雑炊まで上手に作れてこその、鍋奉行なのだ

前回は鍋奉行の役目とその作法について説いた。今回は雑炊編をお届けしたい。

 

「雑炊は鍋奉行としての有終の美を飾る、最後のステージ」である。もししくじると、今までの時間が台無しになり、明日が来ないが、成功すれば、賞賛され、人々の記憶に残り、人望だって集められる。
鍋料理で最後に口にするのが、雑炊だ/getty images

 

なあに、びびることはない。人の手で最後を踏みにじられるくらいなら、自分の手で挑戦してみよう。僕も今まで何回も挑戦した。様々なやり方を試し、様々な人から習った。最初は、なんども味見しながら塩を入れ、恐る恐る溶き卵を入れ、蓋をして、蓋を再び開けるときには、心臓が止まりそうだった。でもそういう経験を重ねて、上達するのである。

 

「そこまで鍛錬を重ねたくはない」という人はこれからお教えする方法をまねしてほしい。

言葉巧みに期待感を高めるのもコツ

まず、鍋の中に残った食材やカスを一旦綺麗にする。少々残っていた方がいいという人もいるが、この方が作りやすい。

 

一旦鍋の汁を沸かし、アクを少しとる。塩で味付けする。理想は、ここで味付けを決めることである。自信がないときには、少し薄いかなくらいが無難。そしてよそう時にこう言う。「薄味に味付けしていますので、もし薄かったら自分で塩でもポン酢でも入れて調整してください。でも最初の一口はそのままで食べてね」

 

そう。雑炊作りはマジックに似ている。言葉や仕草巧みにして、食べる前から「美味しいに違いない」と思わせることが肝心である。

 

日本酒をお猪口半杯入れる。今まで飲んでいたお燗の酒でもいいし、雑炊が近づいてきたら頼んでおくのもいい。雑炊にうっすらと甘みをつけ、嫌な臭いを消すためである。だが一般的にはあまり味の差異を感じとれる人はいないだろう。これも一つの演出であり、そのためには、お猪口を持ってやや高い位置からゆっくりと注ぐ。ただし入れすぎは酒臭くなるので、お猪口で入れ、沸騰させてアルコール分を飛ばす。

 

鍋の食材のうち、豆腐をわざと一個残しておいて入れ、それをお玉で細かく潰す(適当でいい)。これによってご飯以外に豆腐の優しい甘みを加えることができ、より美味しいと感じさせる。しかしこれも差異を感じとれる人は少ない。一種の演出効果である。今までの僕の経験で言うと、これをやった瞬間にみな「おおっ」と驚き、顔が輝く。マジック効果である。

 

ご飯を入れる。理想は炊きたてのご飯。よく「ご飯を洗う」などというが、あれは料理屋が冷えて固まったご飯をほぐし、かつ誤魔化すためにやっていることである。ご飯のおいしさは米粒の周りについた甘いおネバにもあり、それをわざわざご丁寧に流すなど、愚か者の仕業である。ご飯を入れ(つゆは沸騰させない)、適度にほぐす。ご飯の量は、後でふやけるので、やや少ないかなと思うくらいの量がいい。

理想は炊きたてのご飯/getty images

「雑炊五段活用」で完璧!

さあここからは、さらに僕が生み出した高等な技、「雑炊五段活用」を覚えよう。まったくもって難しくはないが、メンドーだと思った方は、三段階目に行こう。

 

一段目:ご飯を鍋に入れない。白いご飯をごく少量茶碗によそい、そこに鍋つゆを注ぐ。茶漬けのようにして食べ、シンプルな鍋つゆの味を楽しむ。

 

二段目:ご飯を投入、軽く煮て(1分弱)茶碗によそう。生姜の搾り汁を数滴かける。あっさりと、サラサラとかきこむ。おいしい。

 

三段目:さらに火を通し(2〜3分)、米が膨らんで汁を吸ってきたところを見計らい、溶き卵でとじる。溶き卵は溶きすぎない。やや白身が残る感じでいい。そして細く卵液が落ちる容器(片口など容器の一部が細長い注ぎ口になっているもの)があれば、高い位置から注ぐ。最初は鍋の真ん中で、それから鍋の端へと螺旋を描くように。容器がなければ、穴の開いたお玉が必ずあるはずなので、それを通して雨のように入れると満遍なく注げる。そして目を凝らして様子を見て蓋をして30秒。蓋を開けたら、ゆずのみじん切りを散らし、よそう。

 

四段目:別の味、雑炊でなく「おじや」を作る。残ったご飯を煮詰めて鍋肌に炒りつけるようにして、米が膨らみ一体化して糊状になったら、そのぽってりご飯をよそい、もみのりをかける。

 

五段目:白いご飯をよそい、その上におじやをかける。ご飯オンご飯である。今まで何回もやったが、皆最初は懐疑の目を向ける。だが、食べると、笑い出す。

 

どうです。マッキー式雑炊五段活用。ぜひ挑戦してね。

 

文/マッキー牧元