【カレーおじさん\(^o^)/の今月のカレーとスパイス】2023年5月を振り返る

街中にはマスクを外した人も増え、人気の飲食店へ行けば行列の長さが以前と同様となり、週末のカフェはどこへ行っても混み合っているような状況となりました。街が活気づいているようにも感じられますが、もともとこうだったのです。同時に、まだ以前ほどには戻っていないという声もお店からは聞こえてきますし、人は戻ってきても原材料や光熱費の高騰で飲食店にはまだまだ苦難の時期が続いています。ここ数年会えていなかった友人と一緒に、気になっていたお店に行ってみてはいかがでしょうか?

そんな今月ご紹介したのはこちら。

  1. 福岡まで行く価値のある師弟の味
  2. 名店「ダバインディア」から派生した新店その1
  3. イタリアン×インネパという新機軸
  4. 名店「ダバインディア」から派生した新店その2

惜しまれつつ閉店した名店から派生した2軒の新店に、福岡のお店も2軒、そして個性派の1軒、計5店舗のご紹介となります。

新しいお店に活気があるのもうれしいことですが、ダバインディアのように人気店でもさまざまな事情で閉店せざるを得ない場合もあります。今までのお気に入り店にも是非行ってみてくださいね。

【第1週のカレーとスパイス】ワンランク上のカレーを食べるならこの2店! 福岡旅行で行きたい、知る人ぞ知るスパイス料理の名店「Spice & Dining KALA」&「Curry Toiro」

今回は特別編として、福岡県の名店をご紹介いたしましょう。福岡といえば東京、大阪、北海道に並ぶカレーレベルの高い街としてマニアには知られているのですが、福岡の中心部ではない場所でお店を営む、知る人ぞ知る2つの名店です。

「Spice & Dining KALA」

カレーやスパイス料理好きな方なら、KALAの名前を聞いたことがある方も少なくないでしょう。福岡県の中間市でスタートし「The Tabelog Award」や「食べログ カレー 百名店」でも何度も選出している、日本を代表するモダンインディアンの名店です。そのお店が昨年11月、小倉に移転したのです。

旦過市場の近くにある黄色いビルの1階。関係者以外立ち入り禁止とありますが、これは予約をした方のみ入れる仕掛けがあり、扉を開ける段階からKALAらしさあふれる展開に心躍ります。

2023年春はスパイス会席と題したコース。お酒とのペアリングの数によって価格が変わるのですが、5種のペアリングがついた「小僧」コース(24,000円)をいただきました。

トロのスパイス寿司

KALA初という和食をテーマにしたスパイス料理が全10品。島らっきょうと合わせたトロのスパイス寿司(シャリの代わりにレモンライス)など、一捻りある料理がどれもおいしかったのですが、中でも特に感動したのがイベリコベジョータ肩ロースと若松トマトのおでん。

イベリコベジョータ肩ロースと若松トマトのおでん

まずはトマトを食べればスパイスのきいただしが染み込んだ自然なうま味と香りが口の中に広がります。途中から巾着を割ってみると、中には餅とビンダルーソースが入っており、これをだしにといていくとおもちビンダルーに、さらに言えばおでんビンダルーに進化するという楽しさ。

ビンダルーとはインド南西部ゴアの名物料理で酸味と辛味が特徴。具材はポークがポピュラーなのですが、このおでんビンダルーの豚はイベリコベジョータの肩ロースという豪華さ。巷間「良い素材はそのまま食べるのが一番」などと言われたり、「それをカレーにするなんてもったいない」という言葉をかけられりすることも少なくないのですが、こちらは素晴らしい食材をシンプルに味わった後でカレーに変化させたらもっとおいしくなるという素晴らしさを感じさせてくれます。

ラムと納豆のサモサ

他にも、ラムと納豆のサモサも驚きがありました。納豆の粘りは感じさせず、ラムのクセの部分と納豆のクセの部分が調和して奥深いうま味が体内に広がっていくような感覚になります。

個人的な話ですが、僕は基本的に餅も納豆も好みません。自ら選んでそれを食べるということは普段全く無いと言えるくらいなのですが、そんな僕でも心底おいしいと感動できる素晴らしい料理であり、コースでした。

お酒も楽しく、雪漫々に青唐辛子をつけたものや、春鹿鬼斬とマンゴービネガーを合わせたものなど、料理との相性も考え抜かれたペアリング。お酒を沢山飲める方ならさらに一段階上のコースが最高でしょうし、お酒を飲めない人にも楽しいコースでした。

お店は予約制で、時期によってメニューが変わるので今回ご紹介した料理が味わえるとは限らないのですが、いつ行ってもどの料理を食べても毎回感動できるお店です。

「Curry Toiro」

もう一つご紹介したいのは大牟田市の吉野駅から歩いて5分ほどの場所にある古民家レストラン「Curry Toiro」。こちらのシェフは中学生の頃からカレー活動を開始し、カレー中学生、カレー高校生として福岡のカレー好きの間でうわさになっていた方。高校生になると食べ歩きの他にさまざまなカレーの名店で働き、先に紹介したKALAでも研鑽を積んできたという、若いながらカレー歴はしっかりとあるシェフで、二十歳になったのを機に開店、今年の2月にメニューも一新してリニューアルオープンしました。

お家にお邪魔するような雰囲気でくつろげる空間。

メニューは「季節のおまかせカレーセット」3,300円のみ。3種類のカレーとデザートが付くというプチコース。

苺・ココナッツ・人参のポタージュ

まず出てきたのは、苺・ココナッツ・人参のポタージュ。ポタージュ的なカレーと言えるもので、素材自体のおいしさを活かしたシンプルなスパイス使い。胃袋がホワッと温かくなり、食欲にスイッチが入ります。

さつま芋・ひよこ豆・トマト・金柑のカレー

続いてはパンと合わせた、さつま芋・ひよこ豆・トマト・金柑のカレー。ベースト状になったさつま芋の上にひよこ豆とトマトのカレー、その上に金柑のアチャールがのるという形。さつま芋のなめらかな舌触りの中でひよこ豆のホクホクとした食感がアクセントとなり、変化を出す金柑の酸味と甘味。それをトマトが全て包み込み、調和させます。

春菊とほうれん草のグリーンカレー・キウイと木の芽のピクルス

続いてライスに合わせた春菊とほうれん草のグリーンカレー・キウイと木の芽のピクルス。クリーミーなカレーの中には蓮根やキノコも入って食べ応えがあり、春菊のほのかな苦味がハーブのような役割を果たしてスパイスと融合し、おいしさにつながっていました。

くるみのショートブレッド、深煎りコーヒー

最後にくるみのショートブレッドにペルー産の豆の深煎りコーヒーで締めくくり。

どの料理も素材の良さを最大限に活かした引き算のおいしさ。これは修業先であるKALAも同様に引き算の味付けだからこそ、普段は感じにくい素材の持つ深い部分の味に気づくというもので、味付けの濃いものに慣れてしまった日常をリセットしてくれるような料理。野菜やフルーツだけでも十分に満足させてくれるプチコースでした。

ちなみにこちらのお店も予約制。レストランの他に毎月初心者向けのカレー教室も開催しているということで、詳しくはSNSをご覧ください。

師弟の味をそれぞれ食べ比べるのもまた楽しく、どちらか片方だけでも是非とも行って欲しい価値ある名店です。カレーはどこで食べても同じと考える方も少なくないのですが、実はまるで違います。土地土地の良い素材と水を使ったからこその、その土地でしか味わえないカレーやスパイス料理。時間を作って是非行ってみてください。

【第2週のカレーとスパイス】「ダバインディア」ファン歓喜! 南インド料理の名店の精神を受け継ぐ新店が飯田橋にオープン「TOKYO BHAVAN」(トウキョウ バワン)

南インド料理ブームの火付け役として知られ、連日大行列の人気店だった京橋「ダバインディア」が地域再開発の関係で4月に惜しまれつつ閉店しました。移転ではなく完全閉店ということで悲しんだ方も多いと思いますが、そのダバインディアのスタッフ、シェフが円満独立して5月に新たなお店を開きました。その名も「TOKYO BHAVAN」。

場所は飯田橋駅と九段下駅のちょうど真ん中くらいの位置。手書きの看板の雰囲気からしてダバインディア系を思わせます。

店内は程よい広さでインドの街の食堂のような雰囲気。

南インド料理と言えばミールスという定食が有名ですが、それだけではないさまざまな魅力があります。

「キーマドーサ」

まずはドーサからスタート。ドーサだけでも8種類あるのですが、その多くは大きさが選べるのもうれしいところ。「キーマドーサ」のMサイズ(850円)をお願いしました。

パリッと焼かれたドーサを三角形に折りたたみ、中にキーマカレーが入っています。そのまま食べておいしく、一緒についてくるサンバル(野菜カレー)やチャトニと合わせればまたその表情を変え、飽きずに食べることができます。

「マトンスッカ」

続いて「マトンスッカ」1,250円。骨付きマトンのスパイス炒め煮で、わかりやすく言えば具がたっぷりなセミドライのマトンカレー。たっぷりと入ったカレーリーフが香ばしく、マトンの濃厚な味わいがスパイスと調和しています。このまま食べておいしく、ライスなどと合わせても良いですし、ミールスにさらに追加の一品として豪華にするのも良いでしょう。

「ヴェジミールス」

最後にそのミールスを。「ヴェジミールス」2,200円にしました。サンバル、ラッサムなどといったミールスの基本アイテムに加えて日替わりの野菜カレーが2種。この日はトマトベースのミックスベジタブルカレーと、ココナッツベースの長芋カレーでした。どちらも南インド料理としてはかなりしっかりした味付けとスパイス使いで、リッチでパンチのある味わい。

南インド料理にも色々あり、現地で食べると非常に素朴な味のものも少なくないのですが、こちらは絢爛豪華な味わい。だからこそ初心者でもわかりやすいおいしさだと言えるでしょう。そしてこの味付けこそダバインディアを思わせるもの。このわかりやすい味ゆえにブームの火付け役となったわけです。

名店の遺伝子をしっかりと受け継いだ新店舗。ダバインディアの味が好きだった方は、悲しむことはありません。ここに行けば良いのですから。そしてダバインディアの料理を食べないまま閉店してしまったという方も、ここでその片鱗がうかがえますよ。