イタリアン×フレンチ+和のテイストにワクワク「peace」

真っ赤な丸に白抜きでピースのサイン。単純でいて、どこかほのぼのとしたイメージのロゴがトレードマークのレストラン「peace」。日本橋の裏手、ビルの2階にオープンしたこの店は、ミシュラン一つ星のフランス料理店「ラペ」の松本一平シェフが新たに手がけたイタリア料理店だ。と言っても、あの進化系おでん屋「平ちゃん」を手がけた松本シェフのこと、並のイタリアンではない。

「イタリアンとフレンチを融合させたイノヴェーティヴレストランです。そこに、和のニュアンスも少しだけ加味してみました」と松本シェフ。その思いを受け「peace」の厨房を任されたのは、大島孝仁シェフ38歳だ。

大島孝仁シェフ

「料理専門学校を出て、20歳の時にアルバイトとして入ったのが恵比寿の『EAST GALLERY』でした。その時、賄いで食べたパスタがとってもおいしくて。それで、イタリアンに進もうと思ったんです」。4年間学んだ後、次に選んだ修業先は五反田の「小林食堂」。町場の小さい店で働いてみたかったから、というのがその理由だ。大箱だった前店とは打って変わり、こちらは席数30席のコンパクトな個人店。“食堂”の店名通り、料理も、イタリアンを基軸にフレンチやスパニッシュの要素も織り込んだ、いたってラフなアラカルト主体のレストランだったとか。ここで暫く働くうち、縁あって四谷三丁目のオーストラリアワインを主体とするワインバー「チェルト」のシェフにスカウトされる。とはいえ、実はワンオペ。しかも、基本的にはアラカルトだったそうで「いろいろと鍛えられました。常連さんが多かったので、好みに合わせて(料理を)微調整したり」と大島シェフ。

その後、おまかせコースのスタイルも経験してみたいとの思いと共にフランス料理への興味もあり、フレンチレストラン「ラペ」の門戸を叩いた。「メルヴェイユ」時代から松本一平シェフの料理や世界観が好きだったからだ。この時、大島シェフ32歳。既に料理人歴は十数年、シェフまで務めた身でありながら「ラぺ」では、サービスからスタートしたという。「フランス料理を経験したことで、(料理の)引き出しが増えたように思います。フレンチはシンプルなイタリアンに比べ、味の重ね方に多様性がありますね」と大島シェフ。

そして、入社7年目にして松本シェフから託されたのが、ここ「peace」だったわけだ。カウンターとテーブル合わせて14席のこぢんまりとした店内はプライベート感漂うアットホームな空間。カウンターに陣取りオープンキッチンの臨場感を味わうもよし、グループでの会食ならソファ席でゆったり過ごすもよし。さまざまなシチュエーションで活用できそうだ。

ところで、料理は13,200円のおまかせコースのみ。私が訪れた日のメニューは次の通りだ。

  • グストミオ社14ヶ月熟成生ハム
  • 帆立貝 黒北寄貝 牡蠣
  • 烏賊のトルテッリーニ
  • カルツォーネ
  • 自家製唐墨と芹のタリオリーニ
  • ズワイガニのパッパルデッレ
  • 蝦夷鹿うちももの炭火焼き
  • やよいひめとマスカルポーネ
  • ピースソフト

まずは、生ハムのブルスケッタが登場。この一品のために購入した生ハムスライサーでカット。切り立てが提供される。イタリアの生ハムがままならない昨今、オーストリアはグストミオ社の生ハムを使用。パンは“日本の文化に寄り添うパン”がコンセプトの清澄白河「中村食糧」のカンパーニュを用いるなど万事において抜かりはない。定番の組み合わせながら、スパイスを利かせたキャラメルバターと生姜が隠し味。主張しすぎることなく双方の橋渡し役を見事に担っている。

帆立貝 黒北寄貝 牡蠣

2品目の「帆立貝 黒北寄貝 牡蠣」は、予想に反しグラスで登場。一見して牡蠣の姿は見えず、聞けば、牡蠣はエシャロットやフュメ・ド・ポワソン(魚のだし)と共にピューレ状にした、いわばソース的な立ち位置。そこに帆立貝やさっと炙った北寄貝、ウドをタルタル状にして合わせてあり、その手間と仕立て方は、イタリアンというよりもむしろフレンチを思わせる。

いきなりの変化球に虚をつかれていると、続く4品はパスタ攻撃。トルテッリーニ、カルツォーネ、タリオリーニにパッパルデッレとすべて手打ちパスタで構成しているところに、大島シェフのリストランテとしての矜持が感じられる。だが、そのパスタにも、実は、さりげなくフレンチの要素が加味されているのだ。

「カルツォーネ」

例えば「カルツォーネ」。生地自体はピザ生地だが、その構成はフランス料理のパイ包み焼きをイメージしたそうで、下からスカモルツァチーズ、塩麹漬けにした黒鯛、魚介のラグーが層になって包まれている。魚を塩麹漬けするあたりはどこか和のニュアンスが漂う。大島シェフの「どうぞ、下に敷いてあるペーパーで包み、手に持って食べてください」の言葉に促され、ペーパーに目をやれば、小さな子供の手と共に、店のコンセプトの一つとも思えるメッセージが記されている。

“もったいないよ 捨てないで 食べられるよ 生産者さん 農家さん 漁師さんの一生懸命を大事にしよう 一人一人が気にかければ 世の中はもっと平和になれるはず”

そう、この一品には、実はサステナブルな意味合いが込められているのだ。本店の「ラペ」はミシュランのグリーンスター獲得店舗でもあり、松本シェフ自身も海の未来を考える料理人チーム“シェフスフォーザブルー”の創設メンバーの一人。以前からサステナブルな活動を推進してきただけに「peace」でも遂行。カルツォーネのラグーソースは店で用いたさまざまな魚介のカマや骨から取り、具にも、神奈川「さかな人」の長谷川大樹さんから届く未利用魚を使用し、大切な海の命を大切に使いきっている。

続いてオイル仕立てのタリオリーニで口をさっぱりさせた後、太打ち麺パッパルデッレが登場。甲殻類のだしをベースにトマトソースと生クリームを加えたソースと合わせてあり、クリーミーでコクのある味わいが幅広のパスタによく絡む。テーブルに置かれた瞬間、鼻先をくすぐるふくよかな香りもごちそうだ。

ズワイガニのパッパルデッレ

大島シェフ曰く「同じパッパルデッレでも、肉に合わせる時はやや厚めに、魚介の時には少し薄めのソフトな食感になるようにしています」とのこと。こうした細やかな心配りが料理全体の緻密な味わいを生み出しているのだろう。メインの炭火焼きの肉の焼き加減も絶妙。マルサラ酒と肉汁で仕上げたソースを添えている。

さて、お楽しみの別腹タイムに「あっ!」と驚かされるのが、最後のソフトクリームだ。真っ白なピースサインの台座に鎮座して登場するそれは、ホームメイド。乳脂肪分が高く、濃厚で甘みのある北海道産ジャージー牛乳にグラニュー糖、スキムミルクと生クリーム少々を混ぜたオリジナルのソフトミックスを使用。もちろん無添加だ。

ピースソフト

最初の一口はそのままで。その後、添えられたフランス産ゲランドの塩やスペイン産オリーブオイルで味変すれば、大人のデザートとして楽しめる。口溶けなめらかですっきりとした後口はスペシャリテの名にふさわしい佳品だろう。

コースの料理に合わせたペアリング(11,000円)も充実の内容(少量コース8,800円もあり、こちらは1グラスごとの量が少なくなる)。

イタリアだけでなく、フランスや日本などワインのジャンルも多彩。カルツォーネにはイタリアのビールを合わせるなど、緩急自在なセレクトに注目したい。

※価格はすべて税込、サービス料(10%)別

撮影:佐藤潮

取材:森脇慶子

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部