〈おいしい歴史を訪ねて〉
歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。
門司港でレトロ散歩&焼きカレー&角打ちホッピング
2019年3月10日にグランドオープン予定の、門司港駅。駅としては日本で初めて国の重要文化財に指定されたことで名高いこちら。老朽化の部分を補強し、創建時の姿に復原されるそうで、さらに注目が集まるだろう。今回は、その前に訪れたときの思い出を写真とともに振り返る。
門司港駅といえば大正ロマンあふれる駅、レトロなムードの街と、一日中散歩しても飽きない。昼は焼きカレーを食べて、夜は角打ちを回ればきっと胃袋も満足する素晴らしい休日になるだろう。
門司港駅は九州の玄関口であり、関門トンネルを歩けば本州と地続きだ。門司港と下関の海峡にはドラマが多くあった。
古くは平安時代に平家と源氏が戦った「壇ノ浦の戦い」が有名だ。どうも関門橋の真下あたりで戦ったらしい。
そして宮本武蔵と佐々木小次郎が決闘した「巌流島の戦い」の巌流島が今度は少し南下したところにある。
明治から昭和に栄えた外国航路は、門司港を日本での拠点として繁栄していく。いまでもアジアからの日本の玄関口といっても過言ではない。国際貿易を通じて、大陸からこの港に多くの文化や資源が運び込まれた。全ての財閥系の商社がここを拠点に貿易を開始したという。その名残をレトロ街という観光資源としてリノベーションしたのが最近の門司港だ。
大連友好記念館(旧国際友好記念図書館)
その象徴が、映画の“寅さん”よろしく口上で客を集め売りさばいた「バナナの叩き売り」。昔、台湾バナナが主流で、当時は台湾は日本統治ということもあり門司港にバナナ村ができるほど賑わっていたという。そして輸送途中に青バナナが黄色く熟したバナナになり、ここで売らないと腐ってしまうので叩き売ったということである。
当時の様子を再現した展示。関門海峡ミュージアム。(協力・北九州市観光協会)
レトロモダンなホテルの名物カレー料理
プレミアホテル門司港
散歩の立ち寄りスポットに加えたいのが、プレミアホテル門司港。イタリア人建築家が設計し、館内は黒と白の市松模様の床などをしつらえたレトロモダンな雰囲気がなかなか良い。ここでの朝食バイキングで出されていた門司港名物焼きカレーが、チーズが香ばしく今までにない焼きカレーだった。
僕が生まれた昭和30年代、門司港にあった「山田屋」という和食店が、土鍋にカレーを入れてチーズなどを上にのせてオーブンで焼いてみた。すると香ばしく、おいしく仕上がったことから「焼きカレー」が誕生したという。(諸説あり)
僕は高校まで地元の北九州小倉にいたが、カレーライスは家でしか食べたことがなかった。インドのカレー、ドリアよろしくグラタンもミックスされた焼きカレーは、貿易で栄えたロマンの街にはぴったりの洋食である。やはり門司港は外国航路などがあるから食もバラエティがあったのだろう。
伽哩本舗 門司港レトロ店
カレーとラーメンとお酒はそれぞれ、何が好きかがその人の一種の個性になるかのようだ。
特にカレーは日本人にとって細かな好みの違いがあり、家の母ちゃんのカレーを基本に個人差がにじみ出るように思う。焼きカレーは家ではなく外から来たようなアレンジ感が大きく、作るのが大変そうであまり馴染みがないが、旅先でのカレーであればとてもおいしくいただける。僕は、濃いめの焼きカレーに卵をのせてマイルドにしながら食べるのが好きだなあ。
何十軒もある角打ちをホッピング
魚住酒店
さてさて、ロマンの街と書いたが、なかなかどうして、散歩するとここには角打ちという立ち飲み屋がひしめく、角打ち発祥の地といわれるのがこちら「魚住酒店」。港湾等で働く労働者が、仕事帰りに酒屋の角のカウンターで酒を飲んでいたことが「角打ち」として定着した。つまり酒屋が自分のところのお酒を自分のお店の角で飲ませたのが始まりだそう。
“打つ”というところが、九州の飲んべ〜の言い回しとして最高だなあ。立ち飲み屋を角打ちといったほうが粋に感じる。つまり外で焼くスルメの匂いに釣られて入るわけで、多種多様な缶詰などもあり、すぐ食べられるつまみには事欠かない。きっと昔は、ワイワイと日本酒を湯呑みでガブガブ飲んでいたのだろう。今はハイカラ(死語ですね)な店が並ぶ、焼酎やウィスキーやワインなどなんでもある。まあ、千円あればどこでも、酔っ払うことができる。地元の連中や旅人と交流するのも良いなあ。どこも気楽に入れるぞ。