〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

“寄り合い”がコンセプトのショップ&バー

カウンター席

東京・参宮橋「寄(よせ)」は、“寄り合い”がコンセプトの食とカルチャーのセレクトショップ。入り口にはレコードやグッズが並んでいるが、奥にはカウンターやワインセラーがある食スペースとなっている。ここでは、行列店で知られる京都「すば」のそばや京都「OKUTE」の焼売など、全国から“寄せ”集められた逸品がアレンジされ、オリジナルの共作メニューとして提供されている。

ワインセラー

メニューと合わせるのは、セラーにある自然派ワインやクラフトビール。ワインは小売り価格に+3,000円の抜栓料を支払って店内で飲むことができる。そのほか、グラスワインも用意されている。

こたつ席とスタンディングカウンター

カウンターでワインを楽しむだけでなく、隣のスペースには冬の時期はこたつが登場。仲間と足元をあたためながらゆったりと時間を過ごすことができる。さらにその前にはスタンディングカウンターがあって、より気軽に飲むこともできる。思い思いのスタイルで“寄り合い”が楽しめるというわけだ。

左から料理担当の土田純さんとスタッフの高山裕也さん

寄を運営しているのは、クリエイティブディレクターの南貴之さん率いる「アルファ」。寄の2階にあるアパレルショップ「Graphpaper TOKYO」もアルファによるもの。2023年6月に開店してしばらくはアパレルショップの帰りに立ち寄る人が多かったそうだが、お昼から夜まで開店しているため、現在は参宮橋・代々木エリアに生息する人のさまざまな生活シーンで利用されるようになっている。

蒸し茄子✕塩ミネラル白ワイン

蒸し茄子のベトナム風(660円)

寄の常連客がまず注文するのが「蒸し茄子のベトナム風」。すぐにできるメニューのため、立ち飲みの人もくつろぐ人も最初に頼むというわけ。蒸した茄子をシンプルにナンプラーで味付けした一皿。通年出されているメニューで、夏は冷たく、冬は温かくして提供される。茄子はとろとろにはせず、ほどよく食感が残されているため、冬はおでん、夏はお漬物のようなヘルシーな感覚でいただける。そのため、女性に人気が高いという。

ル・クロ・デュ・チュ=ブッフ ル・ブラン・ド・シェーブル2021(グラス1,200円、ボトル小売4,600円、ボトル店内7,600円)

蒸し茄子のベトナム風におすすめなのは、フランス・ロワール地方のムニュ・ピノを使った白ワイン。「茄子はナンプラーでクセのある味なので、さっぱりしていながらも負けないワインが合います。こちらは酸と塩のミネラル感が主張しているワインなので、バランスがよくなります」と高山さん。茄子を食べたあとに酸味がほんのり残る感覚がちょうどよかった。

スパイシー焼売✕オレンジワイン

シュウマイ(770円)

寄に来て頼みたいのは、全国のさまざまな名店とのコラボメニュー。こちらは、京都で人気のワインバー「OKUTE」で人気の「シュウマイ」。寄では自家製ハリッサと辛子が添えられている。シュウマイはタケノコなどの具材が入った大きめタイプで八角などの香りが漂う。自家製ハリッサも酸味と辛味が自然な味わいでシュウマイをスパイシーに引き立てていた。

ファットリア アルフィオーレ アランシア2023(グラス1,200円、ボトル小売4,600円、ボトル店内7,600円)

シュウマイにおすすめのワインは、山形のオレンジワイン。「八角の香りもワインから香るので中華全般に合うオレンジワインです。スパイスやハーブ、だし汁風味が強いので、ハリッサを添えたシュウマイとの相性は抜群です」と高山さん。ハリッサの酸味のある辛さは本来マイルドな味わいのシュウマイにぴったりだが、その橋渡し役としてワインが存在感を発揮していた。

ホルモンそば✕だし系赤ワイン

京都すば ホルモン油カスと九条ネギ(1,430円)

全国の名店コラボでも一番の目玉となっているのが京都「すば」のそば。すばは、京都で行列のできるそば屋として知られた名店。それが行列せずに東京で食べられるのだ。すばとのコラボそばは12種類あり、すべて寄だけで食べられるオリジナルメニュー。一番人気はホルモンの油カスと九条ネギがのった温かいそば。ホルモンの油かすとは牛ホルモンを揚げて余分な油を切ったもの。関西などでよく食べられていて、カリカリ&ぷるぷる食感とホルモンのうまみがすべて味わえる具材なのだ。

リスト ソリスト 2021(グラス1,200円、ボトル小売4,600円、ボトル店内7,600円)

ホルモン油カスと九条ネギのそばに合わせたいのは、オーストラリアのメルロ。「すばのそばは、昆布やうるめいわし、さば、かつおのだし汁がていねいに取られている関西系の味わいです。ホルモンの油カスが入っているので、こうしたそばには、だし汁系の赤ワインがおすすめです」と高山さん。そばとワインのペアリングはこれまで今ひとつしっくりこなかったが、こちらはだし汁のうまみと具材のボリューム感がワインとマッチし、初めて最適解を感じた。

高山さんの「私が恋した自然派ワイン」

バティスト・ナイラン トワ・デュ・モン2021(グラス1,300円、ボトル小売5,000円、ボトル店内8,000円)

高山さんが恋したワインは、友達との思い出の一本。

「ガメイは食事に合わせやすいですし、早く飲みきったほうがおいしいワインです。そのため、みんなとワイワイボトルを開けるときにはガメイを開けることが多いですね。

中でも、バティスト・ナイランは4〜5人で集まるときに開けると、2〜3本軽く空いてしまうワイン。楽しいときにはいつもそばにあるイメージです」

寄の料理に合うワインをラインアップ

寄では冷蔵のワインセラーに自然派ワインが並んでいる。もともと小売りしていることもあり、ボトルネックにワインのスペックが書いてあり、好きなものを選んで店内で飲むことができる。ベースとしては寄にあるそばやシュウマイなどのメニューに合うワインが多くなっている。そのほかユニークなラベルのワインが多いのも特徴。グラス(1,000〜2,000円)は5〜6種類、ボトル(店内6,000〜13,000円)は約50種類用意されている。

くつろぎ空間の中のショップスペース

入口に近いエリアには、レコードやアパレル用品が並んでいる
外観

寄があるのは代々木や参宮橋の住宅街だが、店は首都高速4号線の下道沿いにあり、間口は広い。入り口はショップスペースになっているので、ふらりと入りやすいのもいい。入ってみると、カウンターだけでなく座敷スペースもあるくつろぎの空間が広がるギャップがおもしろい。そのちょっと異質だが落ち着く空間を楽しんでみてほしい。

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章