〈今夜の自腹飯〉

食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

奥渋に現れた、本当にうまい寿司屋

渋谷の駅前の賑やかさとは一線を画す大人のエリア、富ヶ谷。「奥渋(おくしぶ)」とも呼ばれるここに2021年4月1日にオープンしたのが、1貫80円から寿司を楽しめる「すし光琳」だ。初台で人気の「すし宗達」の店主による3店舗目のお店である。

すし光琳 店内
店内はカウンター10席のみ。店主との距離が近い、町の寿司屋だ。

店主の新田真治さんは、寿司屋で修業したのち、和食店やふぐのお店などで経験を積んで独立。地元の人が気軽に何度も通い、客の顔や名前、好みまで覚えていながらも「今日は何にします?」とその日の気分で客の好きな食べ方ができる寿司屋を信条としている。

なんといっても、1貫80円からだ。取材した日、一番高いものでも1貫780円なのだから、高いものだけを絞り込んで食べるのでなければ、2人で1万円前後で済んでしまう。

そのため「握り6貫+細巻き」「握り8貫+細巻き」「握り12貫」といったセットメニューは用意しているが、多くの人が自由に好きな寿司を選んで食べていくという。

寿司のセオリーなんて気にせず「好きに食べてください」

すし光琳 ネタ
まぐろは豊洲市場の「やま幸」から仕入れている。

カウンターに座り、お好みで寿司を注文できるとなると、ちょっとだけ気になるのが食べる順番ではないだろうか。しかし「やはり最初は刺身をつまんで、白身の握りから。徐々に脂や味を濃くしていくのが……」なんて考えは無用だ。

お腹が空いているなら最初から寿司を頼んでいい。巻物や、後半で食べるほうがいいと言われる脂ののった光りもの、味の濃い穴子などのツメがかかったもの、それこそまぐろの中トロ、大トロから攻めてもいい。「外で体を動かしてきたら、最初はお腹を落ち着かせたいじゃないですか」と新田さんは笑う。

お言葉に甘えて早速、ネタの順番を気にせずに寿司を頼んだ。

シャリとネタのバランスもよい。寿司本来の、一口で楽しめるサイズだ。

この日のおすすめの光りものは岸和田の金太郎いわし。小型のマイワシで身は厚すぎず、柔らかな食感だ。5月末というイワシの旬の走りだが脂も十分のっていて、店で3日ほど寝かすことで柔らかくなり、味が馴染んでいる。これから夏に向けてさらに脂がのってくるという。

かために炊かれた赤酢のシャリとの相性も抜群。空気を多く含ませた握り方をしているので、口の中でほろりと米がほどけ、イワシの脂と絶妙な掛け合いとなっている。