上質な魚介で作る究極のシンプル料理
こちらは3,300〜13,000円のコース料理に、メニューは限られますがアラカルトも提供しています。今回はコース料理から抜粋してご紹介します。こちらは前菜の一品「赤茄子とウニの冷製カッペリーニ」です。
素揚げした赤茄子に蛤出汁を吸わせ、生クリームと共にパスタに和え、その上に小樽のバフンウニと穂紫蘇をデコレーションします。
何という複雑妙味なのでしょう。イタリアンとも和食とも言えない、しかしどこかで口にしたことのある味がいくつも重なり、今まで経験したことのない“おいしい”が口中を刺激するのです。
スペシャリテは手打ちのパスタ「トロフィエ」。このジェノベーゼソースはイタリアで働いていたレストランにいたジェノバ出身の料理人に教わったレシピに蛤出汁や蒸し鮑などオリジナリティをプラスしています。アーリオオーリオベースに蛤出汁のうまみと香りが相まって、馴染みのあるジェノベーゼがハッとする驚きに満ちた皿になりました。
店名に表される魚介料理。本日はクエを炭火で休ませながら時間をかけてゆっくりと火入れします。「このクエは7kg超えなのでどのくらい寝かせるのが良いといった話はその魚のことを一番わかっている魚屋さんに聞いて、どういう料理にするか考えています」と石川さん。
そうしてイメージしたのは炭火焼きしたクエに甘鯛の骨やアラで取ったスープをかけ、クエと甘鯛を異なる調理法で上品なうまみを重ねた皿。スープを口にした瞬間、全身に衝撃が走ります。使っているのは食材と水、ほんの少しの塩だけと言われても、とても信じ難いほどふくよかな味わい。入っていないはずの甲殻類の風味を感じるのは「甘鯛が食べていたから」だそう。食材の魅力をシンプルに伝える、これぞ引き算の美学です。
十分に香りを出し、スープに浸していてもカリッとした食感が残るように皮目はしっかりと焼いています。それでいて身はふっくら。この絶妙な焼き加減に言葉を失います。「魚に水分があるからです。それができる魚屋さんだから信頼できる。毎日市場でいい魚を見て魚屋さんから元気をもらえます」と石川さん。丁寧な“仕事”からしか生まれない感動的な味わいです。
若い料理人の感性が炸裂する次世代レストラン
ドルチェを担当する石井 亮さんは「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」でスーシェフパティシエを務めた逸材。リストランテで提供する美しいドルチェはお手のもの。キャラメリゼしたアーモンドとクランブルクッキーとホワイトチョコレートを練り込んで作ったクルスティアンで土台を作り、その上にマスカルポーネクリームを塗り、花びらに見立てたフレッシュマンゴーとエディブルフラワーを飾れば「マンゴーブーケ」の完成です。
そのマンゴーブーケはエストラゴンの香りをつけたココナッツミルクソースに八角とジャスミンのジュレとマンゴーソルベを浮かべた上に盛り付けます。ザクザクしたクルスティアンやトゥルンとしたジュレにひんやりとなめらかなソルベで食感を楽しませ、ココナッツミルク、八角、エストラゴン、ジャスミンといったエスニックテイストの香りと風味が甘みにエッジを利かせます。食感、香り、味、温度がこんなにも多種多彩なのにバランスが非常に良い! 石井さんの技術の高さと舌のセンスに魅了されます。
前職ではジェラート開発も担っていた石井さん。「僕が作るソルベは水を一切使いません。シロップを含め100%果汁です。フルーツを一番濃厚に感じられるのはソルベです。フレッシュよりもフレッシュ感のあるソルベをぜひ食べてほしい」と話します。
この店は35歳の石川さん、32歳の石井さん、他のスタッフも31歳、25歳と、平均年齢約30歳という若いチームです。「年齢が近いと、良いと思う感覚が似ているのでメニューもワインもみんなで話し合って決めています。切磋琢磨し合えるのも良い刺激になります」と言うように、フレッシュな活気に満ちています。食に長けている人だけでなく地元の人にも愛される、身近なレストランでありたいと、シンプルで誰もがおいしいと感じる料理とワインを提供し、気負いは無用の雰囲気に、今後、心から食を楽しむ人たちであふれていくことでしょう。
※価格は税込