「Chefs for the Blue」のメンバーシェフ
松本シェフが加入している社団法人「Chefs for the Blue」は、水産資源の現状に危機感を抱く料理人とジャーナリストが“サステナブルな漁業のあり方”を考えるグループ。2017年の発足時からここで“獲りすぎない”“海を傷つけない” 方法を学んでいるシェフは、日頃から環境に配慮した漁法で獲れた魚や未利用魚を使用している。
たとえば「桃コース パート2」の前菜の「瞬〆スズキ」は、千葉県船橋市でサステナブルな漁業をおこなう大野和彦さんが獲ったものだ。「瞬〆」は大野さんの得意技で、獲れたばかりのスズキを活け締めした後、エアガンで神経を抜き取って鮮度を維持する技術。「神経締めなので澄んだクリアな味わいが特徴です」という瞬〆スズキは清らかな旨みがあり、きゅうりの清涼感やマスカットの香りとよく合う。シェフは魚のおいしさだけでなく、サステナブルな漁のスタイルにも共感しているそうで、大野さんの活動がどれだけ海にとって良いことなのか話してくれた。
「大野さんは5~10月の脂の乗った抱卵前のスズキだけを獲り、小さな魚は放流することで資源管理に取り組んでいる方です。さらに神経締めすることで魚の価値を上げてブランド化しています。そうやって魚の価値を上げることで、漁師さんが頻繁に漁に出なくても潤うという、良い流れができています。海の魚は獲り放題なところがあるので、漁業者が自分たちでルールを設けたり、横のつながりで乱獲しづらい雰囲気を作ったりすることが大事。安くたくさん売るのではなく、少なく高く売る方法を発信して漁師さんたちに知ってもらうことが、乱獲防止の一助になると思うのです」
ミシュランガイドの「グリーンスター」を獲得するレストラン
「ラ ペ」では、おいしさとサステナブルな観点から、神奈川県長井漁港の長谷川大樹さんの魚も使用している。未利用魚とは、見た目が良くなかったり、骨の入り方が複雑で扱いにくいという理由から、利用されずに捨てられる魚のこと。長谷川大樹さんは、こうした未利用魚に神経締めなどの適切な処置を施し、価値を高めている仲買人だ。
「長谷川さんの素晴らしさは、未利用魚に適切な処置をして価値を高めていることです。金目鯛のような調理しやすい魚は人気のため獲り過ぎになりがちですが、未利用魚のおいしさが知られて流通するようになれば、魚種の人気が分散し、一定の魚種の獲りすぎを防ぐことができます。こういうことも、伝えて知ってもらうことが大切だと思っています」
未利用魚やサステナブルな漁法で獲れた魚を使う松本シェフの取り組みは、ミシュランガイドにも評価され、サステナビリティを推進するレストランに付与される「グリーンスター」も2022年から獲得している。
未来に資源を残すために、ひとりひとりがどう行動すべきか? 「ラ ペ」を訪れれば、きっと考えるヒントがつかめるだろう。10月からは「栗とキノコ コース」が始まるので、ぜひ足を運んでみてほしい。