〈福岡のソウルフード〉
酒屋で酒を買い、その場で立ち飲みする。この風習は日本各地にありますが「角打ち(かくうち)」という名前や現在浸透しているスタイルは、北九州がルーツと言われています。今回は、ビギナーも立ち寄りやすい北九州市小倉の「赤壁酒店」と「平尾酒店」を飲み歩き。「角打ちの歴史って?」「1人1,000円あれば楽しめるってホント?」「ルールやシステムは?」など気になるポイントと魅力をたっぷりご紹介します。
教えてくれたのは
森 絵里花
福岡生まれ博多湾育ち。地元タウン誌やグルメ情報誌、料理専門誌、WEBマガジンなどを中心に活動。ランチ、カフェ、星付き店から路地裏の酒場まで、オールマイティに楽しむ呑み食い道楽 兼 グルメライター。
北九州に根付く角打ち文化とは?
明治34年に「官営八幡製鐵所」が操業を開始し、三交代制で働く労働者で賑わった北九州市。「夜勤明けに居酒屋は閉まっているが、酒屋なら朝から飲める」と店頭で飲む人が増え、「酒屋で飲む=角打ち」文化が根付いていったと言われています。語源については諸説あり。昔のお酒は升に酒を注いでの量り売りが基本で、客が「升の角に口を付けて飲んだ」ことが由来という話や、「店の隅(角)で飲むから」「酒屋の多くが角地にあったから」という説もあります。
北九州には100軒近い角打ちがあるとされていますが、店主の高齢化や建物の老朽化などで年々減少しているのも事実(大好きだった八幡の「高橋酒店」や「宮原酒店」も閉店してしまいました……)。今回は、変わらず営業を続ける小倉の老舗を訪れました。
まずは北九州の台所「旦過市場」へ
最初にやって来たのは、JR小倉駅から徒歩10分ほどの場所にある「旦過市場」。大正2~3年頃に誕生したと言われる、北九州の台所です。隣接して流れる神嶽川(かんたけがわ)を上る船が魚の荷揚げをして商売を行い「荷揚げ場」として栄えたのがその始まり。
戦後はヤミ市のような状態だったそうですが、昭和30年代に現在の長屋式の商店が立ち並ぶ市場へと建て替わりました。場内は全長約180メートルの通りを中心に、細道や路地、枝道が入り組んでおり、さながら迷路のよう。昭和へタイムスリップしたか、ドラマのセットに迷い込んだような気分になります。
目指すは戦後から変わらぬ「赤壁酒店」
お目当てはぬか炊きの店「宇佐美商店」の向かいに立つ「赤壁酒店」。初代が大正時代に創業し、戦後から市場内へと移り営業を続けている老舗酒店です。建物の一部にはなんと、かつて小倉にあった練兵場の馬小屋の木材が使われているそう!
店内もご覧の通り、昭和の雰囲気そのまま。至るところに飾られている酒類メーカーの古いポスターや看板も見どころ。市場内にあることから、ビギナーや一人客、女性客も立ち寄りやすい角打ち酒店です。
笑顔で迎えてくれたのは、4代目店主の森野秀子さんと息子の敏明さん。乾き物や市販のつまみだけを出す角打ちもあれば、手作りの総菜が揃う角打ちもあり、同店は後者。森野さんお手製の総菜やおでんも人気の秘密です。