〈サク呑み酒場〉

今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。

イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!

百軒店に登場したニューフェイス

極力、情報を削った外観。いったい何の店かと関心を持つ通行人も多い。

「渋谷」という街は、実に坂が多い。道玄坂を上る途中で右手に折れ、「しぶや百軒店」と掲げられた“鳥居”をくぐって、そのまま坂をずーっと上っていくと、青いネオン管で「KAMERA」と掲げた店がある。オープンは2021年10月とまだ新しく、正面には50年以上続くライブハウスがあり、その対比がこの街の新旧を感じさせて面白い。

入口に書かれた「亀良」って、何?

入口の引き戸に「亀良」と書かれており、これがいったい何なのか、通行人の関心を誘う。

店のガラスの引き戸には漢字で「亀良」と書かれており、これで「カメラ」と読む。一見、何の店かよく分からないが、店頭に置かれた置き看板を見て、通行人は初めてその店が何なのかを知ることになる。そこにはネオン管と同じく青字で「焼売とウーロン茶ハイ」と書かれている。

そう、ここは焼売とウーロンハイが看板商品の店。「KAMERA」と掲げていても、決してカメラを売っているわけではない。では、なぜ「KAMERA」なのか? 実はこの店の名前。同店を経営する目良慶太さんと亀谷剛さんの2人の名前から一文字ずつ取ったもの。「亀」と「良」を合わせ、「亀良=KAMERA」と命名したのである。

シンプルでスタイリッシュな店舗

定員は25人ほどで、20人くらいから貸し切りにも対応。

そんな2人のセンスを反映させた店舗は、シンプルでスタイリッシュなデザイン。椅子席も数席あるが、メインは立ち飲みだ。インスタを見て訪れる人も多く、ピーク時には連日、満員御礼の状態である。また、いつも店の前を通る人が「あっ、今日は空いてる、ラッキー!」と店内に吸い込まれるなど、地元の人からも強く愛されている店なのだ。

とことん、こだわったウーロンハイ

左から、「烏龍茶ハイ 台湾四季春」「烏龍茶ハイ 鳳凰単叢」「烏龍茶ハイ 岩茶武夷水仙」各715円。ロゴ入りのうすはりグラスで提供。

ドリンクの看板商品に掲げるウーロンハイだが、「烏龍茶ハイ 台湾四季春(たいわんしきしゅん)」「烏龍茶ハイ 鳳凰単叢(ほうおうたんそう)」「烏龍茶ハイ 岩茶武夷水仙(がんちゃぶいすいせん)」各715円の3種を揃えている。

おすすめを尋ねると「上から順に飲んでみてください」との答えが返ってくる。メニュー表には前述の順番で並んでおり、下にいくほど発酵が進んだ烏龍茶になるという。「台湾四季春」は台湾産で、緑茶に近いタイプ。「鳳凰単叢」は広東省産で、フルーティーな香りが特徴。「岩茶武夷水仙」は福建省産で、味も力強い。まずはこの“3つ”を体験すれば、ウーロンハイの新しい魅力に触れることができる。

同店がウーロンハイを売りにしたのは、以前、目良さんが台湾を訪れた際、お茶の種類が豊富なのに日本のような“茶割り”のアルコールがないことに着目したことがきっかけである。ウーロンハイが定着した日本で「本格茶葉を用いたウーロンハイを充実させたら面白いのでは?」と閃いたのである。茶葉の選定に加え、焼酎やグラスも専用のものを用いており、そのこだわりはハンパない。

「食材」「スパイス」「調理法」

焼売は迫力のある、大きなセイロで蒸し上げる。

一方、焼売を売りに据えたのは、メジャーな料理でありながら、まだまだ伸びしろが大きいと可能性を感じたからだ。昨今、餃子酒場はたくさんあるが、焼売酒場はそんなに多くはない。それなら、もっと魅力を深掘りすることができる。そこで、フランスやスペインでの修業経験があり、スパイスにも詳しい亀谷さんの出番となったのである。

同店では焼売の価値づくりに、“3つ”のポイントを意識した。それが「食材」「スパイス」「調理法」だ。豚肉以外の「食材」も用いてバリエーションを増やし、様々な「スパイス」を駆使して新しい味を提案する。さらに「調理法」もいろんな技法を取り入れる。こうして作り上げたのが、わずか“3つ”に絞り込んだ主張のハッキリした焼売なのである。

フレンチのソーセージの技法を応用

「山形豚の熟成焼売」2個550円。ミニトマトの赤がとても映える。

“3つ”の焼売は、オーソドックス、パンチ、繊細さの、“3つ”の味の要素で作ったもの。1つ目がオーソドックスな味の「山形豚の熟成焼売」で、これは中華にフレンチの要素を入れ込んだ焼売だ。

まずは食感に変化を出すため、細かめの豚挽き肉を塩と複数のスパイスと合わせて一晩置き、熟成させることでうまみを高めている。翌日、これに各種野菜と粗めの豚挽き肉を加える。野菜も粗みじんのクワイと長ネギ、みじん切りの生姜と玉ネギといった具合に、食感に変化をつける。最後に黒酢を加えたトマトソースをかけ、ミニトマトを添えて完成。強烈な赤のワンポイントが食欲をそそり、ほどよい酸味が肉々しい焼売と実によく合うのだ。

この焼売は、亀谷さんがフレンチで学んだソーセージの技法を応用したもので、一見、異なる料理ながら、どちらも“挽き肉料理”という共通項がある。また、亀谷さんは無化調にこだわっており、一晩寝かせて熟成させるのも自然なうまみを引き出すのが狙いだ。

仔羊肉のパンチのきいた焼売

「仔羊と黒米の熟成焼売」2個770円。ガツンとくるおいしさがクセになる。

続く2つ目は、パンチのきいた味の「仔羊と黒米の熟成焼売」で、仔羊肉を用いた焼売である。これは中華に中東の要素を盛り込んだもの。仔羊の挽き肉にソテーした粗みじんの玉ネギ、一晩寝かせた細挽きの豚挽き肉、甘酒などを合わせ、焼売の皮で包まず、もち米と黒米をまぶして仕上げている。

亀谷さんはアラブなど中東料理にも愛着があるそうで、その要素を上手に焼売に取り入れている。スパイスも「山形豚の熟成焼売」の倍くらい加えており、食べると様々な香りを感じとることができる。また、仔羊肉は塩味が強いので、煮詰めた甘酒を加えて食べやすく仕上げているのもポイントだ。

水餃子ならぬ“水焼売”

「富士鶏と豆腐の水焼売」2個550円。“蒸し”だけでなく、スープの焼売も楽しめる。

そして3つ目が、繊細な味の「富士鶏と豆腐の水焼売」だ。これは和食とイタリアンの要素を盛り込んだ焼売。銘柄鶏の富士の鶏のモモ肉を挽き肉にし、ヘルシーな絹ごし豆腐と合わせ、粉末の豆鼓、各種香味野菜などを練り合わせて皮に包み、水餃子ならぬ“水焼売”に仕立てたものである。

スープは昆布とアンチョビでとった出汁に、シジミを加えたもので、焼売との相性もバッチリ。さらに、オリーブオイルがかかり、針生姜もプラス。このオリーブオイルの香りと、生姜の風味がスープに溶け込み、淡白な焼売の持ち味をさり気なく引き出している。

“第4”の焼売の位置をキープ

「蟹とイクラの焼売」1個550円。注文は2個から。蟹とイクラのごちそう感がたまらない。

以上、“3つ”が定番の焼売だが、これに数量限定でメニューに加わるのが「蟹とイクラの焼売」だ。ベースは「山形豚の熟成焼売」と同じで、トマトの代わりに蟹とイクラを鮮やかにトッピング。その分かりやすいごちそう感が人々を惹きつけ、いまでは常に提供され、定番メニュー同様の位置をキープしている。

“点心”つながりで春巻も提供

「岩海苔ときのこの春巻」715円。チーズ以外、動物性のものを使わないヘルシーな一品。

このほか「岩海苔ときのこの春巻」など焼売以外のメニューも充実している。これは椎茸、しめじ、エリンギと岩海苔を具に用い、うま味の相乗効果を楽しませてくれる一品。パルミジャーノレッジャーノを一面にかけ、わさびでさっぱり食べる。衣のサクサク感、チーズのふんわり感が、何ともクセになるおいしさだ。

コンフィのように仕上げた“よだれ鶏”

「ひまわりよだれ鶏」1,100円。マンゴーチリソースの甘酸っぱさがクセになる。

焼売の肉々しさもいいが、肉そのものもガッツリ食べたくなったら、「ひまわりよだれ鶏」がオススメ。普通、“よだれ鶏”は鶏肉を茹でるが、同店は鴨油につけて低温で60~90分間加熱し、しっとり仕上げている。これを注文ごとに蒸し焼きにする。

鶏肉は、ハンガリー産のハーブひまわりチキンのモモ肉。表面はパリパリだが、中は箸を入れるとほろりとくずれる。この食感のコントラストが、実に楽しい。また、たっぷりかかったマンゴーチリソースの甘酸っぱさが鶏肉とよく合い、さらに鮮やかな黄色がキュウリ、万能ネギの緑色と合わさって、見た目でも食欲をかき立てられる。

こうした脇を固めるメニューの存在も、実に魅力的。そして何より、これまで体験してきたものとは少々装いが異なる、華麗にドレスアップした焼売とウーロンハイが楽しめる店。それが「KAMERA」なのだ。

「いつか一緒に飲食店を!」の思いを実現

左から、同店を経営する目良慶太さんと亀谷剛さん。マネージャーの玉田真也さん。

「KAMERA」を経営する目良さんと亀谷さんは、もともと20年ほど前に同じレストランでアルバイトをしていた間柄で、その後も親交を深めていた。現在、目良さんはインターネット広告の会社を、亀谷さんは三軒茶屋で「Bistro Rigole(ビストロ リゴレ)」を経営。「いつか一緒に飲食店をやりたいね」と話していた2人が、その思いを実現させたのが同店なのである。

カメラは売っていないが、とびっきりの焼売とウーロンハイはある。ケータイでパシャッと写真を撮って、SNSに投稿したくなる。そんな魅力的な店だ。

【本日のお会計】
■食事
・山形豚の熟成焼売 2個550円
・仔羊と黒米の熟成焼売 2個770円
・富士鶏と豆腐の水焼売 2個550円
・蟹とイクラの焼売 1,100円(1個550円)
・岩海苔ときのこの春巻 715円
・ひまわりよだれ鶏 1,100円
■ドリンク
・烏龍茶ハイ 台湾四季春 715円
・烏龍茶ハイ 鳳凰単叢 715円
・烏龍茶ハイ 岩茶武夷水仙 715円
合計6,930円

※価格は税込です。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

取材・文:印束義則(grooo)
撮影:玉川博之(grooo)