名店で研鑽を積んだ料理人たちによる期待の焼き鳥新店「鳥カミ」

『ミシュランガイド東京』で一つ星を獲得した名店で修業を積んだ若手3人が、東京のランドマークの一つ、六本木ヒルズで新たなスタートを切った。上を目指す、神様からいただく命を大切に扱うという意味を店名に込めた「鳥カミ」だ。

運営するのはG-FACTORYのグループ子会社である、M.I.Tだ。開店1年足らずでミシュラン一つ星獲得という快挙を成し遂げた焼き鳥専門店「鳥さき」の他、次々と新たな業態を生み出し話題を集めている焼き⿃専⾨店「中⽬⿊いぐち」、お米が主役のコース料理に定評があり多数の著名人がお忍びで訪れる「米ル」などを手掛ける飲食企業だ。

無垢の板を使ったスタイリッシュなコの字カウンター、そのバックにかかる陰菊菱紋があしらわれた暖簾があいまって、劇場のような趣を醸す「鳥カミ」。個室も2室あり、会食やプライベートな会合にも対応している。

白石優太氏

このカウンターの中心に立つのは、店主の白石優太氏。小学生の時に岡山で飲食店を営む父親に連れられて食べた焼き鳥のおいしさが忘れられず、一旦飲食系企業に営業として就職するも、20代後半で焼き鳥職人の道へ。いまは閉店してしまった焼き鳥店に常連として通う中で焼き鳥に魅せられ、声をかけてもらい働き始める。料理の基礎から学び、4年ほど修業した白石氏。その後、常連の人に紹介されたのが、ミシュラン一つ星を獲得した名店だった。客として訪れようと何度も電話を試みるがつながらず「一度お話だけでも伺いたい」と求人に応募。タイミングよく働く機会に恵まれ1年、その後分店で焼き手として2年活躍し、2020年からは大将を2年ほど任され、この度新たにオープンした「鳥カミ」でも店主を務めることになった。

(写真左から)神田幸太朗氏、白石氏、石黒智大氏

一緒に焼き手を務めるのは、ミシュラン一つ星店で白石氏と一緒に修業を経験し、同店の分店で店主を務めた石黒智大氏。そして飲食業界での経験に長け、前出の分店で二人と一緒に働いてきた神田幸太朗氏が調理、サービス、事務などマルチに活躍する。

串11本を含む11,000円のコース一本勝負

メニューは厳選した鶏肉と野菜の串を11本に、野菜の甘酢漬け、お椀、名物の大根おろし、箸休め、土鍋ご飯などを含むおまかせコース一本(11,000円)のみ。串は紀州備長炭と土佐備長炭をうまく使い分けながら、焼き上げる。

「鳥カミ」では、在来種であるロードアイランドレッドの血統を色濃く残すヒナ、千葉県の銘柄鶏・水郷赤鶏を使用。やわらかい肉質ながら適度な食感があり、コクのある味わいが特徴だ。

手羽先はシンプルに伯方の塩を振りかけ、途中炭火で焼きながら酒を塗りつつ、火入れを行う。まずは備長炭に近づけつつ強い火力で表面を香ばしく焼き上げ、うま味やみずみずしさを閉じ込める。その後肉を休めつつ、身が変に縮まって硬くならないよう、中心温度を意識して香りづけに醤油を塗りつつ火入れを行う。

手羽先

その結果、外側はパリッと香ばしく、しっとりジューシーでやわらかい手羽先になる。お店で使用する食材は鶏肉以外も国産にこだわっており、手羽先に添えられるレモンも関東近郊産だ。

カシワ

カシワ(鶏モモ)は、これまでの経験で培ったこだわりのタレを使用。二度漬けして焼き上げることで、タレがカシワをコーティングして余分な水分を逃さないようにしている。出来上がるのを待っている間から、芳しいタレの香りがカウンター越しに漂い食欲を誘う。香ばしい炭の香り、タレの深い味わいがありながらも、水郷赤鶏ならではのうま味がしっかり感じられるようタレの味が工夫されていると感じる。

コースを締めるのは、名物「土鍋ご飯」

コースの締めとして提供されるのは、お米マイスターが厳選した米を使用した炊き立ての土鍋ご飯だ。11本の串の終盤、10本目・11本目の串焼きとタイミングが合うように土鍋ご飯が提供される。この日は北海道産のゆめぴりかを使用。10本目の串を待つ間、厳選した4種のご飯のお供を味わう。六本木という場所柄、外国人の来訪も多いそうで「日本の文化を感じていただきたい」という思いから、このスタイルのサービスを行っているという。

この日の4種のお供は「料亭・雲月」のじゃこ山椒に京都の柴漬け、「丸山海苔店」の海苔の佃煮と、紀州南高梅のたたきが振る舞われた。表面はツヤがあり粒だちの良い土鍋ご飯に、4種のお供が合うのはもちろんだが、柴漬けの酸味やじゃこ山椒の清涼感が焼き鳥の箸休めとしても機能していると感じる。

つくね

土鍋ご飯と一緒に味わってほしい10本目として登場するのが、つくねだ。赤やオレンジがかった濃い色味が特徴の、栃木県の「極」というブランド卵の卵黄が添えられている。

つくねは1串に3つあるので、まずはそのまま、続いて白米と共に、最後に卵黄を絡めて白米と共にいただくのがおすすめだ。備長炭で香ばしく焼き上げたつくねから、白米や卵黄に炭の良い香りが移り、甘めのタレと卵黄が合わさった、極上の卵かけご飯になる。

さらにコースでは、鶏ガラをじっくり煮込んだ鶏スープが提供され、土鍋ご飯をお茶漬けでも楽しむことができるのもうれしい。2人で1.5合の土鍋ご飯が提供されるが、ご飯のお供とつくね、鶏スープによって箸が進んでしまう。炊き方を聞くお客さんがいるというのも頷ける、じんわり長くおいしい土鍋ご飯だ。

ドリンクは、日本全国から取り寄せた珠玉の日本酒や焼酎のほか、焼き鳥とのマリアージュを意識した各種ワインもラインアップしている。今後さらに焼き鳥との相性を意識した品ぞろえへとアップデートする予定だそうだ。

若き焼き手たちの気持ちの良い串さばきを観劇するように眺めながら、目の前で繰り広げられる多彩な鶏の滋味に舌鼓を打つ。デートや会食、外国人のアテンドにも喜ばれそうな一軒だ。

※価格は税込、サービス料別

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影:佐藤潮

取材:中森りほ

文:中森りほ、食べログマガジン編集部