様々なアプローチで“焼き”の可能性に挑む「膳処末富」

シンガポールの「バーント・エンズ」で薪焼きに魅了され、薪焼和食の「鈴田式」、焼き鳥の「薪鳥 新神戸」と、薪焼きの新境地を開拓してきた末富信氏が新たに始動。この9月5日、自ら板場に立ち腕を振るう「膳処末富」を麻布十番にオープンした。

曰く「テーマは焚き火料理」だそうで、今回は薪焼きだけでなく、炭火も藁も併用。カウンター6席の店内には、炉窯のほかに囲炉裏も用意され、オリジナルの“焼き”を楽しんでもらおうとの意欲も満々だ。

場所は東京・麻布十番。7月にオープンした和食店「麻布室井」の2階と言えば、お分かりになる方も多いのではないだろうか。“路地裏に佇む一軒家”というだけでも、充分興をそそられるが、現在、営業日数は週に3〜4日ほどと言うから、店内6席は、まさにプラチナシート。オープン前から話題に上るのも宜なるかな。

末富信氏

「僕っぽい料理をここではお出ししていきたいな、と思っています」。屈託の無い笑顔でこう語るのは末富氏。その言葉を反映するように、全18品からなる「おまかせコース」30,000円では、薪火と炭火をベースにしつつ、縦横無尽に“焼き”の可能性にチャレンジしている。

焼いた後のひと手間が驚きの食体験を生む、藁焼きの一品

まず、意表を突かれたのは空芯菜。生を束ね、藁を翳した炭火でいきなり煽り始めたのだ。葉菜類は炒めるか茹でるか、といった固定観念を払拭。米油をまぶしてまめに返しながら火を入れた空心菜は、焦げ目がところどころにうっすらとつき、しんなりしたら焼き上がり。そのまま皿に置かれるのかと思いきやさにあらず。奥の厨房に一旦引っ込めた後、枝豆のすり流しに浮かべられて登場。

枝豆のすり流しとともに味わう藁焼きの空芯菜

空芯菜のシャキッとしてややぬめりのある食感に、香ばしい枝豆の風味と藁の薫香とが相まって食欲を刺激する。焼きっぱなしで出すのではなく、ひと手間かけて料理性を高める。そこに、いわゆる炉端焼き屋とは一線を画す割烹料理店としての自負を感じさせる。

「基本的にカリッとしたい時は炭火、ふわっと仕上げたい時は薪で焼くようにしています」と末富さん。例えば下の写真の丸茄子。薪でじっくりとろけるように火を入れた後、赤味噌ベースの自家製味噌をあしらい、田楽風に仕上げている。

和風ハリッサソースをのせた丸茄子

また、茸類のような水分を纏わせて焼きたい食材も、薪で焼くことが多いそうだ。ちなみに上にのった赤いソースは、カンズリベースの和風ハリッサ。和食でありながら、どこかエスニックな趣も漂わせている。

レタスも薪で焼けば独特のみずみずしさに。驚きが詰まった牡蠣ソースが主役の一品

野菜と言えば、レタスの薪焼きも他ではなかなか見ることのない一品だろう。1/4玉を、遠火に翳してじっくり火を入れた焼きレタスは、ややしなっとしつつも歯切れよく、パリッとしたみずみずしさを残した絶妙な火入れ加減。それも、炉窯の輻射熱を巧みに使いこなせばこそ。

牡蠣ソースが主役のレタスの薪焼き

このレタスも、そのままでは出さず、牡蠣のソースに浸して提供。実はこの一皿、レタスが主役のように見えて、牡蠣のソースが主役なのだ。牡蠣を煮出して取っただしに海老のスープとたっぷりのシャンパンを合わせたもので、口当たりは軽いものの味わいは深い。その旨味をレタスに絡めながら共にどうぞ、という趣向だ。