外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載。外食をするには避けて通れない「お酒」について教えていただきます。第1回は「ワイン」編。

ワインの頼み方がわからない!

フランス料理店やイタリア料理店、寿司屋や割烹に行く。料理をお願いしたあと、お酒を頼む。この瞬間が苦痛に感じたことはないだろうか?

 

僕も20代の頃、ここぞというデートの時はフランス料理店に誘った。1970年代の頃だから、今のデート事情とはだいぶ違う。現在は店の選択肢が多くあるが、当時は決定打はフレンチに行くというのが常識。そして今の時代は割り勘も多いようだが、当時は男性が奢ることが当然だった。

 

そしてコースをお願いする(当時の値段で6~8千円くらい)。その後にソムリエがうやうやしくやってきて、「お飲み物はいかがでしょうか?」と聞きながら、ワインリストを渡された。

 

20代の小僧としては、もう高価なフランス料理を食べているというだけで予算的に背伸びしているので、その上にワインも頼まなきゃいけないのかと戦々恐々だった。また当時は、グラスワインがあまりなかった。

 

「コースの料金と同じくらいか少し高いワインを頼みましょう」と、指南本に書かれていたが、8千円のコースを頼んで8千円のワインを頼む勇気がない。仕方なく一番安いワインを頼んだことを覚えている。

今では事情が変わって、フレンチに行かなくも、ワイン選びをしなくとも、デートは成り立つだろう。だからこそ、最近の若い人は「ワインを選ぶ」という機会が減って、ますますできなくなっているということもある。

 

だが、今でもこういうタイミングはやってくる。年齢を重ねれば、重ねるほど機会は増えていく。ペアリングというスタイルもあるが、なにか酒を選ばなくてはという決断を迫られる時がある。

 

「ワインはいかがしましょう?」

「ううむ……」(そんなこと言われてもわかんないよ)

「どんなワインがお好みですか(もしくは、どんなワインを普段飲まれていますか)」

「ううむ……」(そんなこと言われてもわかんないよ)

 

と思いながら、二番目に安いワインを頼んでしまうことはないだろうか?

 

僕も若い頃粋がって、「白ワインで重いのください」と言って、明らかにソムリエが困惑している場面にも出くわしたし、あるいは「赤で重いのください」といって、高価なワインを持ってこられ、断りきれなくなってしまった惨劇も経験した。

(注、白ワインは軽やかな味なので、”重い”という表現はほとんどしない。赤で”重い”ことは重厚感のあるワイン、つまり高価なワインととらわれる場合がある)

 

サービスの仕方や、言い方にも思うところが多い。

「どんなワインがお好みですか」は、追い込み型というか、あまり感心するサービスではないと思う。

「ううむ……」と言っている時点で、困っていることを察知して、

「ご注文いただいた料理(コース)ですと、このワインなどはいかがでしょうか」と、さりげなく安いワインを指し示してくれる方も多くいて、この方がスマートである。

しかし「ワインはいかがしましょう?」の決断機会は、頻繁にある。

 

「そうだな、凝縮した豊かな果実味と精密さ、リッチでねっとりとした酒質の赤ワインはある?」

「うーん、しっかりした黄金色で緑を帯び、ブリオッシュのバター、蜂蜜などの香りを感じる、エレガントな白ワインはある?」

 

なんてことは到底言えない。ここまで言わなくとも、「樽香のきいたシャルドネが飲みたい」くらいの軽いセリフも出てこない。

 

困った。

ワインの注文は怖くない!

そういう時は気分を言うのである。

 

「今日は日中暑かったから、まずは涼しくなるようなワインが飲みたいな」

「今日は日中会議詰だったから、頭がパンパンで疲れてるんです。なにかそんな頭を和らげてくれるワインがいいな」

「彼女のお母さんが昨日誕生日でね、お祝いしたんですって。僕もお祝い気分を盛り上げたい」

「彼女は今日仕事でうまくいったことがあったんです。その成果に乾杯したい」

 

といったことである。

 

「料理に合うワイン」を選ぼうとするから、難しいのである(それはそれで楽しみがあるが、経験値と知識が必要になる)。「気分に合うワイン」を選べば、結果として料理の邪魔をしないワインを選ぶことになる。

 

実際僕もよく使う。するとソムリエサービスの方は、ここぞとばかり本領発揮して、ワインを選んでくる。

そういう時に彼らは、決して高いワインを選ばない。時には3本くらい机に置いて、説明してくれることもあろう。味わいや香り産地ぶどうについて説明してくれる。産地やぶどう品種を言われてもわからないが、味わいや香りは伝わってくる。

 

そこでまた悩んでもいい。もしそれぞれの値段を言われなかったら、聞いてみる。それは決して恥ずかしいことではない。

 

あとは味わいや香りの説明で響いたものか、ジャケ買いである。「このエチケット(ワインのラベル)かわいいよね」と言って選ぶのも手である。

ただし高級店(グランメゾン)になると、この手法はやりづらい。

 

そういう時は、ワインリストを眺め、いや正確には価格表だけを見て1万円を切るワインを頼むのである。例外もあるが、高級店の1万円を切るワインは、たいていお値打ちである。

 

また、場数を踏んで、少し慣れてきたら、こういう注文もできる。ワインリストの安めの金額あたりを指差し、「この価格帯でこれが飲めるのかっていう、お値打ちのワインをお願いします」。このケースも、ソムリエが張り切って、ワインをチョイスする。だが場慣れしてないと、なかなか言えないとは思う。

 

に余談だが、以前青山「ドンチッチョ」で、「ワインはどうなさいますか」と聞いてきたサービスの方に答えたことがある。

 

「今日は飲み放題でお願い」

 

ちなみに飲み放題なんていうシステムはない。しかしその熟練のサービスは、戸惑うこともなく、即座に「かしこまりました」と笑顔を浮かべて、去っていた。そのあと安くて、美味しいワインが続々と出され、我々は大いに楽しんだのであった。

 

出典:アリスフォーンさん

次回は、

その2 「日本酒」編

その3 「食前酒、食後酒、水」編

に続きます。