ご飯は炊き立ての釜めしがお決まり

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンした店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分にあり得るのだ。点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちに楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する企画。今回は笹岡隆甫さんが足しげく通う和食店「楽膳柿沼」を紹介。リピートしたくなる店と料理の魅力を深掘りする。

教えてくれる人

笹岡 隆甫
1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、日本-スイス 国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でも、いけばなパフォーマンスを披露。2016年には、G7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。主著に『いけばな―知性で愛でる日本の美―』(新潮新書)。

温かでくつろいだ雰囲気のなか、細やかな仕事の和食を供する「楽膳柿沼」

大きな看板は無く、暖簾がわずかな目印に

確かな審美眼を持つ華道家の笹岡隆甫さんが薦めてくれたのは、熊野神社近くにたたずむ「楽膳柿沼」。友人の紹介で訪れて以来、和食のコースを気軽に楽しみたい時によく足を運ぶように。正統派の料理はもちろん、創作的なアレンジを加えた一品もあり、訪れるたびに新しい発見があるとか。

食べログでの点数は3.16だが、京都で20年近く店を続けられるのは実力があってこそ。目も舌も肥えた京都人も認める店の実力をつまびらかにしていこう。

※点数は2022年3月時点のものです。

おくどさんや井戸 ……、歴史を感じる町家の空間ごと味わえる

柿渋色が利いた空間

京都三熊野のひとつ、熊野神社の近くにある「楽膳柿沼」。現在は飲食店の数も増えたが、店がオープンした2004年当時は、夜になると商店の灯りはほとんどないような場所だったとか。そんな地に立つ、築140年もの古い町家を利用した料理店だ。

目立つ看板もなく、店名を記した表札程度のものがあるだけ。初めて訪れた人は扉を開くのに躊躇しそうな雰囲気だが、店内に入れば一転。町家の趣とモダンなしつらえが調和した、温もりのある空間に迎えられる。

店主の柿沼秀直さん

町家の台所にあたる「走り庭」をそのまま活かした調理場に立つ、店主の柿沼さん。カウンター席からはかまどである「おくどさん」の姿もちらりと覗ける。「仕事の効率は良くないんですけどね」と店主は笑うが、京都らしい風情ある空間で食事を楽しめるのは客にとってはうれしい限り。

炭焼きの仕上げはカウンター前で
炭焼きのおいしい香りも演出のひとつになる
一品ひと品に細やかな仕事が光る
 

笹岡 隆甫さん

ショーウィンドウや店内にいけばなや日本人形を飾り、休日には座敷を能の稽古場として貸し出すこともあるそうです。日本文化を近くに感じ、気軽に触れられる店の空間にも魅力を感じます。町家ならではの急な階段も今となっては貴重ですね。

まず米がおいしい「釜めし」。今日はどの具でいくか、選ぶのも楽しい

昼4~5品、夜8~9品で構成されるコースの中で、ハイライトと呼べるのが釜めし。しらす、あさり、鯛など季節の素材が多数リストアップされた中から、好きな一種を選んでオーダーできる。

米は京都・綾部の契約農家から仕入れたもので、専用の冷蔵庫で保管。毎日、店で精米したものを使っている。炊きたてのご飯は米の一粒ひと粒が立って、上品な甘みがある。ここにだしや素材の旨みがしみ込んだ釜めしの味わいは格別だ。

夜のコースでは料理人が一膳目をよそってくれる
甘く炊いた穴子をたっぷりのせた釜めし
 

笹岡 隆甫さん

春は筍、夏は鱧やとうもろこし……、その季節、その日のおすすめがどれも魅力的で、どの具を選ぶか悩むのも楽しい。量も一合分ほどあるので、家族や友人と一緒の時は何種類かを頼んでシェアするのがおすすめです。

何より自身がお米好きだという店主