしています。

本田:つまみはどうしてる?

沼尾:自分が出せるものを出して楽しくやっています。実家が割烹をやっていたこともあって、和食の経験があるので、ノレソレのゴマダレのような自分のレシピをつまみに入れています。常連さんに好評です。

本田:ノレソレのゴマダレ、うまそう。結構、つまみの内容は変えた?

沼尾:あん肝やタコといった「さいとう」の定番は変えずに残しつつ、少し遊びで新しいメニューを入れています。昔から、ちょっとした材料で料理を作るのが得意なんです。

本田:子どものときから料理をやっていた?

沼尾:高校のとき、和食グランプリで優勝しました。そのときから、余ったもので何かを作るのは、得意だったかも知れないですね。

あん肝。ぎりぎりの温度で加熱し、クリームチーズのような食感に仕上げている。上から、甘じょっぱく温かい餡をかけていただく

本田:和食ができるのは寿司では強いよ。寿司店と和食店との違いはつまみ。和食をやってきた人が作るつまみは奥行きが違う。引き出しがある。つまみはいろいろ試作している?

沼尾:結構させてもらっています。和食の道に進んだ弟に聞いたりして、勉強しているところです。キャビアをのせるような大げさなことはしませんが、だしの具合を変えてみるとかちょっとした工夫をしています。「久兵衛」時代、和食の勉強を兼ねて神楽坂の割烹などでアルバイトしてたんです。

本田:そういう経験があるのはいいね。なかなかできないけど。今も何か勉強しているの?

沼尾:野菜ですね。野菜料理だとお浸しとかはあるんですけど、だしを使った料理を箸休めに出したりしたら、喜ばれると思うんです。そういうのをやりたいなと思います。あと、つまみの組み合わせとかも考えたい。ただし、あん肝の横に野菜を添えてみたいなことや料理を盛り合わせる八寸の形はやりたくないです。その形にするなら、ちょっとしたものを、気が利くねと思われるぐらいのタイミングで出したいです。

本田:いろいろ食べ歩いている?

沼尾:主に和食ですね。寿司も食べて勉強させてもらっています。

本田:定期的に行く店はあるの?

沼尾:寿司店だと「島津」と「鮨 西崎」。「日本橋蛎殻町 すぎた」も予約の枠を持っている人に連れて行ってもらっています。勉強になりますね。

本田:和食はどういうところに行っているの?

沼尾:和食は「西麻布野口」に行くことが多いですね。リーズナブルで質の良いものを出しているなと思います。京都だったら、3回ぐらいしか行っていませんが「道人(どうじん)」とか。

本田:「道人」素晴らしいよね。飛び抜けている。

沼尾:料理が驚くほど丁寧でした。クオリティが高いなと思います。器もいいですし、日本酒を出すときの所作も奇麗ですね。

本田:西麻布の「明寂(みょうじゃく)」には行った?

沼尾:行ったことはないです。行きたいですね。

本田:参考にはならないかもしれないけど、カツオや昆布だしに頼らないという「明寂」の考え方はすごいなと思う。オリジナリティがある。

沼尾:絶対に行った方がいいですね。何かしら勉強になることがあると思います。