お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第23回は、猫井先生が思わず“蔵前スイーツロード”と命名したくなるほど注目しているという、東京・蔵前周辺のスイーツスポットを紹介します。浅草橋〜蔵前方面を巡った前編に続き、後編では蔵前〜田原町方面のお店をチェック!

【猫井登のスイーツ探訪23・後編】〜蔵前スイーツロードのおいしい店(蔵前〜田原町)〜

 

食べログマガジン編集部

手作りの革のバッグのお店とか、職人系のお店が多い地域のようですね。

 

猫井先生

この辺りは、昔はおもちゃの問屋さんが多く集まる街でしたが、最近では職人さんが経営するクラフトショップやお洒落なカフェが増えていて、“東京のブルックリン”なんて呼ばれたりしています。レトロモダンというか、街全体が独特の雰囲気を持っていて、多くの若者を惹きつけていますね。そんな地域の印象を象徴するようなチョコレート専門店から後編はスタートしましょう!

【4軒め】「ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&カフェ蔵前

 

食べログマガジン編集部

広々としていて素敵な外観ですね。工房でしょうか?

 

猫井先生

簡単に言うと、2010年創業のサンフランシスコ発祥のBean to Barのチョコレート店ということになりますが……興味深い成り立ちのお店でもあるんです。2人の男性が創業したのですが、面白いのは2人ともショコラティエではなくて、IT業界出身ということです。IT業界で成功を収めたのちにガレージに実験室を作り、機械を集めてチョコレート作りを始めたそうです。やがて彼らの作るチョコレートは評判となり、2013年にはサンフランシスコで工場を開くことになります。これがブランドの始まりですね。

 

食べログマガジン編集部

IT業界の人がチョコレート店を作ったんですか! 製法もロジカルな感じだったりするのでしょうか……!

 

猫井先生

こちらはシングルオリジンのカカオ豆からチョコレートを作る、世界でも数少ないお店のひとつで、とても誠実な仕事をされています。世界10カ国以上のカカオ農園から良質な豆を直接買い付けて、選別、ロースティング(焙煎)、 テンパリング(温度調整)、成型、ラッピングまですべての工程を自分たちの工場で行っています。1階と2階にあるカフェスペースでは、チョコレートを使ったお菓子や飲み物を楽しむことができますよ。

 

食べログマガジン編集部

チョコレート専門店ならではといったメニューが揃っていますね! おすすめのメニューはありますか?

写真左手前から時計回りに、「スモア 」450円、「カプチーノ」480円、「ブラウニーバイトフライト」630円、「ミッションホットチョコレート」580円
 

猫井先生

そうですね。お菓子は「ブラウニーバイトフライト」「スモア」がおすすめです。

 

食べログマガジン編集部

なんだか想像力を掻き立てるメニュー名でワクワクしますね! それぞれどんな味なんですか?

毎日外食グルメ豚さん
「スモア 」   出典:毎日外食グルメ豚さんさん
 

猫井先生

「ブラウニーバイトライト」は、インド、グアテマラ、ベリーズと産地の異なるシングルオリジンチョコレートを使ったブラウニー3種です。濃厚な味わいで、それぞれのカカオの違いを楽しめるスイーツですね。「スモア」は、土台がグラハムクラッカー、周りはマシュマロを焼いたもので、真ん中にチョコレートクリームが入っています。こちらも結構濃厚で、甘さしっかりです。

 

食べログマガジン編集部

涼しくなってくると濃厚なチョコレートが恋しくなってきますし、秋冬にぴったりのお菓子ですね。飲み物はどうでしょうか?

 

猫井先生

生姜がかなり利いた「ミッションホットチョコレート」がおいしいですよ。量もたっぷりで、寒い季節に飲んだら体がポカポカになりそうです。

※価格はすべて税抜

 

猫井先生

素敵な店構えのお店がもう一軒ありますので、行ってみましょう。

【5軒め】「菓子屋 シノノメ

 

食べログマガジン編集部

レトロモダンという言葉がぴったり合う雰囲気のお店ですね!

 

猫井先生

こちらは台湾ご出身の毛 宣恵(マオ シュエンホェイ)さんのお店です。元々、写真の勉強をされていたようで、内装のセンスも素晴らしいですよね! 個人的には、都内でもフォトジェニックなスイーツ店のベスト3に入るのではないかと思っています。

 

食べログマガジン編集部

本当に内装もお洒落。台湾旅行気分を味わえますね!

 

猫井先生

以前浅草にあった「from afar倉庫01」というお店のお菓子工房で週末だけ焼き菓子屋さんとして営業されていたのですが、だんだんとお菓子の種類も増えて大人気のお店となったわけです。こちらのお店の2階「喫茶 半月」、近くにある紅茶とお菓子のお店「茶室 小雨」、生活用品店「道具屋nobori」も系列店です。

 

食べログマガジン編集部

ほかのお店もきっとセンスの良い感じなんでしょうね〜。こちらのお店にはいろんな焼き菓子が並んでいて迷ってしまいそうです。

 

猫井先生

スコーン、クッキー、パウンドケーキなど様々な焼き菓子がありますが、まずは看板商品の「ウ ーロン茶のマドレーヌ」「マドレーヌ・メープル」を味わってほしいですね!

「ウーロン茶のマドレーヌ」250円
 

食べログマガジン編集部

ウーロン茶のマドレーヌって珍しいですね!

 

猫井先生

こちらのお店のスペシャリテです。上質なウーロン茶の豊かな香りに発酵バターのコクがよく合っていて、しっとりとした食感に仕上げられています。マドレーヌ・メープルも、卵と発酵バターの味わいが存分に味わえるように仕上げられています。

 

食べログマガジン編集部

甘さもそんなに強くないので、ペロリと食べられる感じがします。

「マドレーヌ・メープル」220円
 

猫井先生

こちらのお菓子全般に言えることですが、いずれも甘さが控え目に作られています。使用している砂糖の量が、一般的なレシピの80%ぐらいでしょうか。その分素材本来の味わいが感じられ、食べ飽きることがありませんね。

※価格はすべて税込

 

猫井先生

さて、最後はゴーフレットがおいしいお店で締めましょう!

【6軒め】「パティスリー フォブス

 

食べログマガジン編集部

ゴーフレットってあの丸くてパリッとした食感の、クリームが挟んであるお菓子ですか?

「ゴーフレット」1枚/410円
 

猫井先生

おそらく想像されているお菓子は日本版ゴーフレットといったもので、こちらのお店で販売されているのはフランス・リール地方のワッフルです。フランスではワッフルのことをゴーフルと言うんですよ。

 

食べログマガジン編集部

ワッフル=ベルギーのイメージがあるのですが、フランス生まれのワッフルもあるんですね。

 

猫井先生

たしかにそうですね。四角くてパリッとした食感の「ブリュッセル風ワッフル」、あられ糖が入ったしっとり系の「リエージュ風ワッフル」など、いずれも日本でよく知られているのはベルギーのものが多いですからね。でも、ワッフルってベルギーだけのものではなく、オランダやフランスにもそれぞれ独自のワッフルがあるわけです。

 

食べログマガジン編集部

それは知りませんでした! こちらのお店のワッフルには、どんな特徴があるんですか?

 

猫井先生

シェフがリール地方で出会ったワッフルを独自に研究されたもので、ブリオッシュ生地を薄く焼いたものにバニラビーンズたっぷりのバタークリームを挟んだものです。しっとり、もっちりとした生地に、シャリシャリした砂糖の食感が印象的な、濃厚なバタークリームがよく合っています。

 

食べログマガジン編集部

なんだか本場の空気をひしひしと感じます……!

 

猫井先生

フランスのリールには「Meert(メール)」というゴーフルの名店があるのですが、こちらの商品を彷彿とさせる本物の味わいです。ちなみに、ゴーフレットの材料もそうですが、お菓子の基本材料は「小麦粉(Farine)」「卵(Oeuf)」「バター(Beurre)」「砂糖(Sucre)」の4つなので、そこから店名をFOBSにされたそうですよ。

 

食べログマガジン編集部

こちらに来たらゴーフレットはマストでオーダーするとして……ショーケースのケーキもすごく気になります!

 

猫井先生

こちらのお菓子はケーキも含めて特徴的で、それぞれのお菓子のテーマが明確なんです。複雑すぎて何を食べているのか分からなくなってしまうケーキも多い中、こちらのお店の商品は何のお菓子を食べているかが非常に分かりやすいんですよね。例えば「スワサント」ならば、「あっ、バナナとコーヒーのケーキなんだ」って分かる。もちろん、ほかにも色々な素材が入れられているし、さまざまな工夫がなされていますけど、最後はきっちりとシンプルにまとめ上げられているというか。

「スワサント」604円
 

食べログマガジン編集部

なかなか奥深いですね。ほかにもこちらのお店の味がよく分かるケーキといえばどんなものがありますか?

「ミルフィーユ」653円
 

猫井先生

個人的には、こちらの「ミルフィーユ」が好きですね。生地の焼き方、切り方、組み立て方、どれも、すごいなと思います。クリームも主張しすぎず、生地を引き立てています。都内でも屈指のミルフィーユだと思います。

※価格はすべて税込

 

食べログマガジン編集部

それにしても、猫井先生が“蔵前スイーツロード”と勝手に名付けたくなるだけあって、名店揃いでしたね!

 

猫井先生

実は、この界隈にはまだまだご紹介したいお店がありますので、またいつか第2弾をやりたいと思います!

※時節柄、メニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は、感染症対策の実施と人混みの多い場所は避けるなど、十分にご留意ください。

※本記事は取材日(2020年3月末)時点の情報を元に作成しています。

撮影・文:猫井登