外食力の鍛え方〜客上手になろう〜

タベアルキスト・マッキー牧元さんの連載。今回は、知っているようで知らない「水」について教えていただきます。

「水」は外食するうえで大切な飲み物

「正しい水の頼み方」なんてあるの? そう思われるかもしれません。でもお酒を飲む人でも飲まない人でも、水は食事をよりおいしくする、大切な飲み物なのです。

 

ある程度のフランス料理店やイタリア料理店に行くと、必ず「お水はどうなさいますか?」と、聞かれます。特に海外では必ず聞かれます。そのとき、いかにスマートに受け答えするか。その行為によって、食事の時間がますます楽しくなるはずです。

水の効能とは

まず最初に、水の効果を考えてみましょう。

 

第一に、喉の渇きを癒やすことができます。喉の渇きはすなわち、体の水分が足りない状態ですから、体を正常な状態に戻して、食事を美味しくいただくことができます。食事前に炭酸水を飲むと、幾分食欲が抑えられます。あまり空きっ腹でレストランに臨むのは、上品ではありません。もちろん飲みすぎは厳禁です。また水を飲むことによって、前に食べた食事やワインの味をリセットできます。そのため次に出される料理やワインの味を、よりよく味わうことができます。

食事をもっと美味しくする、水/Getty Images

 

第二に、食事の消化を助ける働きや、酒酔いを緩和する役目もあります。レストランは、その店の食事に合うようなミネラルウォーターを用意していることがよくあるので、僕は必ず頼みます。水は、フランス料理店やイタリア料理店など西欧系料理だけでなく、寿司屋や割烹でも頼みます。特に日本料理では日本酒を飲むことが多いので、アルコールの緩和のためにも必ず頼みます。

 

最近では日本料理店でも、各種ミネラルウォーターを置いてあるところが多くなりました。しかし燗酒に冷水では味気なく、また割烹の白木のカウンターに透明な水のグラスというのも色気がないように感じられるときは、「お白湯をお願いします」といって、お湯をいただきます。

いよいよ、水を注文

さてそれでは、「お水はどうなさいますか?」と聞かれたらどうしましょう。このケースでは、たいていの場合、炭酸入りか炭酸なしの水の選択(ガス入り、ガスなしと表現するところが多いです)となります。ガス入りは、喉に清涼感がある分、人によっては胃袋が膨れてしまう人もいるでしょう。一方で脂っぽさや塩っ気を洗い流してくれるという、いい点もあります。ガスなしは、なめらかで抵抗が少ない。食材に寄り添う感じ。

 

ちなみに海外では、有料の水は、mineral water より「bottled water」と呼ばれ、炭酸入りを「sparkling water」「soda water」「water with gas」などといい、炭酸なしを「still water」「water without gas」などと呼びます。

 

どちらかを選ぶのに正解はありません。「ガス入りをお願いします」「ガスなしでお願いします」という言い方でもいいですし、「スパーリング(ウォーター)を」、ガスなしの場合は「スティル(ウォーター)を」でも構いません。

 

もしあなたが男性で、女性もいる2人以上のグループなら、女性に先に選んでもらい、男性はそれに合わせるのがスマートでしょう。もちろん4人いてバラバラに頼んでも、ルール違反ではありません。しかし、レストランのサービスを考えると、統一した方がスマートだと、僕は考えます。

 

困るのはガス入り2種類、ガスなし2種類と置いてある店でどちらにしますかと聞いてくる場合です。そこまで用意している店なら、「どう違うのですか? どんな味ですか?」などと聞いてもいいでしょう。何しろレストランというのは、そう聞いてくるお客さんは、食べて飲むことに積極的だと捉えるので、嬉しいはずですし、大切にされます。

 

主立ったミネラルウォーターは、後に列記しますので、参考にしてください。

わからないことは、臆せずウェイターにきいてしまおう/Getty Images

 

さて、今までの話は、ミネラルウォーターの例です。もちろん水道水も頼むことができます。

 

英語圏の海外の場合はtap waterと呼び、フランスでは、「de L’eau Robinet(ド・ロー・ロビネ)」と注文したりします(ロビネは蛇口の意味)。すると水道水をキャラフ(※)に入れて持ってきてくれます。なにしろミネラルウォーターは無料ではありません(おおよそ800円前後から。値段が知りたければ聞くことは恥ずかしいことではありません)。そのため、堅実派のフランス人はこう頼むわけであります。

 

※水差し、ピッチャーのこと。カラフェとも言う。

水道水、英語なら“tap water”と頼もう/Getty Images

 

ただ僕は、そのレストランがどんなミネラルウォーターを置いているかということも、店の考えを知ることができますし、レストランというのはただ美味しいものを食べに行くだけではなく、非日常を楽しむ空間と考えていますので、あえてミネラルウォーターを頼みます。

 

でもなかには「ミネラルウォーターでなくてもいい」と思う人もいるでしょう。そういうときは「普通のお水をください」といって頼みます。でもこれではしゃれていない。もう少しマシな頼み方はないでしょうか。ただし「水はロビネで」や、「tap waterください」では、少し抵抗がありますね。そこで例えばその店が青山にあったとしたら、「青山のお水をいただけますか」と頼むのはどうでしょう。そうすると少しだけユーモアが効いて、サービスとの距離感が縮まる感があります。でも「青山のお水2019年をいただけますか」では、ちょっとやり過ぎかもしれませね。

 

ある店では「青山のお水」と頼んだら、透明なボトルに水を入れ「AOYAMA 2019」と手書きされたものが出てきたそうです。しゃれていますね。

 

レストランとは、こうしてその時間、空間を臨機応変に楽しむところなのです。

そもそもミネラルウォーターとは

ミネラルウォーターの種類には硬度とpH(ペーハー)値という大きな二つのポイントがあります。

 

硬度とは、水1,000mlの中に含まれているミネラルのうちカルシウムとマグネシウムの合計含有量を表した数値。硬度が120mg/リットル以上の水を硬水と言い、120mg/リットル未満の水を軟水と言います。硬水はミネラルが豊富で西洋料理と合い、軟水はのどごしが柔らかで飲みやすいという特徴があります。例外もありますがヨーロッパのお水は硬水系が多いです。

 

pH値とは、水の酸性・中性・アルカリ性のレベルを0~14の段階で表した値のこと。中性のpHは7.0で、それより低くなれば酸性に、高くなればアルカリ性となります。

 

有名なミネラルウォーターには、クリスタルガイザーやボルヴィック、ヴィッテルやコントレックスなどがありますが、レストランにはほぼ置いていません。以下はレストランによく置いてあるミネラルウォーターです。

ガスなし

 

エビアン 硬水/pH7.2/フランス産

中硬水でもっとも有名な水の一つ。カジュアルなレストランでよく見かける。

エビアン

by Anna Webber/Getty Images

 

スルジーヴァ 軟水/pH6.5/イタリア産

ヨーロッパのものとしては珍しい、口当たりよい軟水。

 

アクアパンナ 軟水/pH7.1/イタリア産

赤ワインとの相性が良いとされる。日本人の味覚とも相性が合う繊細さを備える。

 

ヒルドン 硬水/pH7.2/イギリス産

硬水ながらなめらかな口当たり。

 

ガス入り

自然の湧き水の状態で炭酸ガスが含まれているものと、人工的に炭酸ガスを入れているものがあります。

 

サンペレグリノ 硬水/pH7.0/イタリア産

世界中のレストランで普及率が高い水。日本でもイタリアンレストランに多い。

 

サンペレグリノ

by Astrid Stawiarz /Getty Images

 

ペリエ 硬水/pH6.0/フランス産

日本でもよく見かける、炭酸水の代表格。

 

フェッラレッレ 硬水/pH6.2/イタリア産

天然発泡性。ソフトで口当たりがやさしい。

 

ソーレ 硬水/pH7.67/イタリア産

中性に近い弱硬水、天然発泡性、微炭酸。1997、1998年にはアメリカのプロのシェフ達による審査で「ベストミネラルウォーター賞」を受賞している。

 

バドワ 硬水/pH6.0/フランス産

フランスで定番の天然炭酸水。200年以上前から飲まれている。

 

ヒルドン 硬水/pH7.2/イギリス産

無発泡と発砲の2種類がある。硬水ながらなめらかな口当たり。個人的に好き。

 

シャテルドン・フランス 硬水/pH6.2/フランス産

1650年、太陽王ルイ14世に主治医が献上した天然微発泡性のプレミアムミネラルウォーター。泡が極小で心地よい。ただし高価。余談だが、お酒を飲まない人は割り勘負けしないようにこの水を楽しむと良い(笑)

スマートに水を頼もう!

「水」への理解を深めていただけたでしょうか。自信を持って水を頼むことができれば、外食がもっと楽しくなるはずです。

 

文/マッキー牧元