多彩な経験と知識がアイデアを生み出す

村上シェフとのおしゃべりも楽しみの一つ。

料理に関する知識が溢れるほどに豊富な村上シェフ。取材中もお酢について酸度や酸味の違いなどを丁寧に説明してくれた。料理のアイデアは経験と思い付きだというが、根底には科学的な知識があるのだ。
こういった村上シェフのトークに惹かれて通う人も多く、食欲と知識欲の両方を満たされる時間が楽しめるのもこの店の魅力と言える。

テーブル席は横並びの2名席が二つ。

シェフとしての経歴もおもしろい。フレンチで修業をしたのち、ニュージーランドに渡り、中華、イタリアン、フレンチ、和食などオールジャンルを扱うレストランで研鑽を積んだことから、各ジャンルの料理に造詣が深まった。
日本に戻り、畜産会社などを経て独立する時にジャンルにこだわらなかったのも、それまでの経験から、その食材を一番おいしく食べるのにジャンルは必要ないと感じたからだ。

「フレンチ出身ですが、魚を扱うなら和食の技法が良いですよね。イタリアン、特に南イタリアに欠かせないトマトやフレンチでよく使われるジャガイモは、元々は南米の食材です。そう考えると、トマトやジャガイモを食べるのに最も適しているのがイタリアンやフレンチなのか?と思うんですよ」と食材一つひとつに向きあい、何が最もおいしくなるかをひたすらに考えている。

訪れる度に新しい味に出会える

カトラリーレストは本物のボルトとナットを組み合わせた、村上シェフならではのアイデア。

移転した店では、これまでできなかったことを実現させている。そのうちの一つが焼きたての自家製パンだ。水分は牛乳だけというミルクパンは、時間を調整して焼き上げるため、客が最初に店内に訪れた時にパンの香りが出迎えてくれる手はずになっている。期待が一気に高まる演出と言えよう。

パンを使ったメニューは色々あり、締めのサンドイッチになることもあれば、別の料理に添えることもある。その場合は、客の目の前で焼きたてのパンを取り出して割り、さらに香りを楽しめるようにしている。

このほか、ご飯を提供する時はもちろん炊きたて。目で見て、香りを楽しみ、舌で味わい、村上シェフの明朗で興味深い話を聞く。アルコールを含めても15,000円でお釣りがくるハイコスパぶり。まさに食のエンターテインメントだ。

店の入り口はビル正面ではなく左手奥にある。看板も店名もない隠れ家的な造り。

※価格はすべて税込、サービス料別。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:岡崎たかこ(UP SPICE)
撮影:松村宇洋(UP SPICE)