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旧銀行の金庫室で、カカオが主役のフルコースを堪能する
神奈川県・鎌倉駅から徒歩1分の立地に、旧東日本銀行鎌倉支店の建物をリノベーションした新しいチョコレート文化を提案する店「CHOCOLATE BANK」がある。その一角に今なお残る金庫室が、ガストロノミー「ROBB」の舞台だ。
一日一組限定。サラダからメインディッシュまで、カカオ尽くしの全6品
提供するのは、カカオが主役のフルコースのみ。一日一組限定で営業しているため予約は必須だ。運営するのは、コロンビアの自社農園で育てたカカオ豆を使った、フレッシュなチョコレートの販売を行うMAISON CACAO。同社の生ガトーショコラは、天皇陛下の「即位の礼」にて参列した各国元首への手土産に選ばれている。
すべての料理にカカオを使っていると聞くと、単調になってしまうのではと思うが、実に多様性に富んだ品々を味わえる。どのような料理が登場するか、その一端を紹介していこう。
店について、まず目に飛び込むのは、銀行の名残である金庫室の扉だ。当然のことだが、扉を開けようとすると非常に重い。重厚な扉の先に“侵入”する、非日常感が大人の好奇心を刺激する。
ちなみに、店名「ROBB」は、“Bank robber(バンクローバー)”= 銀行強盗に由来する。どんなカカオの秘密を盗めるか、楽しみになる。
席には、テイスティング用のカカオが置かれている。
左から生のカカオ豆、カカオニブ(ローストしたカカオ豆を粉砕し殻を取り除いたもの)、カカオハスク(カカオ豆の殻)、カカオパウダー(カカオニブをすり潰し、油脂分と分離させたもの)、カカオバター(分離させた油脂分)、そしてチョコレート。グラスに注がれているのは、カカオの果実部分で作ったカカオビネガーだ。
最近はスーパーフードとしてカカオニブに注目が集まり、料理やデザートに使われているが、カカオハスク、カカオバター、カカオビネガーも調味料として使うことで新しい表情を見せてくれる。まずはそれぞれの味を知ることで、どのように料理に昇華されるのかを、より深く実感できるというわけだ。
鎌倉野菜にカカオニブのチュイールを添えた、フルーティなサラダ
「鎌倉野菜のサラダ カカオビネガーのドレッシングで」は彩り豊かな一品。この日の野菜は、ビーツ、黄ニンジン、紅芯大根、紫大根、紅くるり大根。ミネラルの豊富な土壌で育った鎌倉の根菜は、力強い味わいが特徴。カカオニブをキャラメリゼしたチュイールが添えられている。
根菜のみずみずしい歯ごたえと、カカオニブの香りとザクザクした食感が楽しい。カカオビネガーのドレッシングは思いのほかフルーティで、カカオは南国の果物だという事実を思い起こさせてくれる。カカオニブのほのかな苦味も、絶妙なアクセントだ。
米ナスのポテンシャルを高める、カカオバターとハスクの力
鎌倉産の肉厚な米ナスをステーキのようにいただく、メインディッシュの「鎌倉産 米ナスのフムス添え」。カカオバターで素揚げ状態にしたナスに、カカオハスク、カカオニブをトッピングし、さらにカカオビネガーソースをかけている。まさにカカオ尽くしの一品だ。ここに、フムス(ひよこ豆のペースト)を添えることで、エスニックな仕上がりにしている。
カカオバターの香りとコクをたっぷりふくんだ米ナスが、口のなかでとろける食感がたまらない。またカカオハスクは油分と合わさることで、出汁のような役割をするそう。動物性食品を使っていないのに味わい深いのは、カカオハスクの力が大きい。
もっと食べたい人は、ピティヴィエを追加できる
基本のコースは、スープ、サラダ、メインディッシュ、ラビオリ、グラニテ、デザートの全6品。肉や魚は使わないヘルシーな内容になっている。そこで、もっと料理を楽しみたい人は、ラビオリのあとに肉料理「ピティヴィエ」を追加できる。
「ピティヴィエ」は、厚くスライスしたフォアグラと鴨肉を、豚肉と鶏肉のミンチで覆い、パイ生地に包んで焼き上げた料理。チョコレート、バルサミコ、ポートワインを合わせたソースを添えている。
やわらかくジューシーな肉のうまみ、パイ生地のサクサクとした食感、そしてカカオが香る濃厚なソースの組み合わせがたまらない。リッチな食べごたえで、男性でも満足できる。
究極の「フォンダンショコラ」は、必食のデザート
〆のデザートは2種類から選ぶことができる。開店からずっと変わらない定番商品が「フォンダンショコラ」。この日のもうひとつのデザートは「ライムのムース」だ。
「フォンダンショコラ」は表面がかたまる限界ギリギリに焼き上げており、熱々の状態で食べるのが醍醐味。「ライムのムース」は、国産ライムのムース&ジュレをホワイトチョコレートでコーティングしたもので、ライムを模したかたちに仕上げたフォトジェニックな一品だ。
この日は迷った末に、「フォンダンショコラ」をチョイスした。ナイフを入れると、熱々のショコラがとろけだしてくる。上質なビターチョコレートの豊かな風味、そしてなめらかな舌ざわりが絶品だ。まわりに散らされているのは、なんと山椒。さわやかな香りが、ビターな味わいをさらに引き立てている。カカオを知り尽くす「ROBB」だからこそ実現できる逸品である。
ペアリングは、アルコールとノンアルコールの2種を用意
「ROBB」のペアリングも、コース料理と同様にひと捻りあるところが楽しい。
「鎌倉野菜のサラダ カカオビネガーのドレッシングで」に、カリフォルニアの爽やかな白ワインを合わせるのはバランス的にわかりやすいが、「ピティヴィエ」に極甘口のシェリー酒、「フォンダンショコラ」に自然派の赤ワインという組み合わせは、少し意外に感じるのではないだろうか。
それだけではない。料理に合わせて、ポートワインとほうじ茶とカシスを合わせたカクテルや、クラフトジンを使ったハイボールなども提供される。どんなマッチングが楽しめるかは、ぜひ店を訪れて確認してほしい。
ノンアルコールのペアリングが用意されているのもうれしい点だ。
カカオビネガーを炭酸で割った「カカオソーダ」に、カカオニブとカカオハスクをブレンドした「カカオティー」なども楽しめる。ちなみに、「フォンダンショコラ」に合わせるのは「ほうじ茶」。あえてコーヒーではなく、落ち着いた香りのお茶を合わせることで、ビターチョコレートの芳醇さを引き立てる寸法だ。
チョコレートは、カカオの加工方法のひとつでしかない
MAISON CACAOの広報・石原なつみさんは、「チョコレートは、カカオの加工方法のひとつにしか過ぎない」と語る。
「MAISON CACAOはチョコレートを作ろうと設立されたわけではなく、代表の石原紳伍が旅をするなかで、コロンビアのカカオ農園の風景に魅せられたことから始まります。現地でカカオは主にドリンクとして楽しまれていますし、歴史を振り返ればコショウの代わりに調味料としても使われてきました。王道のチョコレートをお客さまに提供する一方で、カカオの新たな可能性を特別な体験として感じていただきたくて『ROBB』を立ち上げました」
実は同店には、代表の石原さんが世界を旅するなかで出会った、著名なシェフも訪れている。アメリカからやってきた星付きレストランのシェフは、「鎌倉産 米ナスのフムス添え」を食べて、「イタリア人の父が持っていた500年前のレシピブックにも、ナスとカカオの料理が載っていたのを思い出した」と驚いていたという。
新しくも、懐かしい。そんなカカオ料理を体験しに、鎌倉まで足を運んではいかがだろう。
※価格はすべて税抜