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格子模様の入ったクッキー生地にくるまれた丸いパン。「メロンパン」と聞くと、たいていの人がこの形状を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、ここ広島ではラグビーボール形のクリーム入りパンをメロンパンと呼ぶ人が多いのです。そのルーツともなっているパンを製造販売している、呉市本通の「メロンパン 本店」を訪ねました。
〈広島のソウルフード・ローカル飯〉
昭和11年創業、3世代や4世代にわたり愛され続けている「メロンパン 本店」。広島市に隣接する呉市の地元っ子に話を聞くと「幼稚園の頃に園で出されていたのがここのパンだった」「うちのおやつにいつも買い置きしている」など、生活に溶け込んでいるのがわかります。
看板商品は、店名そのままの「メロンパン」。大人の手のひらほどもある大きな紡錘形のパンは優しい甘さの懐かしい味わいで、広島人の舌と心をぐっと掴んでいます。
教えてくれたのは
浅井ゆかり
大分県出身、広島市在住。3児の子育ての傍ら育児雑誌で始めたレポーターがきっかけでライターに転身し約10年。タウン情報誌をメインに、県や市町の広報誌、フリーペーパー、Webサイト、書籍などさまざまな媒体で活動する。関わった人が明るい気持ちになれる取材&記事制作がモットー。得意分野はグルメ、観光、地域関連。
呉を訪れたら寄らずにいられないレトロな趣の「メロンパン 本店」
広島から呉へと向かう広島呉道路に乗り、呉ICを下りて車で10分。休山西口トンネル交差点を少し過ぎたあたりに、エメラルドグリーンの建物が見えてきます。1階が店舗、2階が製造工場となっている「メロンパン 本店」は、朝7時からオープンする地域に根付いたパン屋です。
40~50種類のパンが並ぶ店内は地元の人で賑わい、休日ともなるとわざわざ県外から訪れる人もいるほど。レトロな趣が可愛いとSNSにアップする若い世代も多く、客が途絶えることがありません。
お目当てのひとつになっているのが、こちらのメロンパン。総重量200g超えというずっしり重みのある一品で、中には自家製クリームがぎゅっと詰まっています。そもそもメロンパンは丸い形状のものでは?と思われがちですが、広島ほか関西や中四国、九州の一部では、この紡錘形を「メロンパン」と呼ぶ場合もあるのだそう。
呉っ子に限っては、あまりにこのパンが浸透しているため、他地域の人とメロンパンについて話すと定義が食い違うことも多いのだとか。そんな“ご当地あるある”も、このメロンパンが持つ魅力のひとつです。
「お腹いっぱい味わって、幸せな気持ちになってほしい」。初代の深い愛情が生んだメロンパン
「メロンパン 本店」の創業は、戦前である昭和11年。もとは米や卵を売る商店を営んでいました。ものが少なく貧しい時代にあって「甘いパンをお腹いっぱい食べて幸せな気持ちになってほしい」と、初代の中塩春馬さんがパンの製造販売を始めたのがきっかけです。横長い紡錘形のメロンパンはマクワウリがモチーフになっているのだそう。
当時おやつは容易に入手できるものではなく、畑で育つマクワウリが「メロン」と呼ばれ、子どもたちのお腹を満たしていました。本物のメロンが口に入るのは難しくとも、パンならば皆に食べてもらうことができる……そんな思いで、同店のメロンパンは誕生したのです。
創業の志は「着物より心 包装より品質」。自分たちは着飾らず、商品の包装も過剰にせず、そのぶんより良い材料を使って心とお腹を満たすパンを届けよう、そんな初代の気持ちがこの言葉には込められています。3代目が店を営む今も、その志はしっかりと息づいています。
3代目社長・中塩隆馬さんと共に店を切り盛りする妻の愛子さんは「おじいさん(初代)はとにかく奉仕の人だったようです」と、その人柄を語ります。「クリームは生地との間に隙間ができないほど詰めること、店の商品は売り切れないぐらいたくさん用意すること。これらをずっと言い継がれてきました」。お財布に優しい価格で販売される驚くほど大きなパンには、初代の心意気が詰まっているのです。
誕生秘話も興味をそそるロングセラー商品の数々
ナナパン
人気のパンは数え切れないほどありますが、創業から変わっていないベストセラー商品をいくつかご紹介。初代お気に入りの推理小説の主人公から名付けたという「ナナパン」は、コッペパンに溶かしたチョコレートを挟んだシンプルなパン。
写真からお気付きの人もいると思いますが、「メロンパン 本店」では、多くの地域でメジャーとなっているクッキー生地を被せたメロンパンを「コッペパン」と呼んでいます。
平和パン
そしてこちらは、ハトの図柄を包装にあしらった「平和パン」。コッペパンの中に、カステラとイチゴジャムを包み込んでいます。まさかのカステラ?とびっくりしますが、しっとりした生地がまるでクリームのよう。ちなみにカステラをフィリングにしているのは、広島と同じく被爆地である長崎の名産だから。広島と長崎、この2つの地から平和を発信していこうというメッセージが込められています。
あんパン
2種類用意されているあんパンも、長く変わらない人気の品。インゲン豆から作る白餡と赤餡を混ぜた「こしあん」はなめらかな餡の甘さが体に染みわたる、毎日でも食べたくなる味。最高級の北海道産小豆を丁寧に炊いた小倉餡入りの「瑳珴の小倉庵」は上品な口当たりの餡にゴマの香ばしさが加わって、噛みしめたくなるおいしさです。
サンド各種
菓子パンだけでなく、総菜パンが多いのも同店の特徴。サンドイッチやバーガー類だけで20種類ほどありますが、つい手に取ってしまうのがこちらのサンド。100円台の価格と手頃なサイズ感が、小腹を満たすのに最適です。
「たまご」はゆで卵に、「ハム」はハムに、それぞれキュウリを挟み、「やさい」はキャベツやニンジンで作ったコールスロー風サラダが入っています。