西浅草・田原町でさらにレベルアップ

店内はカウンター5席のほかは、2名テーブルが二つあるのみ。

「The Tabelog Award 2022」のBronze受賞店であり、高田馬場で食通たちを唸らせていた「LOOP」がビルの建て替えにより閉店したのが7月。その翌月には「LOOP TOKYO」として西浅草で新しい一歩を踏み出した。新店舗では、オペレーションや厨房の広さ、設備的に以前の店ではできなかったことなどを実現させ、シェフの村上修平さんのこだわりが詰まったコース展開となっている。

村上シェフといえば、ジャンルにとらわれない料理とアイデア、そしてその完成度の高さでファンも多い。

前店は、最初はダイニングバーとしてオープンし料理を提供していたが、コースでのリクエストに応えたところこれがすこぶる好評だった。次々とコースをオーダーする人が増え、来店する客のほとんどがコースになってしまったことからコース料理中心の店となり、その流れは新店でも受け継がれている。コースも15品ほどに増え9,900円とハイコスパは健在だ。

フレンチ、中華、イタリアン、和食。食材に合った調理で魅了する

台湾の調味料「三杯」を使った「卵とイカの三杯」。

コースで提供される料理はジャンルを問わず、フレンチの技法を使ったもの、和食の技術を施したもの、中華からアイデアを得たものなど様々なため、前菜、魚料理、肉料理、または先付、向付など決まった順序はない。デザートやコーヒーなどを含み、全体で15品前後の料理が提供される。メニューは毎日替わり、特に前店からのリピーターには移転後でも同じ料理は出さないようにしているという。

この日は、3~4品目に提供する料理として、台湾の合わせ調味料「三杯(サンペイ)」使った「卵とイカの三杯」が紹介された。「三杯」は酒・醤油・胡麻油を合わせたタレで、ポピュラーなのは鶏肉の「三杯鶏(サンペイジー)」だが、やわらかなイカの風味とふわりとまとめた卵、上にかけられたホーリーバジルの風味がよく馴染み、深い味わいを出している。

コース中盤の折り返しで登場する、名物のビーフ寿司

あまりにも好評で毎回リクエストが入ったため唯一、定番化した「ビーフ寿司」。

予約時に「前回食べたアレを食べたい」とリクエストされない限り、基本的には同じ料理は出さない同店だが、一つだけ定番で出しているものがある。それがコース半ばで登場する「ビーフ寿司」だ。

実は村上シェフ。畜産会社が運営するレストランで働いていたこともあり、そこで取り扱う牛肉の品質チェックなどを担当していた経歴の持ち主。牛肉を見る目は確かだ。その眼識をもって、その時々で一番状態の良い黒毛和牛のロース肉が選ばれるため、特に産地やブランドにこだわることはない。

そんな牛肉のプロでもある村上シェフのビーフ寿司は一般的な酢飯を使わない。肉の脂に酢酸の酸味が合わないからだ。代わりに肉との相性が良いクエン酸を含むレモンを使って米に酸味をまとわせ、旨味と甘みのある土佐醤油を一塗り。静岡産のワサビとともにいただく。

やわらかで甘みのある肉と、さわやかなレモンの酸味がちょうどよいバランスで口の中でほぐれ、予約時にビーフ寿司のおかわりを頼んでおく人がいるのもうなずける一皿となっている。

ブルーチーズ豚肉のコクが絶妙なローストポーク

ローストポークはメインの時もあれば、締めのサンドイッチの具材になることも。

この日のコースのメインは、ローストポークだった。59度の熱で3時間半、じっくり火を通してやわらかに仕上げる一品。そこにデンマーク産のブルーチーズ、ダナブルーをクミンで香り付けしたソースをかける。チーズのコクがローストポークを引き立て、満足感を運んでくれる。

ダナブルーは、ブルーチーズ特有の香りが強すぎず、青かびのチーズのなかでも非常に食べやすい。そこにクミンを粒のまま入れることで、クミンを噛んだ時にだけ香りが鼻を抜ける演出が施され、一口目と二口目で異なる風味が楽しめる仕掛けだ。

村上シェフの遊び心と細部へのこだわりがうかがえる品と言えるだろう。