〈レストランで社会貢献〉

2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まずお店選びから意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店をご紹介。

長年愛される街のパン屋さんが地元産小麦の活用に奔走

東急田園都市線・青葉台駅から徒歩7分程、桜台交差点の角。ペールグリーンの建物とコーヒーやパンが描かれた壁がかわいらしいパン屋

パンの激戦区としても知られる横浜市青葉台で、1972年の創業以来、ほっとできる優しい味わいのパンで地域の人々から愛されている「ベーカリーカフェ コペ」。同店では、パンの原料である小麦を通じて、環境への配慮と共に人と人のつながりを広げる取り組みを行っている。

コペの2代目店主・奥山誠さん

活動の名称は「横浜あおば小麦プロジェクト」。地元・青葉区の農地で栽培、収穫された小麦を活用することで、地産地消を推進する取り組みだ。
「社会貢献をしようと思ったわけではなかったのですが、やってみたらすごく喜んでもらえたんです」と語るのは、このプロジェクトの発起人である同店の2代目店主・奥山誠さん。

子供から年配まで、家族みんながおいしく食べられるパンが揃う

店内に並ぶパンは、定番の食パンやテーブルロールのほか、惣菜パンや季節の素材を使ったデニッシュなど、素朴で親しみやすいものばかり。約50種類あるパンにはそれぞれのレシピがあり、使用する粉の種類や配合も異なる。外国産から国産まで、さまざまな小麦粉を扱う中で、地元・青葉区産の小麦があることを知り、パンに使ってみたいと考えるようになった奥山さん。そんな時に、障がいがある通所者が農作業を行っている福祉施設「グリーン」と出会う。

きっかけは、生産者と活用者がタイミングよく繋がったこと

施設の近くにある田畑で、職員と共に無農薬の野菜や米、小麦を栽培。ただし、効率性よりも通所者一人ひとりのペースを優先して作業を行っている

「グリーン」では、知的障がい者の生活支援や自立支援を目的とした活動の一つとして、農薬を使わない野菜作りを行っており、「さとのそら」という品種の小麦も10年以上前から栽培していた。しかし、収穫後の小麦をどう活用するかが悩みの種だったそう。というのも、小麦を育てるのはさほど手がかからない一方で、収穫後の保管にはさまざまな注意を払わなければならない。乾燥状態を保つ必要がある上、虫がつきやすく、施設内での管理が難しい。それゆえ、本当はもっと多く栽培したいが、ロスを考えると畑の1/4程度しか作付けできない……という状況だった。そこで、“小麦を使う側のプロ”であるコペの奥山さんを招き、助言を求めることに。

立派に育った小麦も、保管や活用法が定まらずロスが出てしまうことに悩んでいた

「ちょうど僕も青葉区産の小麦粉を卸してくれる生産者を探しているところだったので、ご相談いただいたのは絶好のタイミングでした」
早速「グリーン」を訪れ、製粉や保管のポイント、仕入れ価格や、どんなものに加工されているかなどを伝えた奥山さん。その後、試しに「グリーン」で栽培した小麦でフランスパンを焼いて持って行くと「自分たちで作った小麦粉がパンになった!! 」と、みんな大喜び。その姿を見て「こんなに喜んでくれるなら、この小麦粉を自店のパンだけでなく、もっと世の中に広めたい」と考え、奥山さんが動き出す。

パン以外にもピザ、うどん、餃子、天ぷら、パイなど幅広いメニューで「グリーン」の小麦を活用。「横浜あおば小麦プロジェクト」で扱う小麦の名称「あおば小麦」のステッカーも作成した

元々奥山さんは、地域活性のための街のイベント企画を行なっており、地元の飲食店とつながりがあったため、さまざまなお店に声をかけて、2018年に「グリーン」の青葉区産小麦を活用してもらう「横浜あおば小麦プロジェクト」を発起。
2019年に本格始動した際には、青葉区内の飲食店約30店舗が参加し、「グリーン」の小麦はさまざまなメニューに取り入れられることとなった。

同店であおば小麦を使用しているのは「フランスパン」 210円と「桜楽坂(さくらざか)食パン」(レギュラー食パン)290円。小麦の甘みと中のもちっとした食感が際立つ

取り組みを多くの人に賛同してもらえたのには、秘訣があったと言う奥山さん。それは、青葉区産の小麦の配合率にこだわらず、他の小麦粉とのブレンドもOKとしたこと。
「実は10年ほど前にも青葉区産の小麦を使ってパン作りにチャレンジしたことがあったのですが、当時は地産地消の意味を固く考えすぎて失敗しまして……」と苦笑いで振り返る。

青葉区産小麦100%でパンを焼こうとしたものの、同じ中力粉で麺類には適していても、パンには向いていない品種だったため、思うようなパンはできず。仕入れた小麦の多くを無駄にしてしまい、打ちひしがれたそう。
「でも、今回『グリーン』の人たちの喜ぶ顔を見て気づいたんです。配合率云々よりも、街のみんなが地元のものを活用しようとする心意気や活動自体が、もう十分地産地消なんじゃないかと」
こうして、青葉区産小麦粉を使う上でのハードルを下げたことで、プロジェクトは大成功となった。