創業時から変わらない 呉屋台の中華そば

「お待たせしました、中華そばです!」

山内さんはシャープな顔立ちのために黙っていると怖そうにも見えるのだが、実はおしゃべり好きでお笑い番組が大好き。中華そばを提供するこの笑顔を見ていただければ、いかにこの店がフレンドリーに客を迎えてくれるかが伝わるのではなかろうか。

中華そば (600円)は店の歴史を感じさせる珠玉の一杯

目の前に届けられた中華そばは、まさに広島名物の醤油豚骨。少しトロみが感じられるスープに、味の存在感のある麺が絡む。ネギ、もやし、チャーシュー、メンマも王道の顔ぶれで、普段使いする常連客がいることもうなずける満足度である。

向かい合っていろんな話を聞かせてくれる山内さん

「うちは昔から決まったお肉屋さんに食材を用意してもらうんです。それが地元の下井ホルモン店。豚骨もチャーシューも、鶏ガラも豚足も豚耳も牛スジ肉も。うちはあの店が無くなると大変! 全部味が変わりますからね」と語る山内さん。筆者も下井ホルモン店は取材したことがあるが、肉を知り尽くした驚きのハイスペック店であった。老舗の味を支えているのも、やはり老舗の名店ということなのである。

スープのトロみがよく伝わるフォトジェニックな一枚をご覧いただきたい

安心と安定を感じる王道の醤油豚骨スープなのだが、他店に比べると幾分スッキリしているように感じる。塩分や舌に絡みつく重みがそれほどでもなく、他の料理を食べたあとでもペロリと完食できてしまう秘密はそこにあるのではないか。

富士さん名物! 目の前の鉄板を使った逸品

鉄板の上ではホルモンと野菜が次なる出番を待つ

この屋台の中心に陣取る鉄板が生み出す名物メニューが「ホルモン焼きそば」である。前述の名店、下井ホルモン店から仕入れた上質な牛ホルモンをたっぷりと使い、旨みを存分に注入した激ウマ料理なのである。まずはアツアツの鉄板の上でホルモン炒めを作り、ここにニラを加えて、しっかりと馴染ませる。

生麺をゆでて冷水でしめる! この工程が焼きそばをおいしくする

中華そばで使うものと同じ麺を茹でて、すぐに冷水でしめる。このプロセスが重要だという。これまでに数え切れないほどこの店のホルモン焼きそばを食べてきたが、何度食べてもひと口目の瞬間は感激する。

鉄板の上でホルモンちゃんとランデブー

アツアツの鉄板の上ですっかり出来上がっているホルモンに、冷水でしめたばかりの麺をかぶせ、一気に炒め合わせていく。

目の前で繰り広げる灼熱のショータイム! ここではすべてがLIVE

広島の食文化の醍醐味のひとつは、鉄板焼き店で体験するおもてなし。食材が目の前で蒸気に包まれて焼きあがっていくさまを見ることが、何よりも期待感を煽り空腹感を促進し、そのあとの食体験を特別なものにしてくれる。まさか呉屋台でもそんな体験ができるとは!

ホルモン焼きそば(1,000円)は現在の2代目店主が生み出した名物

独自に配合したタレを使用した人気メニュー、ホルモン焼きそば。いわゆる広島の焼きそばのようにお好みソースを使うわけではなく、ホルモン焼きのタレに歯ごたえのある麺を絡ませたという珍しい仕上げの料理なのである。隠し味はゴマ油。ボリューム感もあり、しっかりした味の食べ応えも十分。そのためこの店のスペシャリテという位置づけとなっている。

ホルモンの大きさだけでなく、麺がしっかりと主張しているのが写真からも伝わる

中華そば用の生麺を茹でたのちに冷水でしめて鉄板で焼くというのは、最近の鉄板焼き店では見かけるようになったが、ここでは30年前からやっているという。「もともとホルモン炒めに麺を入れてくれないかというお客さんのわがままな要望から始まったんです。すると他のお客さんにも連鎖していきました。裏メニューとして始めてから5年くらい試行錯誤しながら作っていって、最終的に今の味に仕上がりましたね」