閑静な住宅地、幡ヶ谷の西原商店街に2019年9月にオープンした、テイクアウト専門の洋菓子店「Equal」。人気店「PATH」でパティシエを務める後藤裕一シェフが手がける洋菓子屋さんだ。看板メニューを目指して朝のお店のオープンとともに行列ができ、客が引きも切らず詰めかける。この人気の秘密を探ってみたい。

好感度ありのショップが集まる、幡ヶ谷の西原エリアに誕生した洋菓子店「Equal

ショップ前には朝一から地元や遠方から多くのファンが並ぶという。営業日はインスタをチェック。

後藤氏がパティシエを務めるビストロ「PATH」のある代々木公園からほど近く、コーヒー専門店や、洒落たビストロが集まる幡ヶ谷。その道のプロが集まるこのエリアで「生菓子のテイクアウト」に特化してオープンしたのが「Equal」だ。幡ヶ谷は都心にありながらお年寄りや子どもも多い街。後藤氏がこの土地の人たちに親しんでもらうために意識したのは、「あえて奇をてらわない」点であったという。

コンパクトなシューの中にクリームぎっしり、満足度満点のシュークリーム

カスタードクリームの甘みとシュー皮の塩気のバランスが秀逸な「シュークリーム」280円。お店の顔として通年展開。

看板商品のひとつは、やや小ぶりなサイズの「シュークリーム」。クリームは昔ながらのクリーミーでしっかりしたカスタードだ。しかし、クリームの火入れを短くして軽くしているという話通り、食べると透明感を感じる軽やかな味わいながらもミルキーで甘すぎない。シュー皮の中にクリームがしっかり詰まっており、皮の塩気はクリームの甘さと合うよう繊細に計算されている。ビッグサイズや2層クリームといった、今どきのシュークリームではないが、余計なものをそぎ落とした、シンプルで懐かしいシュークリームだ。

レアのようなスムースな口当たりと、こっくり、でもさわやかな風味のチーズケーキ

レアチーズかと思うほどなめらかでクリーミーな食感の「チーズケーキ」550円。シュークリームと並んで通年展開の定番商品だ。

もうひとつの看板メニューが、「チーズケーキ」だ。実はこのケーキ、レアチーズケーキに見えるが生ではなく、あくまで火を通したベイクドチーズケーキ。「PATH」で絶賛されたケーキをテイクアウト向けにアレンジしたものだ。

一般的なチーズケーキと見た目からして異なるが、食感のなめらかさをキープさせつつも、形が崩れないように試作を重ねた結果、この形に落ち着いたという。サクッとした塩気の効いたタルト生地が何層にも薄く重ねられ、甘さと酸味のバランスがとれたチーズフィリングとの食感の違いを引き立てている。口に運ぶと、キメの細かい生地からチーズの濃厚なコクが口いっぱいに広がる。お菓子としての存在感があるが、お酒やワインにも合いそう。大人も子どもも楽しめるチーズケーキだ。

クリームやスポンジ、特製ジャムが懐かしい、いちごのショートケーキ

メレンゲをデコレーションに使った「いちごのショートケーキ」600円。季節によって使用するフルーツのアレンジを検討中。

「Equal」では、基本的にシュークリームとチーズケーキを定番商品として販売している。しばらくの間は、そこに季節限定のケーキが追加されていく形をとっていくという。いちごのおいしいこの季節。2月からはショートケーキが登場した。ベースは昨年末に販売したクリスマスケーキと同じで、スポンジはシフォンケーキにも似たふわふわの食感。スポンジの間には、粒々がしっかり見えるほどたっぷりのバニラビーンズ入りのクリームが入っている。一方、デコレーションには牛乳の風味を生かしたミルク感のあるクリームを使用。一口食べると、トッピングされたメレンゲがスポンジやクリームとホロリと混ざり合い、ふんわり軽い口当たりのクリームと一緒に口の中で溶け合う。そして、スポンジに薄くはさまれた自家製いちごジャムが、新しさとともにどこか懐かしさを感じさせるケーキとなっている。

ノスタルジックで多彩な国の文化がミックスされた「Equal」の内装

コンパクトな店内で流れるアナログレコードの音楽に包まれ、心なごむテイクアウトのひととき。

新しいのに懐かしい同店のケーキ同様に、店のつくりもノスタルジックでありながらも今らしいセンスに溢れている。イギリスのウィリアム・モリスの壁紙や、イタリアから取り寄せた床のタイル、オランダ製の什器など、内装ひとつひとつにこだわりが詰まっている。このミックススタイルは、いかにも「フランス菓子」といったパティスリーではなく、日本発の洋菓子屋さんの世界観を大切にしたいとの考えからだ。「この雰囲気もテイクアウトの際に一緒に持ち帰ってもらえたら」と後藤氏は語る。店の床のタイルを模したオリジナルラベルや、店のロゴのスタンプを押した紙袋などにも、懐かしさや温かさが感じ取れる。

ひとつひとつ丁寧に並べられたお菓子を四方からぐるりと眺められる、特別注文のショーケース。

ジュエリーショップのショーケースをイメージさせる、小ぶりの楕円形のショーケース。子どもでも見やすい高さに配慮され、特注でしつらえたという。このケースの中に、焼き上げられたお菓子がかわいらしく並べられている。予約は受け付けておらず、一人当たりの購入の個数制限も設けていないとのこと。売切れを避けるならぜひとも早めの時間に足を運びたい。

フレンチの枠を超え、後藤シェフが「Equal」で表現したいイメージとは

パティシエとして活躍するだけでなく、フードロスやワークライフバランスなど飲食業界の抱える課題についても意識の高い後藤氏。

フレンチの名門「トロワグロ」にて、アジア人で初めてシェフパティシエを務めた後藤氏。2015年に「PATH」を開店、2019年2月「ESqUISSE」シェフ パティシエ就任(PATHオーナーパティシエ兼任)という輝かしい経歴を持つ。フレンチを究める氏だからこそ、年齢問わず誰でも親しみを感じることのできる「街の洋菓子屋さん」を目指したそう。後藤氏いわく、「イメージするのは、近所のおばあちゃんも子どもも食べられる『大福』のような、おやつ感覚で食べられるケーキなんです」。小ぶりなのに重量感のあるシュークリームが大福サイズなのは、こういった理由からなのである。

新メニュー開発にも独自のこだわりをもつ後藤シェフ

ソフトクリームの季節に向けて出番を待つマシン。

「Equal」には、きらびやかなデコレーションや、「映え」を狙った多品種のラインアップはない。定番のシュークリームとチーズケーキを中心に、ひとつひとつのお菓子を丁寧に紹介していきたいという。「老舗和菓子屋のように、定番の変わらぬ味を家族や親しい人と共有して楽しんでもらえたら」と後藤氏。新たなアイテム展開については、慌てずじっくり時間をかけて調整して出していきたいという。

なお、店の奥にはソフトクリームマシーンが控えている。今年の夏に稼働を目指しているとのことだが、ベースから全て自分で作るため、夏に向けてじっくりとメニューを練っている最中だ。

今回紹介したショートケーキは数量限定のため、同店のインスタグラムでも紹介していない(2020年2月7日現在)。同店に行った人だけが知っているケーキだ。ソフトクリームもひっそりと販売が開始されるかもしれないので、定期的に通いながら楽しみに待ちたい。

「Equal」のコンセプト、「街の洋菓子屋さん」を思い思いのスタイルで楽しみたい

お年寄りから子どもまで気軽に楽しめる、看板メニュー、シュークリームとチーズケーキ。「シュークリーム3個入り」は箱代込で850円。

後藤氏の繊細な工程から生まれる、新しいのに懐かしいケーキたち。お散歩がてら歩道のベンチでパクッとおやつに食べるもよし。テイクアウトして家でゆったりと楽しむのもよし。家でこんなスイーツに合わせるならコーヒーもいいが、紅茶、それも、緑茶にも似ているさわやかな渋みのあるファーストフラッシュが合いそうだ。「街の洋菓子屋さん」の味を楽しみながら、次なるメニューの登場にも、ますます期待が膨らむところだ。

 

※価格はすべて税込

 

取材:岡崎たか子(grooo)

文:増山順子(grooo)

撮影:玉川博之