【噂の新店】「すし高橋宏輔」

アメリカ・カリフォルニアの寿司店で現地セレブたちから愛され、惜しまれつつ帰国した寿司職人、高橋宏輔さんの新天地は西麻布の隠れ家! 4つの異なるジャンルの店が曜日により営業するという新しいスタイルも話題の的です。

営業は土日月のみ! 6席のプラチナシートに予約殺到!

付け場に立つ高橋宏輔さん

食を愛する大人たちの間で何かと話題の西麻布「長谷川稔Lab.」。現在は1つの空間に4つの異なるジャンルの店が曜日替わりで営業するという、未だかつてないユニークなスタイルになりました。その中の一つがアメリカの寿司店で有名になり帰国した“逆輸入”寿司職人、高橋宏輔さんが腕を振るう「すし高橋宏輔」です。

思い入れのある包丁

高橋さんの料理人人生はアメリカ・カリフォルニアの寿司店から始まりました。「スーパーで偶然出会ったのが、欧米人セレブたちがひしめく寿司店の親方で、『うちで働かない?』と会うたびに誘われ、3度目で決断しました」と、こちらもとてもユニーク。初めて包丁を買い、野菜を切ることからスタート。通勤する車中ではラップに包んだ酢飯で握りの練習をし、先輩に教わった魚の切りつけは人気メニューの「刺身盛り合わせ」でひたすら実践。そんな努力の甲斐があり、なんと1年で握らせてもらえたそう。

運命の出会いで寿司職人の道へ

丁寧な仕事とトークのおもしろさで人気は鰻上り、高橋さんの前は常に指名客でいっぱいになりました。時が経ち、次は帰国して新天地で働こうとしていた矢先に事故にあい大怪我で料理人を断念という事態に。しかし諦めきれず5回の手術とリハビリを繰り返して復帰、長谷川稔グループに入社しました。会社で寿司店を開くことになり経験者ということで抜擢、「一心鮨 光洋」「鮨むらやま」で修業し、2024年10月に「すし高橋宏輔」が誕生しました。

メニューの裏には“命を絶つ前”を支える漁師の名前とプロフィールを記載

こちらで供するのは新感覚のつまみと握りで展開されるおまかせコース(25,300円)です。上質な食材を、伝統的な江戸前の技巧とフランス料理などで見られる真空低温調理の技巧や調理機材を使った独自の調理法で握りやつまみに仕立てます。本日は抜粋してご紹介しましょう。

定番のつまみも一味違う!

鮮度抜群のシコシコした食感

本日の突き出しは小田原であがった「黒ムツ」です。脂がのってコッテリした黒ムツにさっぱりとしたおろしポン酢は最強の組み合わせ。細かく刻んだ木の芽が香りの余韻を残します。

「煮蛸」

寿司のつまみの定番「煮蛸」は店の特徴が一番出る言わば看板メニュー。こちらは噛むごとにうまみを感じられるよう、やわらかすぎず程よい歯応えがあります。「マイナス60℃で冷凍し、一晩かけて解凍します。こうすると繊維が良い感じで断ち切られるので軽く潰してじっくりと火入れしてから蒸らし、そして冷やす。この3つがポイントです。でもやりすぎないことも大切」との話を聞くと、丁寧な仕込みと調理法があってこその食感だと納得します。

「蒸鮑」

「蒸し鮑は、はじめに薄切りしたものを舌の上に広げて味わっていただき、次に厚切りの方を召し上がって違いを感じていただければ」と、2通りの切り方で異なる食感を楽しませます。出色は肝ソース。予想していた馴染みのある味とは断然違う! きめ細かなコクがあるソースは垂涎します。

食欲を突き動かす味

あまりのおいしさに絶句していると目の前でのシャリ切りがはじまり「シャリ、入れましょう」。これはおいしいに決まっています。お代わりと言われることが多いので、ソースはできるだけ多めに作っているそう。肝ソース×酢飯は欠かせません!

個性あふれる鮪三連発に悶絶!

切り立てのシャリ

酢飯は何種類かをブレンドした米に、2種類の赤酢をベースに別に作ったブレンド酢を混ぜた酢を使っています。切り立てはまだ酢が米に浸透していないので酸味をしっかり感じさせますが、後味はほどよくマイルド。付け場で「切り立てのシャリ」を披露した後はいよいよ「握り」が始まります。

「中トロ柵漬」

江戸前の技法である柵漬けは名前の通り、柵の状態で湯引きしてから醤油漬けしますが、高橋さんは真空にして漬け込みます。中に煮切りの味がしみ込みすぎず鮪のうまみだけを堪能できる柵漬け、なかなか食べる機会がないのでぜひ味わいたい!

「大トロ」

「大トロ」は薄切りを3枚付けにし、切立ての酸味が効いた酢飯は多めにして握ります。脂と酸のハーモニーが口の中いっぱいに広がりリッチな味わいに。

「赤身漬」

醤油のいい香りが際立つ「赤身漬」。赤身の特徴である濃厚さが苦手という人もご安心あれ。鰹節と昆布で作る煮切り醤油が魚のにおいを打ち消してくれます。

西洋料理とのシェアキッチンで生まれた新発想の握り

「ホタテ100

100個の干し貝柱を使うから献立名に100乗を入れたという「ホタテ100」。干し貝柱を1日かけて水で戻し、6時間蒸して煮出してできる極ウマの出汁を吸わせた帆立はまさにうまみの塊。その帆立を手で細かくほぐして酢飯と一体化させた斬新な一貫!

「小肌」

海老のおぼろを挟んだ江戸前の「小肌」は酸味と甘みと塩味のバランスが完璧! 「これは4日間漬けました。真空して冷凍しているのですが、身がやわらかくしっとり感が増します」と高橋さん。

「牡丹えび」

牡丹えびは昆布とキッチンペーパーを交互に重ねて真空にして冷凍しておきます。解凍してから塩と酒をあて、指で繊維を壊した牡丹えびは甘みが増し、口溶けもいい。えびを丸ごと味わってもらいたいと、鍋いっぱいの頭と殻を酒と昆布で煮出してすりつぶした自家製のえび味噌を忍ばせているので、頬張ると甲殻類の香りが充満します。どんなえび好きをも黙らせてしまう味わい!

「出汁たっぷり太巻き」

握りのラストを飾るのはシグネチャーディッシュの「出汁たっぷり太巻き」です。玉子、高野豆腐、干瓢、椎茸、絹さや、鰻の6種類の具が入り、かなりボリューミーですが促されるまま一口でいただきます。じゅわ〜っと広がった出汁がすべての味を融合し喉を通ると、未だかつて経験したことのない複雑妙味にただ頷くばかり。

ワイルドハニーは常時4〜6種類ほどから選べる

ここでハチミツが目の前に置かれます。大阪能勢町「風気庵」のワイルドハニーは蜜が採れる4月から8月までの間、蜜源となる植物の近くにミツバチの箱を移して採蜜した混ぜ物なし、非加熱のハチミツです。4月の山桜、6月の栗など花によって味も香りも違うハチミツは「玉子」にかけます。

「玉子 ワイルドハニー」

「このハチミツのために作りました」という「玉子」は、パコジェット(凍ったままの食材をムースやピュレ状に粉砕できる調理器)で細かく撹拌した海老と山芋と混ぜ卵液を作り、甘味にはメープルシロップを使っています。甘みにはメープルシロップを使っています。火入れはスチームコンベクションとガスでムースのようなテクスチャーに仕上げます。全種類のハチミツで食べたくなる、新感覚の「玉子」にハマります。

ヒートランプで寿司ダネを温める

「この環境だからイタリアンやフレンチの技法を取り入れることができた」と、ここでは伝統をリスペクトした新しくてユニークでおいしい寿司が供されます。アメリカで鍛えられた高橋さんのトークも相まって6席のカウンターには笑顔があふれています。ここはぜひ行きつけにしたい一軒です。

※価格は税込。

文:高橋綾子
写真:松園多聞

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