〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドの増加や食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

ブレず流されず、いいものだけを提供する
イタリア郷土料理の店

自然派ワイン(ヴァンナチュール)がひとつのジャンルとして確立しつつある昨今。「何だかいいらしい」と気になりつつも、実はよく知らない人も多いかもしれない。そんな人も安心して通えるのが「LUCE」だ。オーナーの岩崎慶人さん、シェフの西村崇光さんはともに、一時の流行ではない自然派ワインの魅力に精通している、無類の自然派ワイン好きなのだ。

イタリア語で「光」という意味の店名「LUCE」のネオンが目印。オシャレ感度の高い店をさりげなく演出する、窓のペインティングは有名アーティストのMHAK氏によるもの。
「飲むとこれまでのワイン観が一変する」「衝撃的」という自然派ワイン。「LUCE」で噂の真相を確かめてみてはいかがだろうか。

自然派ワインは、昔ながらの製法で化学的なものを必要最小限に抑えて造られているため、ぶどうの品種による個性や果実のおいしさ、自然発酵による予測できない複雑味があって非常に“おもしろい”のだという。そのおもしろさを言葉で表すとしたら、“画一的なワインとは違うクラフト感”だ。
同店では一本一本厳選した自然派ワインを、ボトルで常時100種類ほど置いている。イタリア産が7割。残りの3割は、オーナーが専門としているフランス産とスペイン産だ。いいものがあれば、日本の自然派ワインも扱う。オーナー曰く「こだわって“いいもの”、“おもしろいもの”を提供したい」からこその自然派ワインなのだ。

イタリア産のワインはシェフの西村さんが厳選したもの。各地の郷土料理と、同じ地域で造られたワインを合わせて提案することもある。

一方で、イタリアの自然派ワインは西村シェフが選んでいる。シェフが得意とする昔から地元で親しまれてきた郷土料理と、昔ながらの製法で造るワインは相性が良く、そのペアリングを紹介するのは西村シェフが最適だからだ。

この日、シェフから“おもしろい自然派ワイン”として教えてもらったのは、アルベルト・アングイッソラという生産者が造る「CASÉBIANCO(カゼビアンコ)」。果実味溢れ、華やかな香りと美しい色が特徴的で、自然派ワインの魅力をストレートに感じやすい。白ワインの仲間ながら、醸した濃いめの味わいを持つオレンジワインなので、肉料理にも負けない。

素朴な料理を、素朴な調理法で食べてもらえるように

西村シェフの料理は、素材の持ち味を生かした飾らないスタイルだ。その時期に一番おいしい食材に手を加えすぎず、素材の良さを味わえる調理をする。

メニューは仕入れによって変わるため、壁に掲げられた手書きのみ。来るたびに「今日は何があるかな?」と選ぶ楽しさがある。

お通しのひと皿にもこだわりがうかがえる。季節感を重視した全5品のお通しは、写真右上から時計回りにオレンジが入った「にんじんサラダ」、温かい「菜の花のスープ」、ほろ苦い「ごぼうのカラメリゼ」、シチリアの伝統料理がベースの「ナスのカポナータ」、ハーブの香り高い「エリンギのマリネ」が並ぶ。そのどれもが、自然派ワインに合うように味のバランスが考えられている。

シェフの丁寧な手仕事でイチから作られたお通し。季節によって内容は変わる。

余計な味つけは加えず、素材の味をしっかり感じる西村シェフの料理を象徴しているのが、さわやかな緑色をした菜の花のスープだ。ふわりと早春の息吹を運んでくるような味わいで、菜の花特有のほろ苦さがある中に玉ねぎの甘みと、じゃがいものとろみが加わり、なめらかな舌ざわりが優しい。
これだけで前菜の盛り合わせのようなひと皿のため、お通しをつまみながらワインを飲む客が多いというのもうなずける。

火入れが全て! ムール貝はここまでジューシーだった

お通しを楽しんでいる間に、「国産フレッシュムール貝の白ワイン蒸し」の調理が始まった。オープンキッチンから漂ってくる香りでお腹が鳴る。

蒸し時間は1分弱。わずかな時間で食感が変わってしまうムール貝と向き合って、「今」というタイミングを見極めている。

このメニュー、冷凍のムール貝を使用する店は多いが、同店は国産のフレッシュなムール貝を使っている。刻んだセロリと一緒に、にんにくで香りを出したオイルとなじませ、白ワインを投入し蓋をしてからが勝負だ。ムール貝は火を通しすぎると身が小さく硬くなってしまう。特に、フレッシュのムール貝はその傾向が強い。それを踏まえ、生で仕入れたムール貝の素材の良さが引き立つよう、あえて“レア感”を残した状態に仕上げる。ポイントは1つでも貝の口が開いたら即、火から下ろすこと。あとは余熱で全ての貝が開くのを待つ。

冷凍ものでは絶対に得られない、プルッとジューシーな食感。

蒸すことでムール貝のコクとうまみは凝縮されているが、食感はプルッとみずみずしく弾力がある。食べ始めたら止まらないおいしさだ。シンプルながら素材がしっかり主張していて、ガーリックと磯の香りが最後にふわりと鼻に抜ける感覚も堪らない。
やがてお皿の底に、貝を蒸してできたスープが現れる。ムール貝がもたらす最高のごちそうを残さずいただくために、ぜひ自家製パンを注文してほしい。パンに浸したスープを堪能しつつ、最後の最後までムール貝の余韻を楽しめる。

豊かな香りを食す「タヤリン・黒トリュフとバターのソース」

「LUCE」に来たらとにかく一度味わってほしいのが「タヤリン・黒トリュフとバターのソース」。バターソースがまろやかに絡んだ麺を器に盛り、その上に「シュッシュッ」と小気味よい音を立てながら黒トリュフが削られる。立ち上る湯気の中に豊かな香りを感じながら頬張れば、これが「トリュフの芳香を楽しむためのパスタ」だと実感するだろう。

「高級食材だからと肩肘張らず、カジュアルにいつでも楽しんでほしい」というこのメニューを、すでに6回リピートした方もいるとか!

「タヤリン」とはトリュフの産地・イタリア北部ピエモンテ州の言葉で、「細切り」という意味を持つパスタのこと。古くからあるパスタで、昔ながらのレシピを参考に、シェフが店内で手打ちしている。本場のソースは、茹でたタヤリンにバターを絡めるだけというが、同店では日本人の口に合うようにバターと、イタリア料理ではポピュラーなグラナパダーノチーズで仕上げている。

「タヤリン・黒トリュフとバターのソース」には自然派ワイン「cibreo(チブレオ)」(ボトル5,200円/グラス900円)を合わせて。カルロ・タンガネッリという生産者ができるだけ手を加えずに造っている。

 

この日は、「タヤリン・黒トリュフとバターのソース」のためにトスカーナ地方の自然派ワイン「cibreo(チブレオ)」を合わせてもらった。味わいは重すぎることなく、ぶどうの果実味もほどよく感じられる、優れたバランスの赤ワイン。何よりトリュフの香りをぐっと引き立ててくれた。ワインが日替わりのリストに載っている日はグラスでのオーダーも可能。ぜひ試して欲しい。

日替わりグラスワインは700円からと、リーズナブルに楽しめる。料理のオーダーと一緒にシェフに相談すれば、いろいろな提案をしてくれる。

同店では、個性豊かな自然派ワインを手軽に楽しんでもらうために、グラスワインを日替わりで10種ほど用意している。10種といっても、ボトルが空けば新たに別のものを開けるため、実際にはそれぞれ魅力の異なる10種類以上のワインが常時提供されているそうだ。

すべての空間を楽しんで「明日も頑張ろう」と思ってほしい

店内には、ゆったりと奥行きのあるローカウンターとテーブル席がある。木のぬくもり溢れる温かな雰囲気で、思わず長居したくなる居心地の良さだ。同店の空間コーディネートにはアパレル出身のオーナーの審美眼が生きている。

アパレルの世界で磨かれたオーナーのセンスが、この店の隅々まで行き渡っている。

「いつ誰と訪れても、もちろん1人でも気持ちのいい時間を過ごして“明日も頑張るぞ!”と帰ってもらいたい」と言う岩崎さん。だからインテリアや、店内でかける音楽にもこだわって、客の温度感を尊重する接客を心がけている。

そんな「LUCE」は夜遅くまで仕事をしていても“軽く1杯”や“おいしいもの”が楽しめるよう、温かな「光」を灯して午前3時まで営業している。明日への英気を養うために、訪れてみたい店だ。

 

【本日のお会計】
■食事
・お通し 500円
・国産フレッシュムール貝の白ワイン蒸し 1,300円
・自家製パン 150円
・タヤリン・黒トリュフとバターのソース 2,200円
 

■ドリンク
・cibleo(グラス) 900円
合計5,050円

 

取材・文:岸田梓(grooo)
撮影:玉川博之