お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第32回は、東京の有名店出身のパティシエによるスイーツ店が多くある、埼玉・浦和&さいたま新都心エリアのスイーツスポットを紹介します。
【猫井登のスイーツ探訪32・前編】埼玉・北浦和〜浦和〜南浦和のスイーツショップを巡る


食べログマガジン編集部
今回は、埼玉・浦和〜さいたま新都心エリアのスイーツ巡りということですが、この地域にはどういった特徴があるんですか?

猫井先生
東京の有名店で修業したシェフが多く店を開き、結構なスイーツ激戦区となっていますね。テレビでもよく紹介されることですが、総務省の家計調査※で、近時、日本で二番目にプリンを買っているのが、さいたま市民らしく、プリン専門店が多いですね。
※ 総務省統計局が行っている「家計調査」2018年〜2020年の3カ年の平均支出ランキングによれば、さいたま市はプリンに1年間に平均2,109円使っており、都道府県庁所在地及び政令指定都市の中で第2位となっている。

食べログマガジン編集部
へぇ〜! それは知らなかったです! それでは今日はプリンのお店も登場するわけですね!

猫井先生
そうですね。ただプリン店以外にも魅力的なお店が多いので、プリン店、ケーキ店、和菓子屋さん、パン屋さんなどをバランスよく紹介していきたいと思います。まず前編は、JR京浜東北線・南浦和駅からスタートです!
【1軒め】「プティ リッシュ」


食べログマガジン編集部
赤いベンチが可愛いらしい外観のお店ですね。こちらはパン屋さんですか?

猫井先生
「食べログ パン EAST 百名店」にも選出されている、地元の人に大人気のパン屋さんです。

食べログマガジン編集部
シェフはどんな方なんですか?


猫井先生
店主の島田淳一シェフは埼玉県の出身ですが、北海道の大学に行かれ、札幌のパン屋さんでアルバイトをしたのがきっかけで、パンの道に進むことになったそうです。大学卒業後、東京製菓学校で本格的に製パンを学び、銀座プランタン(現 マロニエゲート銀座)にある「ドゥースフランス ビゴの店」で12年間修業。2010年に、こちらのお店をオープンされました。


食べログマガジン編集部
有名店のご出身なんですね。そして店内にはたくさんのパンが並んでいますね〜〜。これは迷ってしまいます。



猫井先生
こちらのお店のアイテム数は、軽く100を超えますからね。なかなか選ぶのが難しいですね。ビゴのご出身ですから、クロワッサン、バゲット、食パン類が秀逸なのは言うまでもありませんが、スイーツの連載なので、旬のフルーツを使用した甘いパンはいかがですか? 季節限定のものもありますが「大学いもとりんごのガレット」「パルミエ」などがおいしそうですね! あとは個人的なお気に入りは「古代パン」です。


食べログマガジン編集部
古代パンってどんなパンですか?

猫井先生
パンの分類としては、ハード系で水分量が多い「パン・ド・ロデヴ」になるのでしょうか。外の皮はパリッとフランスパンのようですが、中は大きな気泡が入り、水分量が多いので、柔らかくもっちりした食感です。スライスしてそのまま食事パンにもなりますし、具材をのせてタルティーヌ(オープンサンド)にしてもオシャレですね。
【2軒め】「アカシエ 北浦和本店」

食べログマガジン編集部
北浦和駅にやってきましたが、浦和って「〇〇浦和」って駅がたくさんあるので間違いそうですね。

猫井先生
そうなんですよね。全部で7つあります。地元では、麻雀に喩えて「東南西北白發中(とうなんしゃーぺーはくはつちゅん)」なんて言ったりする人もいますね。

食べログマガジン編集部
なんの呪文ですか?

猫井先生
「東浦和」「南浦和」「西浦和」「北浦和」これで東南西北。白は何も付かないとうことで「浦和」。中は「中浦和」。さすがに發はないですが「武蔵浦和」を無理やり当てはめています。

食べログマガジン編集部
なるほどー。わからないけど、わかりました!(笑)そして、有名店の登場ですね!


猫井先生
元々は、2007年に浦和駅から歩いて少しのところにお店をオープンされたのですが、2018年にこちらにもお店を開かれ、現在はこちらが「北浦和本店」となっていますね。お店に入ると正面が生菓子のショーケース、左側が焼菓子売り場、右側がイートインになっています。


食べログマガジン編集部
アカシエのシェフってどんな方なんですか?

猫井先生
こちらの興野 燈(きょうの あかし)シェフも埼玉県の出身です。高校を卒業後、新宿「京王プラザホテル」に入社、銀座「パティスリー・レカン」を経て渡仏。パリの「ストレー」などで修業し、2003年に洋菓子の世界大会である「ガストロノミック・アルパジョン・コンクール」ショコラ部門で優勝し、帰国。2007年に「アカシエ」をオープンされました。店名は、シェフのお名前「アカシ」と「パティシエ」の造語で「アカシエ=自分自身(アカシ)が表現する物」という意味だそうです。

食べログマガジン編集部
そんな素敵な意味合いがあったのですね! さて、こちらでまず食べるべきはどのケーキでしょうか?

猫井先生
まずは何といっても、お店の看板商品ともいえる「アントワネット」でしょうね。


食べログマガジン編集部
淡いピンクが綺麗ですね〜。


猫井先生
名前のとおり、フランス王妃「マリー・アントワネット」を表現した作品ですが、薄く伸ばしたパイ生地の周囲にシュー生地を絞り、上にプチシューをのせた、サントノーレという伝統菓子をアレンジしたものですね。中央には甘酸っぱいベリーのジュレ。シューには、グロゼイユ(赤スグリ)の甘酸っぱいクリームを入れ、バラの香りのシャンティクリーム(生クリーム)を絞った華やかなガトーです。

食べログマガジン編集部
これはマストで食べておきたいですね。ほかにもおすすめのケーキはありますか?


猫井先生
ショコラ部門の優勝者ですからね。チョコレート系がおすすめです。金箔を施した「パレ・オール」などはいかがでしょうか? 土台はしっとりした薄いチョコスポンジ生地ですが、リッチな味わいです。その上にはバニラのクレームブリュレをビターチョコのガナッシュで包んだものがのせられ、チョコレートが上掛けされています。バニラのクレームブリュレが軟らかく、とろりとミルキーで、濃厚なガナッシュと絶妙なバランスで混じり合って、口の中で溶けていきますよ。


食べログマガジン編集部
先生の説明だけでおいしそうです。

猫井先生
あとは、和の素材を使ったものとして「サヤマニエール」はいかがでしょうか? 一見すると抹茶のケーキに見えますが、緑茶を中心に組み立てられたプチガトーです。構造としては、やぶきた深蒸し茶を浸み込ませた生地でごこう玉露の濃厚なガナッシュを挟み、その上に、ゆめわかばを使用したクリーム。仕上げにピスタチオと煎茶のパウダーを振り、周りはクランブルですね。抹茶のケーキとは一味違った味わいです。


食べログマガジン編集部
たしかに、緑茶のケーキって珍しいですね。


猫井先生
そして秋冬はやはりモンブランでしょう! 「彩の栗」は埼玉150周年を記念して作られた、埼玉県の日高でとれる和栗をたっぷりと使用したモンブランです。サクッと軽く焼き上げられたメレンゲを土台に、栗の渋皮煮を1粒。甘さ控えめの生クリームを絞り、さらに優しい味わいのマロンクリームがたっぷり絞られています。和栗本来の味わいを堪能できる逸品ですよ!

食べログマガジン編集部
それぞれ個性があって全部魅力的です! そして焼き菓子も気になるところです。


猫井先生
焼き菓子も最高ですよ。「タルト・クランブル・マロン」は、サクッとした食感のタルト生地に、ヘーゼルナッツを加えて香りと甘みをプラスしたアーモンドクリームを絞り、強い甘みと香りが特長の利平栗を埋め込んだものです。上部にはクランブル、アーモンドスライスをのせて、さらにマロンクリームが絞られています。ナッツとマロン尽くしのタルトですね。「トロペジェンヌ」は、本来ブリオッシュ生地にカスタードを挟んだ伝統菓子のひとつですが、これをクロワッサン生地でアレンジし、濃厚なフランボワーズジャムとともに挟んだものですね。


食べログマガジン編集部
まさにお菓子の歴史研究家の朝食って感じがします!(笑)。

猫井先生
たしかに(笑)。実はこちらのお店、ケーキはもちろんのこと、ヴィエワズリー(菓子パン類)も素晴らしい出来栄えで、特に「クロワッサン」は秀逸です。断面は惚れ惚れとするぐらいの美しさで、丁寧に生地が折り込まれているのがよくわかります。



食べログマガジン編集部
これはテイクアウトリストにクロワッサンも追加せねば!
※価格はすべてテイクアウト時の税率
【3軒め】「菓匠 花見 本店」


食べログマガジン編集部
前編の最後は浦和駅ですね。3軒めは雰囲気がガラッと変わって、和菓子屋さんですね。

猫井先生
そうですね。こちらのお店は、大正元(1912)年創業の、年明けで111年目を迎える老舗です。

食べログマガジン編集部
100年以上の歴史があるお店とは! こちらの名物はどんなお菓子ですか?



猫井先生
何といっても「白鷺宝(はくろほう)」でしょうね。その昔、お店の二代目が、野田の鷺山の清らかな水辺に佇む鷺の麗しい姿に魅入り「また来年も、この地で出会えるように」と思いを込めて作り上げられたお菓子だと言われています。新鮮な卵を加えた白あんを焼き上げ、ミルクで覆い、白鷺の卵を象りひとつひとつ丹念に手で作り、優しくまろやかな口当たりに仕上げられています。こちらの白鷺宝には、こしあんを砂糖の蜜でコーティングした「玉しずく」、黒胡麻あんと黒胡麻にミルクを衣がけした「ごま」など、6種類ほどの定番のバリエーションのほか、季節限定バージョンもあります。


食べログマガジン編集部
秋冬は栗のようですね。


猫井先生
栗あんをチョコレートコーティングしていますね。

食べログマガジン編集部
白鷺宝以外におすすめはありますか?


猫井先生
個人的に好きなのが「揚そふと」です。


食べログマガジン編集部
可愛らしい商品名! 見た目は、あんドーナツっぽいですね。


猫井先生
あんドーナツの一種と言えば、そうですが、カステラのようなふんわりとした生地で、さらりと後味のさっぱりとしたこしあんを包み、揚げたものです。生地が口中でホロホロと崩れて溶ける食感は、一般的なあんドーナツとは一線を画しています。毎日完売するというのも頷けます。

食べログマガジン編集部
すごい! これはお土産にもぴったりですね。

猫井先生
次回、後編では、浦和〜さいたま新都心のお店を紹介します。そちらもお楽しみに!
※価格はすべて税込です。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。
※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。
※本記事は取材日(2021年11月15日)時点の情報をもとに作成しています。
撮影・取材:猫井登
文:猫井登、食べログマガジン編集部