食材によって熱源を使い分けることで生まれる、変幻自在の味わい
そして、シグネチャーメニューはやはりこれ。「肉匠堀越」「鈴田式」に続く「シャトーブリアン丼」で止めを刺す。牛肉は安定した質の高さを誇る兵庫県太田牧場の「太田牛」を使用。ストレスフリーで飼育された牛はサシのキメも細かく、旨味も上品。
これを炭火で焼くのだが、ここでも一捻り。串に刺したヒレ肉を炭火に翳す際、末富氏が魔法の粉?をパラリと振りかけた。聞けば、乾燥させた玉ねぎの粉末だそうで「甘い香りがお肉にのるので」と末富氏。
ヒレ肉の味つけは塩のみとシンプルながら、ご飯の方は“僕流”にアレンジ。冷めてもおいしい「星空舞」を用い、炊きたてに干し貝柱と冬瓜を混ぜ合わせるのだが、このご飯だけでも一品料理になり得るほど充分美味。干し貝柱の滋味がヒレ肉の優しい旨味を損なうことなく味の余韻を引き立てている。
他にも、炭火に竹を加え、青竹の青々しくグリーンな香りとスモーキーさを纏わせたとうもろこし、桜のチップで炙るカツオのたたきにウイスキーの樽香を絡ませて焼く牛タン等々、食材によって様々な熱源をプラス。新たなテイストを、変幻自在に表現している。
店内に漂うホルモンの香りに、満たされたはずの食欲が再燃
目の前で次々と焼き上げられていく数々の旬の食材に見惚れ、舌鼓を打つ間に、気がつけばもう〆めの食事。これが、また一つのクライマックス。大ざるに刻んだホルモンを入れて炉窯の前に立った末富氏は、そのホルモンを豪快にも薪の炎で炙り始めた。
ホルモンは、シマチョウ、ギアラ、リー・ド・ボーの3種。ホルモンの脂が滴り落ちると共に立ち上る炎と煙。パチパチッと火が爆ぜる音に期待は高まるばかり。これをだしと薄口醤油等で炊いた「あきたこまち」と混ぜ合わせ、刻んだふぐねぎをトッピング。隠し味に加えた少量の梅干しの酸味がホルモンの脂っこさを相殺し、思いの外さっぱりといただける。
土鍋は、ご飯がおいしく炊けると評判の雲井窯。末富氏によれば「ふっくらとして舌に優しく、後味も軽やか」だとか。食べきれなかった分は、おにぎりにしてお土産にしてくれる。
この後、燻製風味のババロワと乳製品を使わぬ金萱茶のアイスクリームでコースはフィニッシュとなる。スモーキーな料理が続くものの、食べ疲れ感はなく食後感は思いのほか軽い。それも「ホタテのセビーチェ」や「白桃の白和え」といった箸休め的な一品を合間に挟み、舌をリセットさせる巧みなコース運びの為せる業。自らよく食べ歩き、客の目線で見ることを忘れない末富さんならではの緩急の利かせ方ゆえだろう。
店内は、木目を生かしたトチノキのカウンターが、カジュアルモダンな店内に違和感なくフィット。隠れ家的なシチュエーションながら、友人宅に招かれたような、どこかリラックスした趣を醸し出している。肩肘張らずに楽しみたい。
※価格は税込、サービス料別