ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第7回は、東京・新小岩にある「東京バンビ」のハンバーガーの魅力をたっぷり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第7回「東京バンビ」

2019年2月、総武線の快速停車駅・新小岩に、本格的なハンバーガー専門店がオープンしました。店の名は「東京バンビ」。変わった名前です。新小岩駅の南口、「新小岩ルミエール商店街」の一角にあります。

 

駅から4分。アーケード商店街を一本折れたところですが、軒づたいに濡れずに行くことができます。大きくガラスを張った正面の扉を開けると、中はL字のカウンターに10席。さらに2階に10人ほど座れる居心地のよい座敷があって、子供連れの主婦の間で大人気です。

新小岩ルミエール商店街

店主の富田さんは、足立区・北千住のご出身。埼玉・草加にあった「UNCHAIN FARM」とその姉妹店「UNCHAIN DINER」で7年働いて独立しました。キッチン経験のないままハンバーガー店で働きだした富田さん。それまで包丁を握ったことがほぼなくて、勤めた最初の一年はハンバーガーをまったく焼けずに過ごしました。「これはヤバイ!」と、居酒屋のアルバイトをさらに2軒掛け持ちして懸命に調理を覚えて、その甲斐あって晴れての独立です。

新小岩には無縁の富田さんでしたが、街の「口コミ」力がとにかくすごくて、店の噂が瞬く間に広がり、昼間は主婦層、夜は仕事帰りや出勤前の人たちでにぎわい、昼夜それぞれに早くもアツいファンがついています。そんな東京バンビのハンバーガーを早速見ていきましょう。

注目は、ハンバーガーのドレス(組み立て)をすべて鉄板の上で行っていること。「バンズをギリギリまで鉄板の上に置くことで、さっくりと焼き上げ、かつ、“冷まさないことが目的」と富田さん。そう、手に持ったときにバンズが温かくない店も多々ありますので。生野菜もマヨネーズもすべて鉄板上でバンズにのせていきます。だからバーガー全体がいつまでも温か。マヨネーズやタルタルソースがいい感じにとろけて、「じゅるっ」と流れ出しているのも特徴です。

バーガーメニューは現在11品ありますが、メニュー表に載っていないものもあります。まずは最もシンプルな「チーズバーガー」から。東京バンビのバーガーは「チーズバーガー」からスタートしています。

 

パティは豪州牛116g。店で小間切れにカットしたモモ肉と、肉屋で挽いた肩ロースとを半分ずつ合わせて鉄板でグリル。バンズは地元のパン店作。白ゴマと黒ゴマをのせたやや平らな形状で、甘味を出すために「りんごジュース」を入れているという前代未聞の珍バンズです。

「チーズバーガー」1,150円

平たくて食べやすいですが、結構“甘い”です。ヒール(下バンズ)にはハニーマスタード。タルタルソースも甘めで、極め付けはりんごジュース入りのバンズの甘味。さらにコショウ強め、マヨネーズも多めで、“マヨラー系”のバーガーかとも思いました。これが東京バンビの、まずは基本のバーガーです。

 

さてでは、これより三本勝負! 東京バンビのバーガーにはどんなアレンジが合うのか、じっくりと探ってゆきましょう。一品目は「レッドホット」。ホットソースとサワークリームのバーガーです。

「レッドホットバーガー」1,200円

自家製のホットソースはタバスコをベースに、コーラ、イチゴジャムなどを加えたもので、辛くて甘い、強いて言うなら「焼肉のタレ」に近い感じでしょうか。そこへサワークリームが“ほわっ”とのって、これらが挽きの強いゴロゴロ肉のパティの上でいい感じに踊っています。しかしドギツくなく、ギラギラしていないところがポイント。辛いけれど、淡い酸味と甘味がある、そんな一品。鉄板の上で熱せられて野菜もホット!

 

二品目は「チリチーズ」です。これはメニュー表にない裏メニュー。富田さんがチリを仕込んだ時だけ食べられます。

「チリチーズバーガー」1,300円

チリは合い挽き肉使用で豆なし。ニンニクが非常に利いていて、かなり強い味です。口の周りがヒリヒリするくらいの辛さの上に、チェダーチーズが「べっとり」とコク味を利かせて、そこへ例のバンズの「りんごジュース」の甘味。チーズバーガーを食べた時には余計に感じたこの甘味が、チリとチーズの濃い味わいをうまい具合に“受けて”います。受け身のとれるバンズなんですね。

 

そして三品目は、富田さんが気まぐれで作った限定バーガーの中から、最も反響があった「タルタルらー油」バーガーです。これも味がサマになっています。

「タルタルらー油バーガー」1,250円

食べるラー油の辛味とタルタルソースが織り成す「甘辛」味に対して、今度は粗い肉感のパティが良き受け手となっています。バンズの甘味もそこへ絡んで、辛くて甘くてトゲもあるけど、丸くてやわらかい。そんな、いい具合にマイルドに落ち着いた一品です。パティは、半分入ったカット肉が利いて、コリコリと言うか“クニクニ”とした弾力。タルタルに入るオニオンもサクサクと心地ちよい食感です。

 

ということで、東京バンビのバーガーは、パティとバンズのベースの味が強いので、“濃い味”“強い味”をのせると、ガッチリ組み合って、見事にその味を“受けて”くれます。特にバンズは結構な剛速球でも受け止めてくれる名捕手です。ですから、東京バンビでは濃いめ、強めのバーガーがおすすめ! “ガツン!”と食べごたえのある、おいしいヤツに出合えます!

なお、東京バンビという店名ですが、これは「覚えやすい名前」という、ただそれだけのことで、特に意味はありません。まず「バンビ」という言葉が頭に浮かび、後から「東京」を足したそうです。

 

おしまいに――。2019年12月10日現在、「東京都」「ハンバーガー」をキーワードに食べログで検索すると、「1,283」店がヒットします。1年前の同日と比べて「10」店の増。その1,283店から大手チェーンの数を除くと、残りは「531」店で、こちらも前年より「8」店増。ハンバーガーを扱う店は地味ながら増え続けています。今年はいよいよオリンピックイヤー。東京のハンバーガー、日本のハンバーガーの実力をいよいよ世界に知らしめるときがやって来ました。2020年は日本のハンバーガーにとっても晴れ舞台です! 選手に負けない活躍を期待しています!

 

※価格はすべて税込

 

 

取材・文・写真:松原好秀