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〈今夜の自腹飯〉
予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?
教えてくれる人
猫田しげる
20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。
“居酒屋以上割烹未満”。料理とお酒に向き合いたい大人に
そろそろミシュラン獲るんじゃないかしら?と踏んでいる料理店があります。京都の繁華街から少しだけ離れた、室町押小路にひっそりと暖簾を掲げる「両川」。店主の大野彰人さんとは20年以上前からの知り合いですが、まあ昔から料理オタクというか変態というか(褒めてます)。今年で開店20年になり、ますます変態色が濃くなっている気がします(褒めてます)。
大野さんは両親が飲食関係の仕事をしていたことから、自然と自分も料理の道に。15歳から割烹や居酒屋で経験を積み、2004年、自身初となるお店を四条堀川近くにオープン。お母さんが作る鯖煮がウリの定食屋「一嬉」でした。
その後、31歳で「両川」を出店。「お料理とのみごろのお酒」と枕言葉がある通り、お酒とそれに合う肴が軸となった酒場なのですが、“居酒屋”と呼ぶにはありあまるほどクオリティに優れ、かつ料金は割烹未満。安酒でガンガン酔っていた若い時代を卒業し「本当においしい料理とお酒でしっとり飲みたい」という大人のニーズにドンピシャな一軒なのです。
大野さんは「学者か」とツッコミたくなるぐらい、あらゆる素材や調味料を酸や旨みの数値的な側面から研究して独自の料理学を確立しています。
お店で使う調味料は全て自家製もしくは自家ブレンド。「既製品をそのまま」というものは一切ありません。ラー油、雲丹醤油、山椒オイル、木の芽のソースなどの他にも、後ほど紹介する料理にも一つ一つ、手間をかけたタレやソースを合わせています。
メニューはアラカルトとコースがあり、ジャンルも和洋中の枠にとらわれない創意光る品々ばかり。ランチの定番であり大野さんの原点である「鯖煮」や ポタージュ状になった出汁が染み込んだ「名物煮込み」、自家熟成の「両川チーズ」といったレギュラーほか、月ごとに替わる季節メニューをそろえています。
刺身醤油にも大野流トリックを利かせ、魚本来のおいしさを倍増
今回はアラカルトから、まずはお造りを。鹿児島産の天然カンパチと紋甲イカは、5日寝かせて旨みを乗せています。イカは軽く表面を炙り、ペーパーではなくラップで包むことで水分を飛ばさずしっとりした食感に。カンパチのムチッと弾力ある食感と噛むほどに深まる甘み、さすが5日熟成です。
実は刺身醤油にもトリックが。能登の醤油に昆布を加えて煮ることで粘りを出しているため、ちょんと少量つけるだけでも塩味を感じられる仕立てです。魚のおいしさをより楽しめるようにとの計らいからだそう。
猫田しげる
昔は魚の生臭さを消すために醤油を付けていましたが、今は流通システムの向上により新鮮なまま提供できるように。だから魚の風味を生かせる醤油を考案したのだそうです。
お酒は辛口を合わせましょう。大野さんの日本酒愛はひとしおで、必ず蔵元に一度は行って顔を見てから取り引きするそうです。純米酒の生酒を中心に、仕入れてから1週間~10日は寝かせて味を落ち着かせるのがポイント。
いただいたのは、島根の人気酒「月山 芳醇辛口純米」のしぼりたて 無濾過生原酒。季節限定の超フレッシュな生酒で、アルコール17度ながらキレの良い口当たりでグイグイ盃が進みます。
お造りが盛られた皿と酒器も錫製の素敵な作品ですが、カウンターに重ねられた器もアンティークから現代作家のものまで多彩で、見るだけでも楽しめます。私は写真左下の鉢がダントツ気に入りました。欲しい。
“寝かせ”で素材も調味料も旨くなる。魚だけでなく肉料理も自信アリ
網の上で肉が焼かれている光景に目が釘付けになりますね。こちらは「牛ハラミの網焼き黒ニンニクソース」。しっかり下処理した肉を特製ソースに漬け込んで味を染み込ませてあります。
黒ニンニクソースは、ラム酒、バルサミコ酢、たまり醤油、赤ワイン、乾燥みかん、麹などを配合して作り、なんと1年寝かせてから使うそう。先ほどの醤油も半年寝かせています。いよっ、寝かせ王子!
猫田さん
どの調味料も、20年以上つぎ足ししていたり、1年寝かせていたりと、マメで気長で地道な手仕事の賜物。大野さんって本当にストイックだなあと感心します。
牛肉はしっとり柔らかく、網焼きによる香ばしい薫香に包まれています。何も付けなくても味わい深いですが、ニンニクの利いたソースでいただくとグッと味わいが締まります。