いざ、新子デビュー!

松寿司の新子の握り 撮影:三吉史高

初夏の寿司ネタとして外せないのが「新子」だ。この時期になると食べログの寿司投稿でも美しい新子の握りが数多く投稿されるが、高級なネタだけに、提供する店も限られている。「聞いたことはあるけれど、実は食べたことがない」「今年こそ新子を食べてみたい」、そんな新子ビギナーに向け、食べ歩きのプロに新子デビューにふさわしいお店を教わった。これを読んで、この夏は新子にチャレンジしてみては。

教えてくれる人


柏原光太郎
日本ガストロノミー協会会長。大学卒業後、出版社に勤務し、グルメ本を手がけたことで食の奥深さに目覚める。料理は作ることも食べることも大好きで、中学生の娘の毎日の弁当と朝ごはん、週末の家ごはんを作っている。料理好きのための食の発信基地としての役割を担うべく2017年12月社団法人「日本ガストロノミー協会」を設立。

ところで、新子って何ですか?

鮨 はしもとの新子の握り 出典:ingridbさん

新子とは、成長するにつれて名前が変わる、いわゆる「出世魚」の一種で、コノシロという魚の稚魚。コノシロと聞いてもピンとこないかもしれないが、コハダであれば食べたこと・聞いたことがあるのでは。新子→コハダ→ナカズミ→コノシロと名前を変え、生後4ヶ月くらい、体長は10cm以下(だいたい4〜7cmくらい)のものを新子という。

松寿司のコハダの握り 出典:gunmadontistさん

とても小さいので、捌くのにも技術がいるし、1尾ではネタにならないためサイズによって2尾から、多いところでは8尾くらいを一貫に使用する。新子のシーズンになると、寿司好きの間では「どこそこは新子何枚づけだった」なんて会話もよく聞かれる。大抵の食べ物が通年食べられる現代においては、ごく短い期間しか食べることができないという限定感も、貴重さを増すのかもしれない。

 

柏原さんによると、新子は「初夏をつれてくる江戸前寿司の風物詩。といっても江戸前でとれるものはほとんどなくなっているが」とのことで、やはり季節を感じることに重点を置いている模様。また、好みの食べ方をうかがうと「いまはおまかせがほとんどだが、個人的には白身のあとくらいに食べるのが好き。〆方にも好みがあるが、私は比較的きっちりと〆たほうが好き」と教えてくれた。それでは早速、柏原さんおすすめ、新子デビュー向けの良店を紹介しよう。

 

※新子は季節限定のため、入荷状況はお店に都度確認を。

柏原さん推薦! 新子ビギナー向け4店

1. 松寿司┃谷中

戦前から続く寿司屋を三代目の大将が継ぎ、江戸前の技術を継承しつつ、軽やかな寿司を握る。夜のコースは6,500円という安さなので、おまかせ一本だが、新子の季節はかなりの頻度で登場。絶妙なトークを聞きながら食べるのが楽しい。

 

昼(にぎり10貫、巻物):​4,500円(税抜)
夜(おつまみ・にぎり):6,500円(税抜)

新子の握り 出典:鰻正太郎さん
三代目の大将 出典:みゅうささん
外観 出典:*beans*さん

2. 鮨 みず乃┃白金台

日本橋「吉野鮨本店」で修業をした大将は、しっかりと〆たコハダが自慢。酢と塩が効いていて、いかにも江戸前の寿司を食べたという満足感を味わえる。

 

お昼のおまかせ握り:4,166円(税抜)
大将のおまかせコース:11,574円(税抜)

新子の握り 出典:shimp75さん
自慢のコハダ 写真:お店から
店内 写真:お店から

3. 赤坂 和寿┃赤坂

新橋「とりで寿司」で修業をしてきた大将は、江戸前の仕事をきちんと継承している。予算は飲んでも2万円程度だが、新子にはこだわりがあり、早い時期から出してくる。夜遅くまで営業しているので、二軒目にふらりというのも大丈夫。

新子の握り 出典:柏原光太郎さん
コハダの握り 出典:すっちゃらさん

4. 鮨まつ┃西麻布

西麻布と聞けばいくら持っていけばいいのかと思ってしまうが、ここはリーズナブルに楽しめる。それでいて大将は浜松町「宮葉」という、知る人ぞ知る老舗で学んできたから、魚の扱い方もよく知っている。新子は比較的小さなものが大将の好み。

外観 出典:urauratakanoriさん

食べログで「新子」が人気の3店

さらに新子を探求したくなった方のために、食べログで新子に関する口コミが多い3店も紹介しよう。人気店ばかりなので今シーズン中の予約は難易度が高いかもしれないが、いつかは挑戦してみて欲しい。

5. 日本橋蛎殻町 すぎた┃水天宮前

寿司のクオリティはもちろんのこと、大将の人柄の良さから熱心なファンが通い詰める。コハダのおいしさには定評があり、光物の扱いに長けている。新子は小ぶりなものより、ある程度脂ののったものを4枚くらいでつける。

新子の握り 出典:bottanさん

6. 鮨 はしもと┃新富町

「日本橋蛎殻町 すぎた」から独立した若き大将の握りは、赤酢ブレンドでやや固めのしゃりが特徴。すぎた仕込みの丁寧な仕事でコハダ、新子もお手の物。30代の若き寿司職人の独立店が元気のいい昨今において、トップランナーとも言える人気店だ。

新子の握り 出典:東京ホルモンズさん

7. 第三春美鮨┃新橋

「新橋のレジェンド」と称される、77歳の寿司職人の握る寿司を求め、日本中からはもちろん、海外からも多くのグルメ客が訪れる。お昼は特上鮨(握り7貫・巻物1本)で5,400円(税込)から、夜はお任せコースのみで25,000円前後。

新子の握り 出典:茜霧島さん

 

文:柏原光太郎・食べログマガジン編集部